「ヘレニウム」

基本情報
- 和名:ヘレニウム(別名:ダンゴギク)
- 学名:Helenium
- 科属:キク科ヘレニウム属
- 原産地:北アメリカ
- 開花時期:6月〜10月
- 花色:黄・橙・赤・褐色など
- 草丈:60〜150cm前後
- 多年草
ヘレニウムについて

特徴
- 太陽のような花形で、中心が盛り上がった独特のキク科の花。
- 花びらは下向きに反り返り、中央の丸い花芯が目立つ。
- 夏から秋にかけて長く咲き、花壇を明るく彩る。
- 耐寒性・耐暑性が強く、育てやすい。
- 名の由来は、ギリシャ神話の美女「ヘレネ(ヘレン)」にちなむ。
花言葉:「涙」

由来
- ギリシャ神話で、美女ヘレネが流した涙が地に落ち、
そこから咲いた花が「ヘレニウム」になったという伝説がある。 - そのため、「涙」や「悲しみ」「上品な悲哀」といった花言葉がつけられた。
- 太陽のように明るい花姿でありながら、
どこか寂しげにうつむくように咲く姿も「涙」を連想させる。
「ヘレニウムの涙」

その花は、夕暮れの庭でひときわ鮮やかに咲いていた。
黄金色の花弁は太陽の欠片のように輝きながらも、どこかうつむくように咲いている。まるで、光に耐えきれないかのように。
「ヘレニウムっていうのよ」
そう教えてくれたのは、母だった。
まだ幼かった私は、その名をうまく発音できずに、「ヘレニウ」と呼んでいた。母は笑って、私の髪を撫でた。

「ヘレニウムはね、涙の花なの」
「涙?」
「そう。ギリシャの美しい女の人、ヘレネが流した涙から生まれたんだって。悲しい涙なのに、こんなに明るい花が咲いたのよ。不思議ね」
その時はよくわからなかった。ただ、母の横顔が少しだけ寂しそうに見えたことだけを覚えている。
年月が経ち、母が病に倒れた。
夏の終わり、病室の窓から見える庭に、またヘレニウムが咲いた。
私は毎日その花を見ながら、母の寝顔を見守った。
ある朝、母は微笑みながら小さく言った。
「ねえ……覚えてる? 涙の花の話」
「うん。ヘレネの涙から咲いたんだよね」
母はゆっくりとうなずき、続けた。
「悲しみのあとには、きっと何かが咲くのよ。涙が全部、無駄になることなんてないんだから」
その言葉が、最後だった。

葬儀のあと、家に帰ると、庭のヘレニウムがちょうど満開だった。
夕陽を受けて燃えるように咲くその姿は、悲しみを包み込むように柔らかく、そして温かかった。
涙が頬を伝い、土に落ちる。
ふと、子どもの頃に聞いた母の言葉がよみがえる。
――悲しい涙なのに、こんなに明るい花が咲くのよ。

私はそっと花弁に触れた。指先に感じるぬくもりは、まるで母の手のようだった。
その瞬間、胸の奥の痛みが、ほんの少しだけ和らいだ。
もしかしたら、この花は誰かの涙を受け止めて咲くのかもしれない。
誰かの悲しみを、光に変えるために。
風が吹き、ヘレニウムの花びらがかすかに揺れた。
夕暮れの光の中で、それはまるで笑っているようにも見えた。
私はそっとつぶやく。
「お母さん、ありがとう」
――涙の花は、今日も静かに咲いている。