「ガイラルディア」

基本情報
- 和名:テンニンギク(天人菊)
- 英名:Blanket flower(ブランケットフラワー)
- 学名:Gaillardia
- 科名/属名:キク科/テンニンギク属
- 原産地:アメリカ
- 開花期:5月〜10月頃
- 花色:赤、黄、オレンジ、複色(赤×黄のグラデーションが代表的)
- 草丈:30〜70cm程度
- 多年草または一年草(品種による)
ガイラルディアについて

特徴
- 花びらの外側が黄色、内側が赤色など、燃えるような色合いが特徴的。
- 長期間咲き続ける丈夫な花で、夏の暑さにも強い。
- 花形はヒマワリやガーベラに似た放射状。
- 乾燥や日差しに強く、痩せた土地でもよく育つ。
- 北アメリカの大地に群生する様子から、「大地を覆う花」として英名の“Blanket flower”がついた。
花言葉:「団結」

由来
- ガイラルディアは群れ咲きする性質があり、広い地面を一面に覆うように咲く。
→ その姿が「力を合わせてひとつになる」イメージに重なる。 - 一つ一つの花は小さくても、集まることで鮮やかな景色を作り出すことから、
「団結」「協力」「チームワーク」の象徴とされた。 - 強い日差しにも負けず共に咲き続ける姿勢が、仲間との絆や結束の象徴とされている。
「ひとつの色になる日」

照りつける夏の陽射しの中、校庭の端にある花壇で、瑠奈はスコップを握っていた。
炎天下に立ち尽くす彼女の背中を、蝉の声が包む。
「なあ、もうやめようぜ。文化祭、花壇展示なんて誰も見ねぇって」
隣でため息をついたのは、クラスメイトの海斗だった。
「でも……決まったことだし」
瑠奈は手を止めず、土をならしながら答えた。
「せっかくだから、きれいに咲かせたいの」

それは、誰に向けた言葉だったのか。
去年、クラスは文化祭の企画で意見が割れ、結局なにもできなかった。
“まとまらない”——それが、いつのまにかこのクラスの代名詞になっていた。
そんな中、担任が提案したのが「花壇展示」。
クラス全員でひとつの花壇を作るという、単純な企画だった。
けれど、実際に残ったのは数人。
そして今も、花壇の前には瑠奈と海斗だけが立っている。
「ガイラルディア、だっけ?」
海斗が袋のラベルを覗き込む。
「……派手な花だな。赤と黄色、混ざってんのか」
「うん。咲くと、まるで炎みたいなんだって」
瑠奈は微笑んだ。
「先生が言ってた。“この花はね、群れて咲くの。みんなで地面を覆うようにして”って」
その声には、どこか祈りのような響きがあった。
——ひとりじゃ、きれいに咲けない花。
その言葉が、瑠奈の心の中で何度も繰り返された。
***

数週間後、校庭の花壇は見違えるほど明るくなっていた。
黄色と赤の花びらが風に揺れ、まるで陽炎のように揺らめいている。
「……ほんとに咲いたな」
海斗がつぶやく。
「うん。頑張ったね」
瑠奈が笑った。手にはまだ土の匂いが残っていた。
そのとき、後ろから声がした。
「すげぇ、これクラスのみんなでやったの?」
振り返ると、クラスメイトたちが立っていた。
あの日、手伝いに来なかった子たち。部活帰りの姿もあれば、スマホを片手にしたままの姿もあった。

「なにこれ、めっちゃきれいじゃん!」
「赤と黄色のバランス、いい感じだね!」
「なあ、看板つけようぜ。“3年A組花壇”って!」
口々に言いながら、彼らは花壇の周りに集まっていく。
いつのまにか笑い声が広がり、誰かが写真を撮り始めた。
海斗が瑠奈の方を見て、少し照れくさそうに言った。
「……ほら、団結したじゃん。結果的に」
瑠奈は花壇に目をやった。
陽の光を浴びたガイラルディアが、まるでクラス全員の笑顔を映したように輝いている。
赤も、黄色も、どちらかが主張するわけじゃない。
互いの色を引き立てあって、ひとつの炎のように揺れている。
「うん……。みんなで咲けたね」
風が吹き抜け、花びらが一斉に揺れた。
まるで“ありがとう”と囁くように。
その瞬間、瑠奈は確かに感じた。
——バラバラだった心が、いま確かにひとつの色になったことを。