8月8日の誕生花「クレオメ」

「クレオメ」

VirginieによるPixabayからの画像

基本情報

  • 和名:セイヨウフウチョウソウ(西洋風蝶草)
  • 学名Cleome hassleriana
  • 科名/属名:フウチョウソウ科/クレオメ属
  • 原産地:熱帯アメリカ
  • 開花時期:6月~10月(初夏~秋)
  • 草丈:60〜150cmほどになる高性草花
  • 一年草(※寒冷地では扱いは一年草)

クレオメについて

特徴

◎ 風に舞う蝶のような花姿

クレオメは、長い雄しべと雌しべが外へと飛び出したようなユニークな形状の花を咲かせます。その姿は、まるで蝶が舞っているかのように見えることから、和名では「風蝶草」と呼ばれています。

◎ 個性的で幻想的な咲き方

花は茎の上部に穂状に咲き進み、下から上へと開花していくため、常に咲きかけとつぼみが混在したような不思議な印象を与えます。その独特の構造が、ミステリアスな雰囲気を醸し出します。

◎ 夜にも咲く神秘性

クレオメの花は昼夜問わず咲いていることが多く、夕暮れや夜にも花を開いている姿が見られます。夕闇の中、ほのかに浮かぶその姿にはどこか秘密めいた美しさがあります。


花言葉:「秘密のひととき」

NGUYỄN THỊ THYによるPixabayからの画像

クレオメに与えられた花言葉「秘密のひととき(A Secret Moment)」は、次のような要素に由来していると考えられます。

● 幻想的な花姿と静寂の時間

クレオメの花は、日没後や夜間にも開花を続け、周囲が静まり返った時間帯でも、まるで誰にも気づかれずに咲いているかのようです。この“誰にも知られずに美しく咲く”様子が、まさに「秘密のひととき」を象徴しているといえるでしょう。

● 長い雄しべが作る繊細なシルエット

その繊細で複雑な花の構造は、近くでじっくり見ないとわからないほど繊細であり、それが「誰かとだけ分かち合う秘密」のような雰囲気を漂わせています。

● 見過ごされやすい美しさ

派手すぎず、どこか儚さを含んだ美しさは、短くても記憶に残る静かな時間――たとえば、夕暮れ時に誰かと過ごした特別な瞬間――を連想させます。


✧ おわりに

クレオメは、その独特な美しさと、静けさの中にひそむ魅力によって、「秘密のひととき」という詩的な花言葉を与えられた花です。風にそよぎ、誰にも見られずとも美しく咲くその姿は、まるで誰かとの心の中だけにある、大切な思い出のようです。


「秘密のひととき」

あの夏の終わり、私は祖母の古い家で、一輪の花に出会った。

 都会の喧騒に疲れ、何も告げずに帰省したのは、八月の終わりだった。山に囲まれたその町は蝉の声も薄らぎ、空気にわずかな秋の気配が混じっていた。

 「庭に咲いてるクレオメ、見たかい?」

 ふと立ち寄った近所の商店で、懐かしい声がした。祖母の友人であるその女性は、私が小さな頃に庭で遊んでいたのを覚えていて、「おばあちゃんが毎年植えていたんだよ」と笑った。

 その足で、祖母の庭に戻った。長く手入れをしていない庭は少し荒れていたが、裏手の塀の近くに、それは確かに咲いていた。

 すらりと背を伸ばした花茎の先に、羽のように広がる薄紫の花。その中心から長く伸びる雄しべが、まるで蝶の触角のように風に揺れている。どこか異国めいた佇まいで、周囲の雑草とは明らかに違う気配を放っていた。

 近づいてみると、花のつくりはとても繊細だった。線の細い花弁と、そこから飛び出すような雄しべ。輪郭が曖昧になるほどに、夜の空気の中でふわりと浮かんでいる。

 その夜、縁側で風鈴の音を聞きながら、祖母のノートをめくった。そこには、育てた草花の記録や、短い日記のような文章が残されていた。

「夕暮れのクレオメは誰にも見られず咲いてる。
静かな時間に、そっと目を向けてくれる人がいたら、それでいい」

 その一文を読んだ瞬間、胸の奥で何かがゆっくりほどけるのを感じた。

 社会の中で役割を演じ、人の目を気にしながら生きる日々。あの花のように、誰にも知られず、自分のリズムで咲くことは、わがままなのだろうか――。

 翌朝、まだ薄明るい時間にもう一度庭を見た。クレオメは、夜の静けさをまだその花びらに宿していた。朝の光に少し照らされながらも、まるで夢の中に咲いているようだった。

 その姿は、まさに「秘密のひととき」だった。

 派手ではない。けれど、だからこそ、見つけた者の心に深く残る。

 私はそっとスマホの電源を切った。連絡を絶っていた数日間の後ろめたさも、不思議と消えていた。

 その日から、私は毎朝、庭に立ってクレオメを眺めた。何かを考えるでもなく、ただ花と同じ時間を過ごした。

 誰かと分かち合うでもない、私だけの静かな時間。

 まるで祖母が、今の私に「ここにいていいよ」と言ってくれているような、そんな気がした。

✧ おわりに

 クレオメは、誰にも見られなくても、夜の静けさの中で凛として咲く花です。その姿は、ひとりの心の中にそっと咲く記憶や、他人には伝えられない思いに似ています。

 たとえ一瞬でも、自分だけのために過ごす時間。その中でふと見つけた小さな美しさは、人生の中で何よりも大切な「秘密のひととき」なのかもしれません。

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