「シャコバサボテン」

基本情報
- 和名:シャコバサボテン(蝦蛄葉サボテン)
- 別名:クリスマスカクタス、デンマークカクタス
- 学名:Schlumbergera(Zygocactus)
- 科名:サボテン科
- 原産地:ブラジルの高地・森林
- 開花時期:11〜3月(冬咲き)
- 園芸分類:多肉植物・着生植物
- 花色:赤、ピンク、白、オレンジ、紫など多彩
シャコバサボテンについて

特徴
- 葉のように見えるのは茎節(けいせつ)
┗ 蝦蛄(シャコ)の甲羅に似ている形が名前の由来。 - サボテンの仲間なのに湿度が好きで、直射日光を避けるタイプ
┗ 原産地が森林の樹木に着生する環境のため。 - 冬に咲く花として人気
┗ 冷え込む季節に鮮やかな花を数多く咲かせる。 - 花は下向き〜横向きに咲き、細長い花弁が重なる繊細な形
- 日照や温度に敏感で、環境が合わないと蕾が落ちる(デリケート)
- 長寿な鉢花で、上手に育てれば毎年咲く
花言葉:「一時の美」

由来
- 花が咲く期間が比較的短く、最も華やかな瞬間が一瞬のきらめきのように過ぎることから。
- 冬の短い日々の中で、限られた期間だけ鮮やかに輝く姿が、
「儚い美しさ」「一瞬に宿る価値」を象徴するとされた。 - 蕾を落としやすく、環境に敏感で繊細な花だからこそ、咲いた瞬間の美が貴重に感じられることも由来の一つ。
「一瞬だけ咲く光」

冬の朝は、いつも静かだ。
吐く息が白く、部屋の窓には薄い氷の模様が広がっている。
優奈はその窓をそっと開け、ベランダに置いた鉢へ視線を向けた。
――シャコバサボテンが、咲いている。
昨日までは固い蕾だったはずなのに。
その花は、白と桃色が混ざった細い花弁を重ねて、まるで朝の光をすくい上げるように開いていた。
優奈は思わず息をのむ。
冬の冷たい空気のなかで、それだけがひときわ鮮やかに見えた。
「やっと、咲いたんだね……」
小さく呟くと、胸の奥がじんと熱くなる。
花が開くまでの時間の長さと、その美しさの儚さを知っているからだ。

――一時の美。
この花の花言葉は、ずっと前に母から教わったものだ。
「咲くまで時間がかかるのに、咲いたらあっという間に終わっちゃうのよ」
笑いながら、けれど少し寂しそうに母は言っていた。
優奈が小学生のころの記憶だ。
花が散ったあとも、母は何度も何度もシャコバサボテンを育て続けた。
忙しくて一緒に過ごす時間は減っていたけれど、母の部屋の窓辺にはいつも、その花があった。
優奈が高校生になる頃には、母は病気で長い時間を自宅で過ごすようになった。
「花はね、咲く瞬間だけがすべてじゃないのよ。
咲くまでに頑張っている時間があるから、ああやって輝けるの」
弱々しい声でそう言った日のことを、優奈は忘れられなかった。

だが、その冬の終わりに母は静かに息を引き取った。
ベッドの横には、咲き終わったシャコバサボテンが置かれていた。
花びらは落ちていて、そこに鮮やかさはもうなかった。
でも、優奈にはそれが不思議と悲しく見えなかった。
――一瞬の輝きは、消えてしまっても残るんだ。
母がそう教えてくれているようだった。
それから数年後。ひとり暮らしを始めた優奈は、母の残した鉢を大切に育ててきた。
花は気まぐれで、蕾が落ちてしまうこともよくあった。
けれど、今年もこうして咲いてくれた。
優奈は指先でそっと花びらに触れる。
冷たく、薄く、まるで触れた瞬間に壊れてしまいそうなほど繊細だった。
「お母さん、今年も咲いたよ」

言葉は雪のように静かに空へと消えていく。
けれど、胸の奥には小さな光が灯っていた。
――たとえ一瞬でも、誰かの心に残る美しさがある。
――短い時間だからこそ、その輝きは消えない。
優奈はゆっくり顔を上げた。
ベランダの向こう、冬空は薄く晴れていた。
その淡い光の中で、シャコバサボテンの花がひらひらと揺れる。
まるで母が微笑んでいるように見えた。
花はすぐに散ってしまうだろう。
でも、その一瞬があるからこそ、優奈は今日を大切に生きようと思える。
冬の朝日が花びらに触れ、ほんの一瞬だけきらりと光った。
優奈はその光を見逃さなかった。
心の中で、そっとつぶやく。
――今年も、ありがとう。
やがて優奈は窓を閉め、部屋に戻った。
けれど、胸の奥にはまだ温かな光が残っていた。
一瞬の美しさが、確かに息づいているように。