「キキョウナデシコ」

基本情報
和名: キキョウナデシコ(P.drummondii)、クサキョウチクトウ(P.paniculata)、ツルハナシノブ(P.stronifera)、シバザクラ(P.subulata)
学名: Phlox
科名 / 属名:ハナシノブ科 / クサキョウチクトウ属(フロックス属)
分類 :ナデシコ科 ナデシコ属
原産地 :日本、中国、朝鮮半島など
開花時期 :初夏〜秋(6月〜9月)
花色 :淡いピンク〜赤紫、白など
草丈: 約30〜80cm
キキョウナデシコについて

特徴
- 花弁が細かく裂け、ふんわりとした繊細な印象がある。
- 名前に「キキョウ」とあるが、キキョウ(桔梗)とは直接の関係はなく、色や雰囲気が似ているためこの名がついたとされる。
- 日本の秋の七草のひとつとしても知られる(ナデシコとして)。
- 日当たりと水はけの良い場所を好む。
- 観賞用として庭や野原に植えられることが多い。
花言葉:「協調」

「協調」という花言葉は、キキョウナデシコ(またはナデシコ)の持つ柔らかくしなやかな姿、そして他の植物と自然に調和して咲く性質に由来します。
- 繊細で主張しすぎない外見から、周囲との調和を大切にする姿勢を象徴。
- 群生することが多く、他の花と共に美しさを引き立て合う様子が「協調性」を感じさせる。
- 日本文化における「大和撫子」の美徳(控えめ、思いやり、調和)とも関係があると考えられています。
「撫子の咲く庭で」

祖母の家の裏庭には、毎年夏になると、淡いピンク色のキキョウナデシコが揺れていた。風にそよぐその姿は、まるで遠い昔の誰かが笑っているように見えた。
「この花はね、協調の花言葉を持ってるんだよ」
小学三年生の夏、祖母が小さなスコップを片手にそう言った。私は土遊びの途中で手を止め、花をじっと見つめた。「協調ってなに?」
祖母は少し考えてから言った。「自分だけ目立とうとせず、まわりと上手にやっていくこと。助け合って、心を寄せ合うことかな」

そのときは、なんとなく分かったような、分からなかったような顔をしてうなずいた。でも今になって思えば、あの言葉は私の中に深く根を下ろしていたのだ。
十年後、私は東京の大学に通い、四人部屋のシェアハウスで暮らしていた。地方から出てきた同年代の女の子たちと一緒に生活するのは、想像以上に気を使う。冷蔵庫の使い方、洗濯機の順番、深夜の音…。ささいなことがすぐに摩擦を生む。
ある夜、私は一人だけリビングに残っていた。軽い言い合いのあと、空気は凍りついたままだった。
「何も言わないって、結局逃げてるんじゃないの?」
誰かの言葉が耳に残っていた。

けれどその時、ふと思い出したのは、あの裏庭で祖母が語った「協調」という言葉だった。主張しすぎず、でも黙りこくるでもなく、花のようにそっと寄り添うこと。そんなことが、人との関係でもできるだろうか。
次の日、私は小さな花瓶に一輪のナデシコを差して、リビングのテーブルに置いた。説明は何もなかった。でも誰かがそれに気づいて、「きれい」とぽつりと呟いた。
それがきっかけだった。少しずつ、皆の表情が和らいだ。お互いに譲り合うこと、感謝を言葉にすること、それが自然と生まれてきた。
春休み、私は久しぶりに祖母の家に帰った。裏庭には、まだ冬の名残があったけれど、ナデシコの芽がいくつか顔を出していた。

祖母は相変わらず穏やかに笑っていた。
「ちゃんと咲いてるよ。協調の花は、ちゃんとね」
私はナデシコのそばにしゃがみこみ、小さな芽にそっと触れた。しなやかで、けれど確かにそこに根を張っている。
人と生きるということは、花のように寄り添うことだと思う。自分だけが咲こうとすれば、やがてその花は折れてしまう。けれど、共に咲くことを選べば、風の中でもきっと、互いを支え合って揺れることができる。
ナデシコの咲く庭で学んだことは、今も私の心の中で、そっと花を咲かせている。