「クズ」

基本情報
- 和名:クズ(葛)
- 学名:Pueraria montana var. lobata
- 科属:マメ科クズ属
- 開花時期:7~9月
- 分布:日本をはじめ、東アジア一帯に自生。山野、河原、道路脇など身近な場所で見られる。
- 利用:根から採れる「葛粉(くずこ)」は吉野葛として和菓子や薬用に用いられる。生薬としても古くから親しまれ、解熱や解毒の効果があるとされた。
クズについて

特徴
- つる性植物
強靭なつるを伸ばし、木やフェンス、建物などに絡みつきながら繁茂する。1日で1m以上伸びることもあり、その生命力は圧倒的。 - 葉
3枚の小葉からなる複葉。大きく広がり、夏には緑陰をつくる。 - 花
夏の終わりから秋にかけて、濃い紫紅色の蝶形花を房状につける。甘い香りがあり、ミツバチなどを引き寄せる。 - 根
大きく肥厚した根にはデンプンが豊富に含まれ、葛粉の原料となる。
花言葉:「芯の強さ」

由来
クズに「芯の強さ」という花言葉が与えられた背景には、以下のような理由があります。
- 圧倒的な生命力
クズは土壌がやせていても育ち、強い繁殖力でつるを四方に伸ばす。どんな環境でもしっかり根を張り、生き抜く姿が「強い芯」を連想させる。 - 根の存在感
地上のつるは刈り取られても、地下の太い根が生きている限り、翌年また芽を出す。その「見えない部分の強さ」が芯の強さを象徴する。 - 薬用・食用としての力
根から得られる葛粉は、古来より滋養や解熱の薬として用いられ、人々の健康を支えてきた。その「内に秘めた力」が強さと重ねられた。
→ これらの特性から、クズは「表面では絡みつく柔らかいつる」でありながら「内に強靭な芯を持つ植物」と見なされ、この花言葉が生まれたと考えられます。
「葛の物語」

祖母の庭の片隅に、葛のつるがからみついていた。
夏の終わりになると、紫紅色の小さな花が房をなして咲き、甘やかな香りが漂ってくる。その香りは、いつもどこか懐かしい。
私は幼いころから、その葛を少し厄介者のように思っていた。放っておくと、ものすごい勢いでつるを伸ばし、隣の木々を覆い隠してしまうからだ。祖母もよく「困った子だよ」と笑いながら剪定ばさみで切っていた。だが、切られても切られても、翌年になるとまた青々と芽を出す。まるで「私はまだここにいる」と言わんばかりに。

高校に進学して間もなく、私は人生で初めて大きな挫折を味わった。ずっと目指してきた部活動の大会で、努力を尽くしたはずなのに、結果はあっけなく敗北。悔しさと虚しさが入り混じり、私はしばらく部室にも顔を出せなかった。
そんなある日、祖母の庭でぼんやりと葛の花を見ていたとき、祖母が声をかけてきた。
「負けたからって、全部が終わるわけじゃないんだよ」
私はうつむいたまま黙っていた。すると祖母は葛の根元を指差して言った。
「この子を見てごらん。毎年切られても、根っこがしっかりしてるから、また芽を出すんだよ。地面の下には太い芯がある。見えないけれど、それがあるから強いのさ」

その言葉は、胸の奥にじんわりと染み込んだ。
後で調べてみると、葛の根からとれる葛粉は、古くから滋養や薬として重宝され、人を癒す力を持っていると知った。外からはただの雑草のように見えるけれど、内には大切な力を秘めている。祖母が言う「芯」とは、きっとそういうことなのだろう。
私は再び部室へ足を運んだ。すぐに結果が出せるわけではなかったが、それでも練習を続けた。刈られても、また芽を出す葛のように。
やがて卒業の日、庭の葛は今年も伸びて、花をつけていた。私は祖母に言った。

「葛って、やっぱりすごいね。あんなに柔らかそうなのに、芯は誰よりも強い」
「そうだよ。人も同じさ。見た目じゃなくて、内に何を持っているか。それが大事なんだよ」
祖母の言葉に、私は静かにうなずいた。
風に揺れる葛の花が、まるで「負けても大丈夫。また立ち上がれる」と語りかけてくるように思えた。
――芯の強さ。
それは倒れても根を張り続ける力であり、目には見えなくても心に宿る灯のようなもの。
葛はいつも、そのことを私に教えてくれている。