「ウィンターコスモス」

基本情報
- 科名/属名:キク科/ビデンス属
- 学名:Bidens laevis、Bidens aurea など(流通名として「ウィンターコスモス」)
- 英名:Winter Cosmos
- 原産地:メキシコを中心とする世界各地
- 分類:多年草
- 開花時期:5月~1月(品種によって異なる)
- 花色:白、淡黄、クリーム色、アプリコットなど
- 和名・別名:ウィンターコスモスは園芸名で、正式には「ビデンス」
ウィンターコスモスについて

特徴
- 寒い季節でも咲き続ける丈夫さを持つ。
- 名前に「コスモス」とあるが、コスモス属とは別で、見た目が似ていることから名付けられた。
- 細長い茎の先に、ふんわりした一重の花をつけ、冬枯れの庭を明るく彩る。
- 寒さや乾燥にも強く、長期間咲くためガーデニングで人気が高い。
- 優しいパステルトーンの花色が多く、柔らかな雰囲気をつくる。
- 花がしなやかに揺れ、儚げで温かみのある姿が印象的。
花言葉:「もう一度愛します」

由来
- ウィンターコスモスは、他の花が終わる晩秋〜冬に再び咲くという特徴を持つ。
→「冬にもう一度咲く花」「季節を越えて咲き戻る花」というイメージにつながった。 - 優しい色合いで静かに咲き、過ぎ去った季節や思い出をやわらかく呼び戻すような雰囲気がある。
- 一度終わったかのように見えても、また花をつける姿から、
**「愛が戻る」「気持ちがもう一度芽生える」**という想像を重ねられた。 - こうした性質と印象が重なり、
**「もう一度愛します」「再び愛を告げる」**という花言葉が生まれたとされる。
「冬に咲き戻るもの」

冬の風が、庭の落ち葉をさらりと撫でていった。
咲季(さき)はマフラーの端を握りしめ、実家の庭に出た。冷たさが頬を刺す。それでも、どうしても確かめたいものがあった。
――ウィンターコスモス。
父が好きだった花だ。
ほとんどの草花が枯れ、彩りを失ってしまう季節に、静かに、そして控えめに咲く。咲季はその花を見るたび、決まって父の穏やかな笑顔を思い出した。
鉢のそばにしゃがんだとき、ふわりと淡い黄色が視界を照らした。
「……咲いてる」
思わず声が漏れる。

父が亡くなって一年目の冬、咲季は庭仕事をする気力もなく、鉢は乾ききっていた。「もう今年は咲かないだろう」と諦めていたのに――。
だが、ウィンターコスモスは、まるで季節を越えるようにして、再びここに戻ってきていた。
小さな花弁が、凍える風の中で頼りなく揺れながらも、確かに息づいている。
その姿に、胸の奥がじんと熱くなった。
咲季はそっと花に触れながら、父の言葉を思い出す。
「花はな、終わったように見えても、根っこが生きていればまた咲く。人の気持ちも同じだよ。時間が経ってから、ふっと戻ってくることがある」
その言葉を聞いたのは、咲季が初めて失恋した高校生の頃だった。
その時は、ただ慰めてもらっただけの記憶だったのに――今になってわかる。
父はあの時、自分自身の気持ちの話もしていたのだ。

母と喧嘩ばかりだった父。
互いの気持ちは離れているように見えた。
それでも、季節が巡るように少しずつ向き合い直し、気づけば二人の距離はまた元に戻っていた。
「愛ってのは、戻ることもあるんだよ」
笑ってそう言った父の声が、今でも耳に残っている。
咲季は目を閉じ、深く息を吸った。冷たさと一緒に、土のにおいが胸に広がる。
今年の冬は、父のいない初めての冬。でも、この花は「もう一度」を見せてくれている。
枯れたかと思っても、再び花をつける。
過ぎ去った季節をやわらかく呼び戻すように、そっと咲き戻る。

――「もう一度愛します」
ウィンターコスモスの花言葉。
その意味が、今日ほど胸にしみたことはなかった。
咲季は立ち上がり、家の中に向かって声をかけた。
「お母さん、見て。咲いてるよ!」
振り返った母の頬も、少しだけ緩んだ。
「あなたのお父さん、ほんとにこの花が好きだったわね」
「うん。でも、たぶん私のほうが好きになっちゃった」
母は驚いたように咲季を見つめ、それから静かに微笑んだ。
その笑顔は、どこか父に似ていた。
咲季はそっと鉢を抱え直し、心の奥で小さく呟いた。
――お父さん。
あなたが残した“もう一度の花”は、ちゃんとここに咲いているよ。
冬の空に、淡い黄色の花が揺れた。
まるで、帰ってきた愛の証のように。