「ルピナス」

基本情報
和名:ルピナス(別名:昇藤〈のぼりふじ〉)
学名:Lupinus
英名:Lupine / Bluebonnet
科名:マメ科(Fabaceae)
属名:ルピナス属(Lupinus)
原産地:北アメリカ・地中海沿岸・南アメリカなど
開花期:4月下旬~6月(品種によっては秋咲きもあり)
花色:紫、青、白、黄、ピンクなど多彩
草丈:30cm〜1.5m程度(品種差が大きい)
ルピナスについて

特徴
- 花姿
「昇藤(のぼりふじ)」の別名が示す通り、房状に並ぶ花が上に向かって咲く姿が特徴。
一見すると“藤”に似ていますが、藤が下向きに垂れるのに対して、ルピナスは上向きに花を咲かせるのが印象的です。 - 葉の形
手のひらのように広がる**掌状複葉(しょうじょうふくよう)**が特徴。風に揺れると柔らかく光を反射します。 - 生態と利用
根に「根粒菌」をもち、空気中の窒素を固定するため、痩せた土地でもよく育ちます。
緑肥植物としても利用され、土地を豊かにする「大地を育てる花」としても知られています。 - 印象
カラフルで立ち上がる花姿が力強くもあり、花畑では群生することで華やかな風景をつくります。
花言葉:「想像力」

由来
花言葉の一つに「想像力(Imagination)」があります。
その由来にはいくつかの説があり、象徴的な意味が込められています。
① さまざまな色と形が「創造の多様性」を表す
ルピナスは紫・青・桃・黄・白など、驚くほど多彩な色を持ちます。
花穂も長さや密度が異なり、品種によって印象が大きく変わるため、見る人によって異なるイメージを生み出します。
→ 「見る人の想像をかき立てる花」「創造性の象徴」とされたことから、「想像力」という花言葉が生まれました。
② “下向きの藤”に対して“上向きのルピナス”
藤の花が下に垂れるのに対し、ルピナスは空に向かって咲く。
この「逆向きの姿」は、常識にとらわれない自由な発想を表しているとされます。
→ 「新しいものを想像し、上へと伸びる力」を象徴。
③ 土地を豊かにする「見えない力」への比喩
根粒菌と共生し、荒れ地にも緑を取り戻すルピナスは、
見えないところで世界を変える力を持っています。
この姿が、想像力が現実を豊かにする力にたとえられました。
🌷 そのほかの代表的な花言葉
- 「いつも幸せ」
- 「あなたは私の安らぎ」
- 「貪欲(どんよく)」(※英語圏での一部の意味)
「空へ向かう色」

丘の上に、ひとりの少女が立っていた。
名を莉子(りこ)という。
彼女の足もとには、色とりどりのルピナスの花が風に揺れていた。
紫、青、桃、黄、そして白――まるで絵の具をこぼしたように、丘全体がやわらかい光を放っている。
「ねえ、先生。どうしてこの花は、空のほうを向いて咲くの?」
隣でスケッチブックを広げていた美術の先生は、筆を止めて空を見上げた。
「……それはね、ルピナスが“藤の逆”だからだよ」
「藤の逆?」

「そう。藤の花は、下へ下へと垂れて咲く。まるで過去を見つめるようにね。
でもルピナスは、上へ上へと花を咲かせる。未来を見ているんだ」
先生の言葉に、莉子はしばらく花を見つめた。
風が通り抜けるたび、花たちはいっせいに空へ手を伸ばすように揺れる。
絵を描くことが好きだった莉子にとって、色はいつも“言葉”の代わりだった。
けれど最近は、絵筆を持つ手が止まることが多い。
どんなに描いても、心の中の景色を表せない気がした。
「先生。私、うまく描けないの。想像しても、頭の中がぼやけて……」

先生は微笑んで、スケッチブックを閉じた。
「想像ってね、形にすることじゃないんだ。
見えないものを見ようとする、その“力”のことを言うんだよ」
「……力?」
「そう。ほら、このルピナスもそうだろう?」
先生は花の根もとを指さした。
「この花の根には、“根粒菌”っていう小さな生き物が住んでいてね。
見えないところで、土の中の空気を変えて、土地を豊かにしてくれるんだ。
人には見えないけど、確かに働いてる。
想像力も同じ。目には見えないけど、世界を少しずつ変えるんだよ」
莉子は、ゆっくりと頷いた。
そしてスケッチブックの白いページを開き、筆を取る。

その日、彼女が描いたのは――丘いっぱいのルピナスだった。
けれど、それはただの花畑ではない。
風の音、陽のにおい、遠くの街のざわめき。
すべてが混ざり合って、まだ誰も見たことのない“色”が生まれた。
先生がそっと覗き込む。
「……いい色だね。どんな気持ちで描いたの?」
莉子は小さく笑った。
「この花たちみたいに、上を見てみようと思って」
その言葉に、先生は何も言わず、空を仰いだ。
雲の間から光が差し込み、花々が一斉に輝く。
紫も、青も、桃色も、すべてが混ざり合って、ひとつの大きな“想像”になっていく。
その瞬間、莉子ははっきりと感じた。
――自分の中にも、目には見えない力がある。
それはきっと、
どんな荒れた心の土にも、新しい色を咲かせるための力。
そしてルピナスのように、
空へ向かって伸びていくための、
「想像力」という名の翼だった。