「キンセンカ」

基本情報
- 和名:キンセンカ(金盞花)
- 別名:カレンデュラ
- 学名:Calendula
- 科名:キク科
- 原産地:地中海沿岸
- 開花時期:12月〜5月(主に冬〜春)
- 草丈:20〜60cm程度
- 一年草(日本では一年草扱いが一般的)
キンセンカについて

特徴
- 鮮やかな黄色やオレンジ色の花を咲かせる
- 寒さに比較的強く、冬の花壇を彩る
- 太陽の動きに合わせて花が開閉する性質がある
- 切り花・花壇・鉢植えいずれにも向く
- 食用・薬用としても利用される(ハーブとして有名)
- 育てやすく、初心者向けの花
花言葉:「乙女の姿」

由来
- 花が太陽に向かって素直に咲く姿が、純真な少女を思わせるため
- 派手すぎず、明るく可憐な印象を持つことから
- 冬の寒さの中でも健気に咲く様子が、慎ましく清らかな乙女像と重ねられた
- 西洋でも「純粋さ」「若さ」「希望」と結びつけられてきた歴史がある
「陽だまりに咲くひと」

その花は、いつも朝いちばんに太陽を探していた。
まだ冷えの残る校庭の片隅、誰に教えられたわけでもないのに、花弁をまっすぐ光の方へ向けて開く。その姿は、あまりにも素直で、見ているこちらの胸まで澄んでくるようだった。
紗季がその花に気づいたのは、中学二年の冬だった。校舎裏の花壇は地味で、誰も足を止めない場所だったが、そこにだけ小さな明るさがあった。派手ではない。けれど、曇り空の下でも、確かにそこだけ色が生きている。
「寒くないのかな」

思わず口に出した自分の声に、紗季は少し驚いた。誰に聞かせるでもない言葉だった。花は何も答えない。ただ、太陽の気配に気づくと、さらに顔を上げるように見えた。
紗季は、自分がその花に似ているとは思わなかった。目立つことは苦手で、声も大きくない。好きな気持ちがあっても、胸の奥にしまい込んでしまう。慎ましく生きることが、いつの間にか身についていた。

それでも、花壇の前に立つ時間だけは、心がほどけた。冬の冷たい風が吹き抜けても、その花は折れず、萎れず、ただそこに在り続ける。清らかで、揺るがない姿だった。
ある日、クラスメイトの遥が言った。「紗季ってさ、静かだけど、なんか明るいよね」。突然の言葉に、紗季は返事ができなかった。ただ、頬が少し熱くなった。
明るい、という言葉が、自分に向けられることなどないと思っていた。けれど、その夜、窓辺で思い出したのは、あの花の色だった。派手ではないけれど、見る人の心にそっと残る光。

春が近づくにつれ、花壇の花は少しずつ増えていった。それでも、最初に咲いていたあの花は、変わらず太陽を見上げていた。希望を信じることを、忘れていないかのように。
卒業式の日、紗季は花壇の前に立ち、深く息を吸った。冷たさの中に、かすかなあたたかさが混じっている。花は、やはり光の方を向いている。
純粋であることは、弱いことじゃない。若さとは、迷いながらも光を信じる心のことだ。紗季は、ようやくそれを理解した気がした。
太陽に向かって咲く花のように、彼女もまた、一歩だけ前を向く。希望は、いつだって静かに、足元で芽吹いているのだから。