「コスモス」

基本情報
- 学名:Cosmos bipinnatus
- 科名:キク科
- 属名:コスモス属
- 原産地:メキシコ
- 開花期:6月~11月(特に秋に盛んに咲くことから「秋桜(あきざくら)」の名がある)
- 花色:ピンク、白、赤、黄、オレンジ、チョコレート色など
- 草丈:50cm~2mほど
- 別名:「秋桜(あきざくら)」「コスモス」
コスモスについて

特徴
- 繊細で優美な姿
細く切れ込みの入った糸のような葉と、風にそよぐ可憐な花姿が特徴。群生すると一面が華やかな景観になる。 - 丈夫で育てやすい
やせ地でもよく育ち、日当たりと風通しがよければ花をたくさん咲かせる。 - 秋を代表する花
日本では明治時代に伝来。季語としても定着し、秋の風物詩として親しまれている。 - 名前の由来
学名 Cosmos はギリシャ語の「kosmos(秩序・調和・美しい飾り)」から。規則正しく花びらが並ぶ様子が由来となっている。
花言葉:「乙女の真心」

由来
コスモスの代表的な花言葉のひとつが 「乙女の真心」 です。
この由来には以下のような背景があります。
- 花姿の純真さ
ピンクや白のやわらかな花びらが整然と並び、清楚で可憐な印象を与える。その素直で飾らない美しさが「純粋な心=乙女の真心」に重ねられた。 - 風に揺れる優しさ
細い茎に咲く花が風に揺れる姿は、控えめでありながらもまっすぐな気持ちを表現していると考えられた。 - 秩序正しい花の形
花弁が均整よく並ぶことから「誠実さ」「真心」を象徴するものとされた。
「乙女の真心」

夏の終わり、風に揺れるコスモスが丘一面を彩っていた。淡いピンクと白の花が、まるで波のように連なり、空の青さと溶け合うように広がっている。
綾はその中に立ち尽くしていた。手には、小さな封筒。そこにはまだ渡せていない手紙が入っている。相手は同級生の翔太。もうすぐ彼は遠くの町へ引っ越してしまう。
「言わなきゃ、後悔する」
心の中で何度もつぶやきながら、綾は足元の花々を見つめた。風に揺れるコスモスの姿は、まるで自分の心のようだ。細い茎は不安定で頼りなさげなのに、それでもしっかりと空に向かって花を咲かせている。

――この花に背中を押されている気がする。
翔太と初めて会ったのは、小学二年のころだった。転校してきた彼に、綾は筆箱を貸してあげた。それだけのささいなことがきっかけで、ずっと一緒に過ごすようになった。勉強が苦手な彼に勉強を教えたり、彼の得意なサッカーを一緒に練習したり。笑い合う時間は、当たり前の日常になっていた。
けれど、その日常は終わろうとしている。
翔太の父親の仕事の都合で、来週にはもう遠くへ行ってしまうのだ。
「……綾」
背後から名前を呼ばれ、胸が跳ねた。振り向くと、翔太が少し息を切らして立っていた。
「探したよ。ここにいると思った」
「ごめん、急に呼び出して……」

言葉が続かない。封筒を握りしめる手が震える。けれど、目の前のコスモスが風にそよぎ、静かに語りかけてくるようだった。
――花姿の純真さ。
その素直さは、あなたの気持ちのままに。
綾は深呼吸をした。
「これ……手紙書いたの。読んでほしい」
差し出した封筒を翔太が受け取る。その瞬間、コスモスの花びらが一枚、ふわりと舞い落ちた。
「ありがとう。……俺も、話したいことがあったんだ」
翔太の声が少し震えていた。彼もまた、この時を待っていたのかもしれない。
二人はしばらく無言のまま、丘の上に並んで立ち尽くした。風に揺れる花々が、控えめに、けれど確かに励ましてくれる。
――風に揺れる優しさ。
弱さを隠さなくてもいい。揺れても、心はまっすぐ届くから。

綾は視線を空に向けた。翔太も同じように空を見上げていた。そこには、どこまでも高く澄んだ青が広がっている。
「離れても、きっと大丈夫だよな」
翔太がぽつりと言う。
綾はうなずいた。涙がにじみそうになるのをこらえて。
――秩序正しい花の形。
均整のとれた姿は、誠実さと真心のしるし。
この花言葉が、まさに今の二人に重なっている気がした。
翔太は封筒を胸に当て、「大事にする」と静かに言った。
その言葉を聞いた瞬間、綾の心の奥で固く結んでいた糸がほどけていく。
風にそよぐコスモスの花たちは、まるで「乙女の真心」という花言葉を具現化したかのように、純粋でまっすぐな思いを伝えていた。
やがて丘を下る二人の背中を、花々はやさしく揺れながら見送っていた。