「ゼラニウム」

🌸ゼラニウムの基本情報
- 学名:Pelargonium Zonal Group
- 科名:フウロソウ科(Geraniaceae)/テンジクアオイ属(ペラルゴニウム属)
- 原産地:南アフリカ・ケープ地方
- 開花時期:3月~12月上旬(温暖な環境下では通年開花も可能)
- 草丈:30〜60cm程度
- 分類:多年草(日本では一年草扱いされることも)
- 耐寒性:やや弱い(霜に注意)
ゼラニウムについて

🌿特徴
- 鮮やかな赤、ピンク、白、紫など、豊富な花色があります。
- 独特の香りがある葉(特に「センテッドゼラニウム」と呼ばれる品種群は、レモンやローズのような香りを持つ)。
- 鉢植えやハンギングバスケット、花壇にも向いており、剪定にも強く、形を整えやすい。
- 害虫(特に蚊)を寄せ付けにくいとされ、虫除けとしても人気。
花言葉:「思いがけない出会い」

ゼラニウムの花言葉のひとつに「思いがけない出会い」があります。これにはいくつかの説がありますが、主な由来とされるのは次の通りです:
- 多様性と予測できない花色:ゼラニウムには多種多様な品種や花色が存在し、咲いてみるまで分からない微妙な色の違いなどが「予期せぬ出会い」を象徴しているとされます。
- 異国情緒からの着想:もともと南アフリカ原産でありながら、世界中で親しまれるようになったゼラニウムは、異文化交流の象徴とも捉えられ、それが「思いがけない出会い」というイメージに繋がったという説も。
- 香りによる驚き:香り付きの品種(センテッドゼラニウム)は、見た目とのギャップで人々を驚かせることがあり、それも「思いがけない体験(出会い)」と結びついています。
「風の匂い、花の声」

駅前の小さな花屋に勤めて三年になる佐知子は、毎日同じ道を歩き、同じ時間に店を開け、変わらない日常に安心していた。
「変化のない日々は、心に優しい」と思っていた。けれど、時折その“優しさ”が、少しだけ息苦しくなる朝もある。
ある春の日、開店準備をしていると、店の隅に並べたゼラニウムの鉢植えのひとつが、風に揺れながらほのかにレモンのような香りを漂わせた。
「あれ、こんな香りの子、仕入れてたっけ?」
首をかしげながら手に取ると、見慣れた花のはずなのに、そのゼラニウムはどこか不思議な雰囲気をまとっていた。

その瞬間、背後から声がかかった。
「それ、うちの祖母が育ててたのと同じ香りがします」
振り向くと、見知らぬ青年が立っていた。背は高く、控えめな笑顔を浮かべている。
「センテッドゼラニウム、ですよね。香りのあるやつ」
佐知子は思わず、「詳しいんですね」と答えた。
彼――名は遼(りょう)と言った――は、かつて植物学を学び、今は町の図書館で働いているという。ゼラニウムは祖母が大事にしていた花で、その香りに誘われて、ふらりと花屋に入ってきたのだと話した。
それが、佐知子と遼の“出会い”だった。

翌日も、その次の日も、遼は昼休みにゼラニウムの様子を見にやって来た。佐知子もまた、遼の来訪を心待ちにするようになった。二人は花の話、音楽の話、そして子どものころの夢について語り合った。
ある日、遼が言った。
「ゼラニウムって、思いがけない出会いって花言葉があるんですって」
「うん、知ってる。色も香りも、咲くまで分からないのが魅力なんだよね」
佐知子はそう言いながら、ふと気づいた。
遼との出会いそのものが、まさに“思いがけない”ものだったことに。

季節は初夏へと移り変わり、ゼラニウムたちはより鮮やかに色づいていく。
香りも強くなり、通りを歩く人が立ち止まることも増えた。
ある日、遼が一本の鉢を指さした。
「これ、咲きそうだね」
「ね、でも何色の花が咲くのか、まだわからないの」
「じゃあ、咲いたら教えて。僕、その色が、なんだか大切な色な気がする」
佐知子は笑ってうなずいた。
そしてその夜、久しぶりに胸が高鳴る感覚に気づいた。
~ Epilogue ~
数日後、そのゼラニウムは淡いピンク色の花を咲かせた。
まるで、二人の新しい物語の始まりを告げるかのように。