「ユウゼンギク」

基本情報
- 学名:Aster novi-belgii
- 英名:New York aster / Michaelmas daisy
- 科属:キク科 シオン属(またはアスター属)
- 原産地:北アメリカ東部
- 開花期:6月〜11月
- 草丈:30〜100cm前後
- 花色:紫、青、ピンク、白 など
ユウゼンギクについて

特徴
ユウゼンギクは、秋の終わりに咲く多年草で、菊に似た小花を多数つけるのが特徴です。
同属の「シオン(紫苑)」や「アスター(エゾギク)」にも似ていますが、より花付きが良く、密に咲くため、秋の花壇や切り花としても人気があります。
- 群れ咲く姿が美しく、満開になると株全体が紫色に染まるほど。
- 花びらは細く放射状に広がり、中心には黄色の筒状花が並ぶ。
- 耐寒性・耐暑性ともに強く、放任でもよく育つ丈夫な植物。
- 名前の「友禅菊」は、色とりどりの花が友禅染めのように美しいことに由来する。
花言葉:「老いても元気で」

由来
この花言葉は、ユウゼンギクの開花時期と花の姿に深く関係しています。
- 晩秋になっても咲き誇る生命力
- 他の花が終わり、秋も深まった頃に咲くユウゼンギク。
枯れ葉が舞う季節にもなお色鮮やかに咲くその姿は、
「年を重ねても衰えない活力」「人生の晩年も輝く強さ」を象徴しています。
- 他の花が終わり、秋も深まった頃に咲くユウゼンギク。
- 丈夫で長く咲く性質
- 一度咲き始めると、寒さの中でも次々と花を咲かせ続けます。
その粘り強さと持続力が「元気に長生きする」という意味につながっています。
- 一度咲き始めると、寒さの中でも次々と花を咲かせ続けます。
- 秋の陽だまりのような存在
- 晩秋の庭を明るく彩る姿が、
「周囲を和ませる穏やかで朗らかな年配の人」のイメージと重ねられました。
- 晩秋の庭を明るく彩る姿が、
「晩秋の庭に咲く紫」

十月の風が冷たくなり始めた頃、春江の庭には紫の小花が揺れていた。
ユウゼンギク——。
もう庭の花たちはほとんど枯れ落ち、唯一その花だけが陽だまりの中で明るく咲いていた。
「まだ元気に咲いてるのねえ」
腰をかがめて眺める春江の声には、少しの驚きと、どこか自分への励ましが混じっていた。
今年で八十三歳。
足腰は弱り、庭仕事も長くは続かなくなった。夫を見送り、子どもたちは遠くの街へ。
それでも、毎朝庭に出て、花たちに声をかけるのが春江の日課だった。

「あなたは強いわね。みんな枯れちゃったのに」
ユウゼンギクの花びらをそっと撫でる。
霜が降りるほど冷え込む朝にも、その紫だけは色褪せることがなかった。
春江はふと、亡き夫・誠一の言葉を思い出した。
——年を取ったって、俺たちはまだ咲けるさ。
還暦を迎えたころ、ふたりで花壇を作った夜のことだ。笑いながら土を掘り、苗を並べた。
あの時植えたユウゼンギクが、今もこうして咲き続けている。
風が吹く。
乾いた木の葉が舞い、庭の隅に積もっていく。
春江は小さなスコップを手に取り、花のまわりの土をそっと寄せた。
——あの人も、今どこかで笑って見ているかしら。
玄関の方から声がした。
「おばあちゃん、外にいたの? 風邪ひいちゃうよ!」
孫の美咲がマフラーを巻きながら走ってきた。高校生になったばかりの少女は、スマートフォンを片手に、写真を撮るように庭を覗き込んだ。

「きれい……。この花、まだ咲いてるんだね」
「そうなのよ。みんな終わったのに、この子だけはまだ元気」
春江は笑った。
「おばあちゃんみたいだね」
美咲の言葉に、春江は少し照れくさそうに笑った。
「昔ね、おじいちゃんと植えたのよ。あの人が亡くなってからも、毎年こうして咲いてくれるの」
「じゃあ、この花もおじいちゃんの思い出なんだね」
「そうね。きっとそう」
ふたりで見上げた空は、薄く霞んだ秋の色。
美咲はポケットから小さなノートを取り出し、何かを書き留めた。
「学校の作文のテーマ、“元気なお年寄り”なの。おばあちゃんの話、書いてもいい?」
春江は少し目を細めて頷いた。
「ええ、いいわよ。でも“元気”ってね、走り回ることじゃないの。心がしっかり前を向いてることなのよ」

夕方の光がユウゼンギクを照らす。
紫の花びらが金色に染まり、まるで夕陽の中で微笑んでいるようだった。
——晩秋になっても咲き誇る花。
その姿に、春江は自分の人生を重ねていた。
季節が移ろっても、心に灯があれば人は枯れない。
風が冷たくなっても、笑顔を咲かせていられる。
「ねえ、おばあちゃん」
「なあに?」
「将来、私もこんな花を育てたいな」
春江は優しく微笑んだ。
「そのときは、私が土の下から応援してるわ」
ふたりの笑い声が風に溶け、紫の花が小さく揺れた。
庭の隅で、ユウゼンギクは最後の力を振り絞るように、もう一度輝きを増した。
――晩秋の庭にも、まだ花は咲く。
老いてもなお、心に陽だまりを抱いて。