「コリウス」

コリウスは、鮮やかな葉色が魅力のシソ科の植物です。赤や黄色、緑、紫など葉の色や模様が豊富で、花は初夏から秋にかけて小さな青紫色や白色の花を穂状に咲かせます。彩り豊かな葉を楽しむ植物として親しまれています。
基本情報
- 名称:コリウス
- 学名:Coleus
- 科・属:シソ科・プレクトランサス属
- 原産地:東南アジアなどの熱帯・亜熱帯地域
- 分類:多年草(日本では主に一年草として扱われる)
- 観賞時期:5月~10月頃
- 花の色:白、淡紫色、紫色など
- 葉の色:緑、赤、紫、黄色、ピンクなど、品種によってさまざま
- 名前の由来:「コリウス」は、かつて分類に使われていた属名に由来する呼び名
- 主な用途:花壇や鉢植え、寄せ植えなどの観葉植物として親しまれている
コリウスについて

特徴
- 花よりも、鮮やかで美しい葉を楽しむ植物として知られている
- 葉には赤、紫、緑、黄、ピンクなどさまざまな色や模様が入り、品種によって表情が大きく異なる
- 葉の形や大きさも品種によって異なり、ギザギザしたものや丸みを帯びたものなどがある
- 夏から秋にかけて、茎の先に小さな花を穂状に咲かせる
- 花は可愛らしいものの、観賞の中心は色鮮やかな葉にある
- 日当たりや温度などの環境によって、葉の色合いや模様が変化することがある
- 生育が旺盛で、摘心すると枝分かれしてこんもりとした姿に仕立てやすい
- シソ科らしい特徴として、茎の断面が四角形になっている
- カラフルな葉が長く楽しめるため、夏の花壇や寄せ植えのアクセントとして人気がある
花言葉:「かなわぬ恋」

由来
- コリウスは、美しい葉を持ちながら、花そのものは小さく目立たないという特徴があります。この姿が、華やかに咲きたいと思いながらも、その想いを表に出せない姿に重ねられたと考えられています
- 鮮やかで魅力的な葉の陰に、ひっそりと小さな花を咲かせる姿が、人知れず抱える恋心を連想させる
- どれほど美しく咲こうとしても、葉の存在感が強く、花が主役になりにくいことから、届かない想いや報われない恋のイメージにつながったとも考えられる
- コリウスの葉が持つ華やかな美しさと、控えめな花との対比には、好きな人の前では自分の気持ちを伝えられない、秘めた恋の切なさが感じられる
- 「かなわぬ恋」という言葉には、ただ失恋するという意味だけでなく、どれほど強く願っても届かない想いを胸に抱き続ける切なさが込められている
- こうした**「鮮やかな葉の陰に咲く小さな花」「表に出せない想い」「届かない恋の切なさ」**が重なり、コリウスの花言葉「かなわぬ恋」につながったといえるでしょう。
「葉陰に咲く恋」

夏の終わりが近づくと、庭のコリウスがいっそう鮮やかな色を見せる。
赤紫、深い緑、淡い黄色、そして紅色。
一枚一枚の葉に違う模様が浮かび、朝の光を浴びるたび、庭の片隅が小さな絵画のように華やいでいく。
けれど、その葉の間から細い茎を伸ばして咲く花に気づく人は、ほとんどいない。
白や淡い紫色の小さな花。
華やかな葉に囲まれながら、ひっそりと咲いている。
美しいのに、誰にも見つけてもらえない。
私は、その花を見るたびに、あの人のことを思い出していた。
* * *
「今年も綺麗に咲いたね」
母の声に、私は庭先でしゃがんだまま顔を上げた。
「うん。去年より葉っぱが綺麗かも」
「あなたが毎日水をあげてるからじゃない?」
「水くらい、誰でもあげられるよ」
そう言って笑ったけれど、本当は少し違っていた。
私は毎朝、コリウスを見るのが好きだった。
水をあげるためだけではない。
葉の隙間を探すためだった。
そこに、小さな花が咲いているかどうかを確かめるためだった。
花を見つけると、私はいつも少しだけ嬉しくなった。
誰にも気づかれないところで、ちゃんと咲いている。
その姿が、どこか自分に似ているような気がした。
私にも、誰にも言えない想いがあった。
名前は、直樹。
高校時代からの友人だった。
卒業してからも時々会い、近況を話したり、昔の思い出を笑い合ったりした。
何でも話せる人だった。
仕事のこと。
家族のこと。
これからやりたいこと。
失敗した話も、嬉しかった話も、直樹には不思議なくらい自然に話せた。
だからこそ、私は言えなかった。
好きだということを。
ずっと好きだったということを。
* * *
ある秋の夕方、直樹から電話がかかってきた。
「久しぶり。今度、時間ある?」
「あるよ。どうしたの?」
「ちょっと話したいことがあって」
その声を聞いた瞬間、胸が小さく跳ねた。
もしかしたら。
そんな期待が、心の奥から顔を出した。
けれど、その期待はすぐに消えることになる。
待ち合わせた喫茶店で、直樹は少し照れながら笑った。
「実はさ、結婚することになった」
一瞬、周りの音が遠くなった。
カップを置く音も。
店内に流れる音楽も。

窓の外を走る車の音も。
何も聞こえなくなったような気がした。
「……そっか」
やっと出てきた言葉は、それだけだった。
「うん。来年の春に」
「おめでとう」
「ありがとう」
直樹は嬉しそうだった。
その笑顔を見て、私は笑った。
「よかったね」
「うん」
その一言を口にしただけなのに、胸の奥が痛かった。
本当は言いたかった。
私もあなたが好きだった。
ずっと前から。
あなたと一緒にいるときが、一番自然な自分でいられた。
何度も伝えようと思った。
何度も言葉を探した。
けれど、結局、一度も口にできなかった。
私はいつも、彼の隣で笑っているだけだった。
友達という場所から、一歩も踏み出せなかった。
「今度、彼女も一緒に会おうよ」
直樹がそう言った。
「うん。そうだね」
私は笑った。
それが精いっぱいだった。
* * *
家に帰ると、日が暮れかけていた。
庭のコリウスは、夕暮れの光の中でも鮮やかだった。
赤紫色の葉。
緑の葉。
黄色い縁取りの葉。
まるで、何も悲しいことなどないと言うように、堂々とそこに立っている。
私はその葉を眺めながら、しゃがみ込んだ。
そして、葉の隙間に小さな花を見つけた。
「……咲いてたんだ」
白い小さな花だった。
あまりにも小さくて、昼間なら見落としていたかもしれない。
私はそっと指を近づけた。
触れることはしなかった。
ただ、そこに咲いていることを確かめた。
そのとき、不思議な気持ちになった。
この花は、誰かに見てもらうために咲いているのだろうか。
葉より目立つために咲いているのだろうか。
きっと、違う。
ただ、自分の季節を迎えたから咲いている。
誰に気づかれなくても。
誰に褒められなくても。
誰かの隣に立てなくても。
静かに、自分の場所で咲いている。
私はその花を見つめたまま、涙をこぼした。
「私も……そうだったのかな」
好きだと伝えられなかった。
彼の隣に立つこともできなかった。
想いは届かなかった。
けれど、だからといって、この恋が最初から無意味だったわけではない。
直樹を好きになったことで、私はたくさんの時間を大切に思えた。
彼と話した日。
一緒に帰った夕暮れ。
くだらないことで笑った時間。
進路に悩んだ夜に電話をしたこと。
何気ない一言に励まされたこと。
それらは、誰かに奪われるものではない。
かなわなかったからといって、消えてしまうものでもない。
私は初めて、そう思った。
* * *

それからしばらくして、私は庭のコリウスを少しだけ剪定した。
伸びすぎた枝を切り、風が葉の間を通るようにした。
すると、今まで隠れていた小さな花が、いくつも見えるようになった。
「こんなに咲いてたんだ……」
私は驚いた。
毎日見ていたはずなのに。
鮮やかな葉ばかり見ていて、その陰に咲いていた花には気づかなかった。
人の心も同じなのかもしれない。
表面だけを見ていると、本当に大切なものを見落としてしまう。
華やかな笑顔の裏側に、悲しみを抱えている人もいる。
平気そうにしていても、誰にも言えない想いを抱えている人もいる。
そして、自分自身でさえ気づかないまま、心の奥に小さな気持ちを隠していることもある。
私はもう、直樹に想いを伝えようとは思わなかった。
結婚すると聞いたあの日から、何度も考えた。
もし、もっと早く伝えていたら。
もし、あのとき勇気を出していたら。
もし、別の言葉を選んでいたら。
そんな「もし」を何度も繰り返した。
けれど、どれだけ考えても、過去は変わらない。
ならば、届かなかった想いを無理に誰かへ届けようとするのではなく、自分の中で大切にしまっておこう。
そう思えるようになった。
* * *
冬が過ぎ、春になった。
直樹から結婚式の写真が届いた。
幸せそうな二人が写っていた。
私はしばらく画面を見つめたあと、
「おめでとう。幸せになってね」
と返信した。
送信ボタンを押した瞬間、胸の奥に残っていた何かが、静かにほどけていくような気がした。
泣かなかった。
悲しくなかったわけではない。
ただ、ようやく自分の恋を、自分自身で受け止められたのだと思った。
それから数か月後。
庭では、またコリウスが葉を広げ始めた。
赤紫色の葉の陰から、細い茎が伸びている。
やがて、その先に小さな花が咲くだろう。
私はその花を見つけるのが楽しみだった。
もう、誰かに見つけてもらう必要はない。
自分が見つけてあげればいい。
そう思った。
かなわぬ恋だった。
願っても届かなかった。

隣にいる未来を選ぶこともできなかった。
それでも、あの人を好きだった時間まで否定する必要はない。
人を好きになることは、ときに苦しい。
伝えられない想いを抱えることは、もっと苦しい。
けれど、その想いがあったからこそ見えた景色もある。
誰かを大切に思う気持ちを知った。
誰かの幸せを願うことの難しさも知った。
そして、自分の心にも、そっと寄り添えるようになった。
庭を渡る風に、コリウスの葉が揺れた。
鮮やかな葉の間から、小さな花が顔を出している。
私は微笑んだ。
「今年も、ちゃんと咲いたね」
誰に聞かせるでもなく、そう呟いた。
その花は何も答えない。
ただ、静かに咲いている。
華やかな葉の陰で。
誰にも知られない場所で。
それでも確かに、自分の命を咲かせている。
私はその姿を見つめながら、ようやく思えた。
かなわなかった恋も、私の人生の一部なのだ。
叶わなかったから、価値がないのではない。
届かなかったから、消えてしまうのでもない。
胸の奥で大切に育てた想いは、いつか形を変えて、自分自身を支えるものになる。
だから私は、もう振り返らない。
あの日々を忘れるのではなく、そっと胸の奥にしまって、前を向いて歩いていく。
コリウスの小さな花のように。
誰かに気づかれなくてもいい。
誰かの一番になれなくてもいい。
自分の心に正直に。
自分の季節を、自分らしく咲いていけばいい。
風が吹いた。
色鮮やかな葉が一斉に揺れ、その隙間から小さな花が覗いた。
まるで、長い間隠していた恋心が、最後にそっと微笑んでいるようだった。