「ハイビスカス」

基本情報
- 科名/属名:アオイ科/フヨウ属(Hibiscus)
- 学名:Hibiscus (Hibiscus rosa-sinensis)
- 原産地:ハワイ諸島、モーリシャス島
- 分類:常緑低木(一部は多年草)
- 開花時期:5月〜10月(暖地では通年)
- 花色:赤、ピンク、黄色、オレンジ、白、紫など多彩
- 別名:ブッソウゲ(仏桑花)
ハイビスカスについて

特徴
- 南国の花の代表格
大きく鮮やかな花を咲かせることから、トロピカルなイメージを持つ花として有名です。 - 一日花
多くの品種は「一日花」で、朝咲いて夕方にはしぼむという儚い性質を持っています。ただし次々に新しい花を咲かせ、長期間楽しめるのが魅力です。 - 開花力が高い
温暖な気候を好み、日光を浴びるほどよく花をつけます。庭植え・鉢植えどちらでも育てやすく、ガーデニングにも人気。 - 花の構造
5枚の大きな花びらと、中央に長く突き出た「雄しべ・雌しべ」が特徴的。花の形がダイナミックで、遠目からでも目立ちます。
花言葉:「繊細な美」

ハイビスカスにはさまざまな花言葉がありますが、「繊細な美(delicate beauty)」は特に以下の点に由来すると考えられています。
◎ 一日でしぼむ花の儚さ
見事に咲いたその美しさは、わずか一日で終わってしまう――
この「儚さ」と「美しさ」の対比は、まるで一瞬の中に宿る美のようであり、まさに「繊細な美」を象徴しています。
◎ 花びらの質感と色合い
ハイビスカスの花びらは薄くて柔らかく、光を通すほど繊細。
さらに赤やピンク、黄色などの鮮やかな色彩が、やさしくも華やかな印象を与えます。
◎ 美しくも傷つきやすい存在
南国の強い日差しの中で輝く姿は生命力にあふれていますが、ちょっとした環境の変化で傷んでしまうほどデリケート。
そんな特性も「繊細な美」という言葉にぴったりです。
「一日だけの約束」

海風が静かに吹く、南の島の小さな入り江。
今日も、崖のふちに咲いた真紅のハイビスカスが、朝の光を受けてそっと開いた。
「やっぱり、今日も咲いてるんだね」
椰子の木の下に立つ青年・奏太は、しゃがみ込んでその花に視線を落とした。
隣には、旅先で出会った少女――真白(ましろ)が立っている。真っ白な帽子と、淡いピンクのワンピースが風に揺れていた。
「この花、一日でしぼんじゃうんだって。夕方にはもう閉じちゃう。だから……朝のこの時間が、一番きれい」

真白はそう言って、少し寂しそうに微笑んだ。
奏太は彼女とこの島で出会って、もう三日目だった。宿も偶然同じで、朝になると不思議と決まってこの崖に向かって歩く。話すことは多くないけれど、なぜか言葉がなくても居心地がよかった。
「なんか、お前みたいだな」
「……え?」
「朝の光の中でだけ咲いてて、ふっといなくなっちゃいそうな感じ」
真白は驚いたように目を見開き、やがて困ったように笑った。
「……あたしね、病気なの」
「え……」

その声はあまりにあっけなく、波の音に溶けるようだった。
「すぐにどうこうってわけじゃないけど、体の中に、ずっと“夕方”が迫ってるの。あたしの“今”って、朝のうちだけなのかもしれない。だから……朝の花が好き」
赤いハイビスカスが、風に揺れていた。
触れたら壊れてしまいそうなほど柔らかい花びら。だけど、その色はまっすぐで、あざやかで、命を抱いていた。
「わたし、自分のことをこの花みたいだなって思ってる」
「……繊細な美、ってやつか」
「うん。強く咲いてるのに、ふとしたことで傷ついちゃう。でも、それでも咲きたかったんだって、思えるようになった」

奏太は返す言葉が見つからなかった。ただ、少しだけ手を伸ばして、真白の帽子のつばを押さえた。風が吹いていた。小さな花も、彼女の髪も、時間もすべて、ほんの一瞬のまぶしさの中にあった。
やがて、彼女が小さく言った。
「明日、東京に戻るんだ」
「……そっか」
「でも、この島の朝のこと、ずっと忘れない。ねえ、またいつか咲けると思う? わたしの中の花」
奏太は少し笑って、そっと答えた。
「咲くよ。今みたいに、光をちゃんと見てれば。朝は、何度でも来る」
真白は目を伏せ、もう一度ハイビスカスを見た。
まるで、自分の心を映すような、真っ赤な一輪の花。
それはたった一日でしぼむ花だった。けれど、誰よりも鮮やかに、自分の時間を咲かせていた。