「ペンタス」

基本情報
- 学名:Pentas lanceolata
- 和名:クササンタンカ(草山丹花)、別名:エジプシャンスター(Egyptian Star Flower/Star Cluster)
- 科属:アカネ科・ペンタス属
- 原産地:熱帯東アフリカ〜アラビア半島(イエメンなど)
- 分布:一年草として一般的だが、霜の降りない温暖地(USDAゾーン10~11)では多年草
ペンタスについて

特徴
- 花の形・色:径1〜2cmの星型咲きの花が散房状(半球形)に密集。赤・ピンク・白・紫・ラベンダーなどバリエーション豊富で、バイカラーや八重咲きもある
- 草丈・大きさ:草丈30〜80cm(種苗改良品種では矮性で30cmほど)。原種では最大で高さ1.5mになることもある
- 育ちやすさ:日当たりと水はけの良い場所を好み、夏の暑さや乾燥に強く、病害虫にも比較的強い
- 花期:5〜10月頃まで長時間咲き続け、連続開花性が高く、切り戻しや花がら摘みをするとさらに長持ち
- 魅力:蝶やハチ、ハチドリなどの花粉媒介者を引き寄せ、ガーデニングや寄せ植えに人気
花言葉:「希望が叶う」

ペンタスの花姿が「星が集まったよう」に見えることから、願い事を星に託すイメージと重なり、「希望が叶う」「願い事」という花言葉になったとされています
学名の “pentas” はギリシャ語の「5(pente)」に由来し、花びらが5枚であることに由来。星形に見えること、規則正しい花姿から「調和」「願い」「希望」という象徴性も評価されています
「星を集める庭」

「おばあちゃん、この花の名前、なあに?」
少女が指差したのは、小さな鉢に咲いた星のような赤い花だった。
「それはね、ペンタスって言うの。五枚の花びらが集まって、まるで夜空の星みたいでしょう?」
陽の傾き始めた夕方、小さな花屋の奥で、祖母はいつものように穏やかに笑った。
夏休みの間、花屋に預けられていた美羽は、最初こそ退屈で仕方なかったけれど、次第に店の一角の小さな花壇が気に入りはじめていた。
「この花、願い事が叶うんだって」
「ほんとに?」

「ほんとよ。昔の人は、夜空の星に願いを託してたでしょ? この花はね、まるでその星が地上に降りてきたみたいだから。だから、“希望が叶う”って花言葉がついたの」
美羽は小さく頷いた。家では両親がいつも忙しそうで、まともに話すことも少なかった。自分の気持ちを話しても、いつも「あとでね」で終わってしまう。
でも、ここにいると、誰かが耳を傾けてくれるような気がした。
「願いごと、してもいい?」
「もちろん」

少女は両手をそっとペンタスの鉢に添えた。そして、目を閉じてつぶやいた。
「また、家族みんなで夕ご飯を食べられますように」
静かな風が吹いた。葉が揺れて、ペンタスの花もわずかに震えた。
それから数日、美羽は毎日その鉢を世話し、水をやり、咲いた花を数えては笑った。
夏休みの最後の日、母が迎えに来た。花屋の前で、美羽は一鉢のペンタスを抱えていた。
「おばあちゃん、この花、持って帰ってもいい?」

「いいわよ。あんたの願いが詰まってるんだもの」
家に戻ってすぐ、美羽は食卓の真ん中にその鉢を置いた。夕方、珍しく父も母も時間通りに帰ってきて、揃って食卓に座った。
「……なんか、久しぶりだね、こうやって食べるの」
母が笑って言った。
「うん。なんか、星が降ってきたみたい」
美羽の視線の先には、小さな星たちが咲くペンタスの花があった。
その夜、窓の外を見上げると、本物の星空が広がっていた。けれど、美羽はもう空に願いをかける必要はなかった。
彼女の願いは、もうそこに咲いていた。