「アサガオ」

基本情報
- 和名:アサガオ(朝顔)
- 学名:Ipomoea nil (アサガオ)、Ipomoea tricolor (ソライロアサガオ)
- 科名/属名:ヒルガオ科/サツマイモ属
- 原産地:熱帯から亜熱帯地域
- 開花時期:7月中旬~10月上旬
- 花色:青、紫、桃、白など
- 草丈:20〜300cm(つる性で支柱に絡んで成長)
- 特徴:一日花(朝開いて昼頃にはしぼむ)
アサガオについて

特徴
- 朝に咲いて昼にしぼむ「一日花」
アサガオの名の通り、朝になると花が開き、日差しが強くなる昼頃にはしぼんでしまいます。咲いている時間はとても短く、繊細な命のように感じられます。 - つるを伸ばして成長
支柱やネットに絡みついてどんどん伸びる様子は、夏の風物詩として親しまれています。緑のカーテンとしても人気があります。 - 江戸時代に大流行した園芸植物
日本では特に江戸時代に多くの品種改良が行われ、「変化アサガオ」と呼ばれる珍しい形や色の品種が競われました。
花言葉:「はかない恋」

アサガオの花言葉「はかない恋」は、その一日でしぼむ花の性質に深く関係しています。
◆ 一瞬だけ咲いて消える恋のように
朝に美しく咲き誇りながらも、昼過ぎにはしおれてしまう――その儚く短い命が、まるで一瞬のきらめきのような淡い恋心を思わせることから、「はかない恋」という言葉が生まれました。
◆ 江戸の文芸や浮世絵にも影響
アサガオは江戸時代の詩や物語にもよく登場し、報われない恋心や、一夜限りの想いを象徴するモチーフとして描かれています。
◆ 朝の美しさと、昼の消失
咲いたときの美しさが際立つ分、すぐに消えてしまうその姿が、「出会えた奇跡」と「別れの予感」を同時に想起させる――そこにロマンティックな哀しさが宿ります。
「朝顔の咲く頃に」

その夏、私は毎朝、決まって六時にベランダのカーテンを開けるようになった。
そこには、淡い紫のアサガオが、まるで私を待っていたかのように静かに咲いていた。
「花って、誰かのために咲くんじゃなくて、自分のリズムで咲いてるんだよ」
そう言ったのは、あの人だった。
隣に住んでいた大学生の青年――直樹さん。二十代半ばの、どこか影のある人だった。
私が中学生になったばかりの初夏。母に頼まれて、彼に回覧板を届けたのが最初だった。

無口だけど優しい人だった。
鉢植えのアサガオに水をやる姿が妙に静かで、心に残った。
「どうして朝顔なんですか?」と私が聞くと、
「一日でしぼむってところが、いいんだよ」と彼は少し笑った。
「朝しか見られない。だから大事にできる。恋も、そんなもんかもしれないな」
その言葉の意味は、当時の私にはよくわからなかった。
けれど、彼の視線がアサガオに落ちるたび、何かとても遠い人に想いを寄せているような気がして、胸がきゅっとなった。

夏休みが始まる頃、彼の家に変化があった。誰かと電話でよく話すようになり、夜遅くまで灯りが消えなかった。
私が声をかけると、「夏が終わったら、東京に戻るよ」とだけ言った。
「何か、あったんですか?」と尋ねると、彼は少しだけ目を細めて、
「朝顔みたいな恋をしてたんだ。綺麗だけど、すぐ終わるやつ」とつぶやいた。
私はなぜか、その言葉が胸に深く残った。
恋をしていたんだ、とそのとき初めて知ったのに、もうその恋は終わったのだということも分かった。

八月の終わり。朝顔の花は少しずつ減り、葉も疲れたように色を落とし始めた。
彼の部屋の窓はもう開くことはなく、鉢植えのアサガオだけが静かに最後の花を咲かせていた。
そして九月、直樹さんはひとことも挨拶をせず、部屋を引き払っていった。
残されたのは、錆びた支柱と、しぼんだ花のついたアサガオの鉢。
それから何年も経った今も、私は毎年アサガオを育てている。
朝、その花が開くたびに思い出す。
誰かを想っていた人の横顔と、静かに終わっていった「はかない恋」の話を。
たとえ一瞬でしぼんでしまう恋でも――咲いたことには、きっと意味がある。