「ツワブキ」

基本情報
- 科・属:キク科・ツワブキ属
- 学名:Farfugium japonicum
- 原産地:日本列島(東北地方南部以南の本州、四国、九州)、朝鮮半島南部、中国東部~南部、台湾
- 開花時期:10〜12月(晩秋〜初冬)
- 分類:多年草
- 生育環境:半日陰〜日陰、湿り気のある場所を好む
- 特徴的な葉:大きく丸い艶のある濃緑色の葉が一年中残る常緑性
ツワブキについて

特徴
- 晩秋に咲く明るい黄色の花が特徴で、寒い季節に彩りを与える。
- 強い耐陰性・耐寒性があり、庭の北側や日陰でもよく育つ。
- 葉に光沢があるため観葉植物的な役割も果たす。
- 海沿いの崖や岩場にもよく自生し、潮風にも耐える丈夫さを持つ。
- 茎や葉は山菜として食用になる地域もある(葉柄を煮物などに利用)。
- 園芸では、斑入り(白・黄・銀)品種も人気。
花言葉:「愛よよみがえれ」

由来
- ツワブキは 寒さが深まり、他の花が少なくなる季節に明るい黄色の花を咲かせる。
→ 「失われたものが再び息づく」「枯れた時期に温かな光が戻る」という象徴性につながる。 - 常緑で一年中艶やかな葉を保つことから、
→ 「長く続く愛」「途切れない想い」が再び輝きを取り戻すイメージと重なる。 - 古くから日本の庭で親しまれ、厳しい環境でも力強く復活する性質が、
→ 「愛がよみがえる」「再生する愛情」という花言葉を生んだとされる。
「冬の庭に、光が戻る」

冬の風が、古い家の庭をそっと揺らしていた。枝だけになった木々の間で、ただ一ヶ所だけ、黄金色の灯が灯るように見える場所があった。
ツワブキ――この家の庭がまだ賑やかだった頃から、ずっと変わらずそこにいる花。
由衣は庭に出て、その黄色い花を見つめた。冷えた空気の中で咲くその姿は、どこか懐かしい記憶を呼び覚ます。小学生のころ、冬になると祖母が言っていた言葉を思い出す。
「ほら、寒くなったら咲くんだよ。この子はね、みんなが元気をなくす頃に光をくれるんだよ」
祖母は笑い、ツワブキを指先でそっと撫でていた。その手はもう、この世界にはない。

家を出て、都会での生活に疲れていた由衣は、祖母の遺した家をしばらく片づけるために戻ってきていた。懐かしい匂いと静けさのなかで過ごしていると、忘れてしまっていた色々な感情が胸の奥からゆっくりと戻ってくるようだった。
玄関の戸を開けると、ふいに足音が聞こえた。
「……やっぱり、戻ってたんだ」
振り返ると、幼なじみの悠斗が立っていた。十年ぶりの再会。お互い気まずそうに笑う。
「家、片づけに来たって聞いてさ。手伝おうかと思って」
「……うん、ありがとう」
二人で黙々と古い家具や箱を運び出す。
埃が舞い、懐かしい写真の束が見つかるたび、少しだけ時間が巻き戻るようだった。

夕方、作業を終えたあと、庭に出た悠斗がふと足を止めた。
「これ……まだ咲くんだな」
ツワブキの黄色い花を見つめながら言う。
「うん。毎年、必ず咲く。寒くなるほど、強く」
「昔さ、覚えてる? 俺、由衣にひどいこと言っただろ。『都会に出たいなら勝手にしろよ』って」
「覚えてるよ。あの時は、傷ついたなぁ」
由衣が苦笑すると、悠斗は少し俯いた。
「ごめんな。止めたかっただけなんだよ。言えなかったけど……好きだったから」
風が一度、庭を横切り、ツワブキの花を揺らした。
由衣は驚き、そして静かに息を吸った。

「……私も。あの時は言えなかったけど」
十年のあいだに途切れたと思っていた気持ちが、冬の花の前でそっと形を取り戻していくのを感じた。
「ツワブキの花言葉、知ってる?」
由衣が問いかけると、悠斗は首を横に振る。
「『愛よよみがえれ』っていうんだって。寒くなって、他の花がいなくなっても、これだけは光みたいに咲くから。
葉っぱも一年中つやつやしててさ……だから、昔の人は “途切れたものが戻る” って感じたんだと思う」
悠斗は目を細め、花を見つめた。
「……なるほどな。確かに、そんなふうに見える」
二人のあいだを、夜に変わりかけた空の下で、少し温かい沈黙が流れた。
「ねぇ、悠斗。明日も片づけ手伝ってくれる?」
「もちろん。……由衣がよければ、これからもしばらく」
ツワブキの黄色い光が、夕暮れにゆっくりと溶けていく。
その輝きは、遠ざかっていた心をそっと灯し直すように柔らかく揺れていた。
冬の庭の片隅で――静かに、確かによみがえっていくものがあった。