「ベゴニア」

基本情報
- 科名・属名:シュウカイドウ科(Begoniaceae)ベゴニア属
- 学名:Begonia
- 原産地:熱帯・亜熱帯地域(南アメリカ、アフリカ、アジアなど)
- 開花期:春〜秋(種類によっては周年開花)
- 花色:赤、ピンク、白、オレンジ、黄色など多彩
- 種類:世界に約1500種以上
→ 鑑賞用としては「根茎性ベゴニア」「球根性ベゴニア」「木立性ベゴニア」などが代表的。
ベゴニアについて

特徴
- 左右非対称の葉
- ベゴニアの葉は、片側が大きくもう片側が小さいという“非対称”な形が特徴です。
- これは他の植物にはあまり見られない独特の姿で、ベゴニアの個性を際立たせています。
- 光沢のある美しい葉
- 花だけでなく葉の模様や質感も美しく、「葉を楽しむ植物」としても人気があります。
- 斑入りやベルベット調の葉など、観葉植物としても高く評価されています。
- 湿度と明るさを好む
- 強い日差しや乾燥を嫌い、明るい半日陰でよく育ちます。
- 高温多湿な日本の気候にも比較的よく適応します。
- 花の構造
- 雄花と雌花が同じ株に咲く「雌雄同株」の植物。
- 花弁が重なり合うように咲く姿が愛らしく、長い期間咲き続けるのも魅力です。
花言葉:「片思い」

由来
ベゴニアの花言葉はいくつかありますが、
その中でも「片思い(片想い)」という言葉は、とても象徴的です。
由来①:左右非対称の葉
ベゴニアの葉は、どれも左右が不均等で、完全な対称にはなりません。
この「どちらかが少し欠けているような形」が、
“一方だけが想う気持ち”=片思い を連想させることから、この花言葉が生まれました。
― 「心のバランスが少し傾いている」
― 「相手に届かない想い」そんな繊細な感情を映し出すような葉の形です。
由来②:静かに咲く姿
ベゴニアは派手に自己主張せず、
半日陰や木漏れ日の下で静かに咲く花。
その控えめで慎ましい姿が、
「想いを胸に秘める恋心」を象徴しているとも言われます。
「ベゴニアの葉が傾くとき」

放課後の教室に、夕日が斜めに差し込んでいた。
窓際の机の上、小さな鉢植えのベゴニアが光を受けて、静かに揺れている。
それを持ってきたのは、春の始まりの日だった。
理科準備室の隅でしおれかけていた鉢を見つけたとき、咲良は思わず手を伸ばしていた。
「もう少しだけ、咲かせてみたいな」
そんな小さな気まぐれから始まった。

隣の席の佐久間くんは、いつも静かで、でも誰よりも丁寧にノートを取る人だった。
授業が終わると、彼は決まって窓の外を見ながらペンを指先で回す。
咲良はその姿を横目で見るたび、胸の奥が少しだけざわついた。
ベゴニアは、すぐに新しい葉を伸ばした。
ただ、その葉はいつも少し傾いていた。
左が小さく、右が大きい。
どれほど陽を浴びても、完全な形にはならない。

「不思議だよね」
ある日、咲良がつぶやくと、佐久間くんが目を上げた。
「何が?」
「この葉。いつも左右で違うの。まるで……心のバランスが、ちょっと傾いてるみたい」
彼は笑った。
「人間もそうじゃない? 完璧に真っ直ぐな人なんていないよ」
その言葉に、咲良はうつむいた。
――ああ、そうだね。
でも、その傾きが、いつも同じ方向を向いているのは、私のほうなんだ。
次の週、ベゴニアに花が咲いた。
淡いピンクの花弁が、光に透けるように開いていた。
誰にも気づかれず、誰にも見せびらかさない。
それでも確かにそこに咲いていた。

放課後、佐久間くんが鉢を覗き込んで「きれいだね」と言った。
咲良の胸が跳ねた。
「世話してたの、君だったんだ」
「うん……でも、ただ水をあげてただけ」
「それでも十分だよ。きっと、君のことがわかるんだと思う」
その言葉を聞いた瞬間、咲良は何かを言いかけて、やめた。
もし口にしたら、すべてが壊れてしまいそうで。
窓から差し込む光の中、ベゴニアの葉が小さく揺れた。
左右で少し傾いた葉。
それはまるで、想いの天秤がどちらか一方に傾いているようだった。
「届かなくても、いいのかもしれない」
咲良はつぶやいた。
「それでも、想っている時間があるなら」

その日、佐久間くんは最後に振り向いて笑った。
「花、枯らさないようにね」
彼の姿が教室のドアの向こうに消える。
残された夕日が、鉢を赤く染めた。
ベゴニアの葉が、また少し傾いた。
けれど咲良には、それがまるで心の形のように見えた。
不完全だからこそ、美しい。
届かない想いでも、確かにここにある。
静かに咲く花のように――。