8月9日の誕生花「キョウチクトウ」

「キョウチクトウ」

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基本情報

  • 学名Nerium oleander
  • 科名:キョウチクトウ科 (Apocynaceae)
  • 原産地:インド、中近東
  • 分類:常緑低木〜小高木
  • 花期:6月〜8月(暖地では初夏から秋まで長く咲く)
  • 花色:赤、桃色、白、黄色など
  • 樹高:3〜5mほど
  • 耐性:非常に耐暑性・耐乾性に優れ、公害や潮風にも強い

キョウチクトウについて

Jacques GAIMARDによるPixabayからの画像

特徴

  1. 葉の形と名前の由来
    葉は細長く、竹の葉に似ています。また枝ぶりや樹形はモモ(桃)のように見えることから、「竹」と「桃」を合わせて「夾竹桃」と呼ばれます。
  2. 長期間咲く鮮やかな花
    夏の強い日差しの中でも鮮やかな花を咲かせ続けるため、街路樹や公園、学校の敷地などによく植えられます。
  3. 全草が有毒
    花・葉・茎・根・樹液すべてに強い毒性(オレアンドリンなどの強心配糖体)があります。少量でも摂取すると嘔吐・下痢・不整脈などを引き起こし、重篤な場合は死に至ることもあります。枝を燃やした煙にも有毒成分が含まれるため、取り扱いには注意が必要です。
  4. 生命力の強さ
    乾燥や痩せ地、大気汚染にも耐え、ほとんど放置でも育つため、戦後の荒廃地や災害復興の緑化にも利用されてきました。

花言葉:「危険な愛」

キョウチクトウの花言葉はいくつかありますが、その中でも「危険な愛(Dangerous Love)」は特に有名です。
この由来には以下のような背景があります。

  1. 美しさと毒性のギャップ
    鮮やかで美しい花姿にもかかわらず、全草に猛毒を含むという性質が、「見た目に魅了されながらも、近づくと命を脅かす存在」という二面性を感じさせます。
    →「惹かれるほど危険」という、人間関係や恋愛におけるアンビバレンスな感情に重ねられた。
  2. 耐久性と執着のイメージ
    どんな環境でも枯れずに咲き続ける生命力は、情熱的で諦めない愛にも例えられます。しかしその愛が毒を持つ場合、やがて破滅を招く――という警句的意味合いが込められたともいわれます。
  3. 海外文化での象徴性
    西洋でもオレアンダー(キョウチクトウ)は「美しいが致命的(Beautiful but deadly)」という象徴で文学や絵画に登場し、危険と魅惑が同居するモチーフとして扱われてきました。

「オレアンダーの庭で」

Beatrice SchmukiによるPixabayからの画像

六月の終わり、蒸した風が港町をなぞる。古びた屋敷の庭で、ピンク色の花が群れて咲き誇っていた。
――キョウチクトウ。
葉は竹のように細く、花は桃のように柔らかく、けれど全草に毒を持つという。

「きれいでしょう?」
背後から声がした。振り返ると、白いワンピースの女性が立っていた。艶やかな黒髪が肩に落ち、瞳は海を映して青く見える。
「でもね、触ってはだめ。少しの油断で、命を奪うの」

僕は笑った。「そんな危ない花、どうして庭いっぱいに?」
「危ないからこそ、美しいのよ」
彼女はそう言って、花の間に足を踏み入れた。

彼女と出会ったのは、この町に仕事で滞在して三日目の夜だった。港のバーで、彼女はカウンター越しに僕を見て微笑んだ。それが全ての始まりだった。
翌日、案内されたのがこの屋敷の庭だ。彼女は植物学を学んだことがあるらしく、キョウチクトウの耐久性や毒性を淡々と語った。その口ぶりは、知識というより告白のように聞こえた。

日が傾くにつれ、彼女の言葉は妙に熱を帯びていった。
「どんな環境でも枯れないの。海風にも砂にも負けず、毎年必ず花を咲かせる。でも…その愛情は毒なのよ。与えられれば与えられるほど、相手を蝕んでしまう」

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僕はその時、ふと彼女の手首にうっすらと残る赤い跡に気づいた。まるで蔓か何かで絞められたような痕。それを見た瞬間、彼女の言う“毒”は花のことだけではないと悟った。

夜になり、海から湿った風が吹き込む。
「今夜は帰らないで」
彼女はそう言い、僕の手を取った。指先は冷たく、それでいて震えていた。理由を問うと、彼女は笑いながら囁いた。
「あなたも、キョウチクトウに触れてしまったのよ」

その夜、夢を見た。庭いっぱいの花が音もなく揺れ、甘く重い香りが肺を満たす。花びらの奥で、彼女が手招きしている。

「もう逃げられない」
目を覚ますと、彼女の姿はなかった。枕元には一輪のキョウチクトウが置かれていた。

翌朝、屋敷の前に人だかりができていた。港の漁師たちが口々に言う。「あの女は昔から危ない」「関わった男は、みんな町を去るか、行方が知れなくなる」
僕は荷物をまとめ、屋敷を振り返らずに港へ向かった。だが、心臓の奥にまだ、あの花の香りがこびりついて離れない。

船が離岸する。海風の向こう、屋敷の庭が小さく見えた。
キョウチクトウが、燃えるような色で咲き誇っていた。
まるで、二度と戻れない愛を確かめるかのように。