10月12日の誕生花「ヘレニウム」

「ヘレニウム」

Annette MeyerによるPixabayからの画像

基本情報

  • 和名:ヘレニウム(別名:ダンゴギク)
  • 学名Helenium
  • 科属:キク科ヘレニウム属
  • 原産地:北アメリカ
  • 開花時期:6月〜10月
  • 花色:黄・橙・赤・褐色など
  • 草丈:60〜150cm前後
  • 多年草

ヘレニウムについて

特徴

  • 太陽のような花形で、中心が盛り上がった独特のキク科の花。
  • 花びらは下向きに反り返り、中央の丸い花芯が目立つ。
  • 夏から秋にかけて長く咲き、花壇を明るく彩る。
  • 耐寒性・耐暑性が強く、育てやすい。
  • 名の由来は、ギリシャ神話の美女「ヘレネ(ヘレン)」にちなむ。

花言葉:「涙」

由来

  • ギリシャ神話で、美女ヘレネが流した涙が地に落ち、
    そこから咲いた花が「ヘレニウム」になったという伝説がある。
  • そのため、「涙」や「悲しみ」「上品な悲哀」といった花言葉がつけられた。
  • 太陽のように明るい花姿でありながら、
    どこか寂しげにうつむくように咲く姿も「涙」を連想させる。

「ヘレニウムの涙」

その花は、夕暮れの庭でひときわ鮮やかに咲いていた。
 黄金色の花弁は太陽の欠片のように輝きながらも、どこかうつむくように咲いている。まるで、光に耐えきれないかのように。

 「ヘレニウムっていうのよ」
 そう教えてくれたのは、母だった。
 まだ幼かった私は、その名をうまく発音できずに、「ヘレニウ」と呼んでいた。母は笑って、私の髪を撫でた。


 「ヘレニウムはね、涙の花なの」
 「涙?」
 「そう。ギリシャの美しい女の人、ヘレネが流した涙から生まれたんだって。悲しい涙なのに、こんなに明るい花が咲いたのよ。不思議ね」

 その時はよくわからなかった。ただ、母の横顔が少しだけ寂しそうに見えたことだけを覚えている。

 年月が経ち、母が病に倒れた。
 夏の終わり、病室の窓から見える庭に、またヘレニウムが咲いた。
 私は毎日その花を見ながら、母の寝顔を見守った。
 ある朝、母は微笑みながら小さく言った。
 「ねえ……覚えてる? 涙の花の話」
 「うん。ヘレネの涙から咲いたんだよね」
 母はゆっくりとうなずき、続けた。
 「悲しみのあとには、きっと何かが咲くのよ。涙が全部、無駄になることなんてないんだから」
 その言葉が、最後だった。

 葬儀のあと、家に帰ると、庭のヘレニウムがちょうど満開だった。
 夕陽を受けて燃えるように咲くその姿は、悲しみを包み込むように柔らかく、そして温かかった。
 涙が頬を伝い、土に落ちる。
 ふと、子どもの頃に聞いた母の言葉がよみがえる。
 ――悲しい涙なのに、こんなに明るい花が咲くのよ。

Gary StearmanによるPixabayからの画像

 私はそっと花弁に触れた。指先に感じるぬくもりは、まるで母の手のようだった。
 その瞬間、胸の奥の痛みが、ほんの少しだけ和らいだ。
 もしかしたら、この花は誰かの涙を受け止めて咲くのかもしれない。
 誰かの悲しみを、光に変えるために。

 風が吹き、ヘレニウムの花びらがかすかに揺れた。
 夕暮れの光の中で、それはまるで笑っているようにも見えた。
 私はそっとつぶやく。
 「お母さん、ありがとう」

 ――涙の花は、今日も静かに咲いている。

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