「クレオメ」

基本情報
- 和名:セイヨウフウチョウソウ(西洋風蝶草)
- 学名:Cleome hassleriana
- 科名/属名:フウチョウソウ科/クレオメ属
- 原産地:熱帯アメリカ
- 開花時期:6月~10月(初夏~秋)
- 草丈:60〜150cmほどになる高性草花
- 一年草(※寒冷地では扱いは一年草)
クレオメについて

特徴
◎ 風に舞う蝶のような花姿
クレオメは、長い雄しべと雌しべが外へと飛び出したようなユニークな形状の花を咲かせます。その姿は、まるで蝶が舞っているかのように見えることから、和名では「風蝶草」と呼ばれています。
◎ 個性的で幻想的な咲き方
花は茎の上部に穂状に咲き進み、下から上へと開花していくため、常に咲きかけとつぼみが混在したような不思議な印象を与えます。その独特の構造が、ミステリアスな雰囲気を醸し出します。
◎ 夜にも咲く神秘性
クレオメの花は昼夜問わず咲いていることが多く、夕暮れや夜にも花を開いている姿が見られます。夕闇の中、ほのかに浮かぶその姿にはどこか秘密めいた美しさがあります。
花言葉:「秘密のひととき」

クレオメに与えられた花言葉「秘密のひととき(A Secret Moment)」は、次のような要素に由来していると考えられます。
● 幻想的な花姿と静寂の時間
クレオメの花は、日没後や夜間にも開花を続け、周囲が静まり返った時間帯でも、まるで誰にも気づかれずに咲いているかのようです。この“誰にも知られずに美しく咲く”様子が、まさに「秘密のひととき」を象徴しているといえるでしょう。
● 長い雄しべが作る繊細なシルエット
その繊細で複雑な花の構造は、近くでじっくり見ないとわからないほど繊細であり、それが「誰かとだけ分かち合う秘密」のような雰囲気を漂わせています。
● 見過ごされやすい美しさ
派手すぎず、どこか儚さを含んだ美しさは、短くても記憶に残る静かな時間――たとえば、夕暮れ時に誰かと過ごした特別な瞬間――を連想させます。
✧ おわりに
クレオメは、その独特な美しさと、静けさの中にひそむ魅力によって、「秘密のひととき」という詩的な花言葉を与えられた花です。風にそよぎ、誰にも見られずとも美しく咲くその姿は、まるで誰かとの心の中だけにある、大切な思い出のようです。
「秘密のひととき」

あの夏の終わり、私は祖母の古い家で、一輪の花に出会った。
都会の喧騒に疲れ、何も告げずに帰省したのは、八月の終わりだった。山に囲まれたその町は蝉の声も薄らぎ、空気にわずかな秋の気配が混じっていた。
「庭に咲いてるクレオメ、見たかい?」
ふと立ち寄った近所の商店で、懐かしい声がした。祖母の友人であるその女性は、私が小さな頃に庭で遊んでいたのを覚えていて、「おばあちゃんが毎年植えていたんだよ」と笑った。

その足で、祖母の庭に戻った。長く手入れをしていない庭は少し荒れていたが、裏手の塀の近くに、それは確かに咲いていた。
すらりと背を伸ばした花茎の先に、羽のように広がる薄紫の花。その中心から長く伸びる雄しべが、まるで蝶の触角のように風に揺れている。どこか異国めいた佇まいで、周囲の雑草とは明らかに違う気配を放っていた。
近づいてみると、花のつくりはとても繊細だった。線の細い花弁と、そこから飛び出すような雄しべ。輪郭が曖昧になるほどに、夜の空気の中でふわりと浮かんでいる。

その夜、縁側で風鈴の音を聞きながら、祖母のノートをめくった。そこには、育てた草花の記録や、短い日記のような文章が残されていた。
「夕暮れのクレオメは誰にも見られず咲いてる。
静かな時間に、そっと目を向けてくれる人がいたら、それでいい」
その一文を読んだ瞬間、胸の奥で何かがゆっくりほどけるのを感じた。
社会の中で役割を演じ、人の目を気にしながら生きる日々。あの花のように、誰にも知られず、自分のリズムで咲くことは、わがままなのだろうか――。
翌朝、まだ薄明るい時間にもう一度庭を見た。クレオメは、夜の静けさをまだその花びらに宿していた。朝の光に少し照らされながらも、まるで夢の中に咲いているようだった。
その姿は、まさに「秘密のひととき」だった。

派手ではない。けれど、だからこそ、見つけた者の心に深く残る。
私はそっとスマホの電源を切った。連絡を絶っていた数日間の後ろめたさも、不思議と消えていた。
その日から、私は毎朝、庭に立ってクレオメを眺めた。何かを考えるでもなく、ただ花と同じ時間を過ごした。
誰かと分かち合うでもない、私だけの静かな時間。
まるで祖母が、今の私に「ここにいていいよ」と言ってくれているような、そんな気がした。
✧ おわりに
クレオメは、誰にも見られなくても、夜の静けさの中で凛として咲く花です。その姿は、ひとりの心の中にそっと咲く記憶や、他人には伝えられない思いに似ています。
たとえ一瞬でも、自分だけのために過ごす時間。その中でふと見つけた小さな美しさは、人生の中で何よりも大切な「秘密のひととき」なのかもしれません。