「センリョウ」

基本情報
- 学名:Sarcandra glabra(Chloranthus glaber)
- 科名/属名:センリョウ科/センリョウ属
- 分類:常緑小低木
- 原産地:日本、朝鮮半島、中国、マレーシアなど、東アジアの暖帯から熱帯
- 開花時期:6〜7月
- 結実・観賞期:11月〜翌1月
- 用途:正月飾り、庭木、切り枝
センリョウについて

特徴
- 光沢のある濃緑色の葉を一年中保つ
- 冬に鮮やかな赤い実を多数つけ、縁起物として親しまれる
- 実は葉の上につくため、見栄えが良い
- 半日陰を好み、和風庭園や林床でも育ちやすい
- 病害虫に比較的強く、管理が容易
花言葉:「恵まれた才能」

由来
- 葉の上に実を整然と実らせる姿が、才能を自然に発揮している様子に重ねられた
- 冬という厳しい時期でも美しい実をつけることから、環境に左右されず力を発揮できる資質を象徴
- 派手ではないが、必要な時に価値を示す姿が「内に秘めた才能」に例えられた
「葉の上の星」

冬の朝、薄い霜が庭石を白く縁取るころ、由良は祖母の家の縁側に腰を下ろし、湯気の立つ湯呑みを両手で包んでいた。庭の奥、半日陰に植えられたセンリョウが、静かに赤い実を掲げている。葉の上に、迷いなく、まっすぐに。まるで小さな星が規則正しく並んだようだった。
「派手じゃないけどね、あれは強いよ」
祖母はそう言って、枯葉を掃く手を止めた。「寒い時期に、ちゃんと実を見せるんだから」

由良は頷いた。都会での仕事に行き詰まり、帰省したばかりだった。成果を出せと言われるほど、何を出せばいいのかわからなくなる。自分には、これといった才覚がないのではないか。そんな疑いが胸の奥に澱のように溜まっていた。
センリョウの実は、葉の下に隠れない。誇示もしない。ただ、そこに在る。由良は近づいて目を凝らした。実の一粒一粒が、均等な距離を保ち、互いに邪魔をしない。自然に、整っている。努力の跡が見えないからこそ、軽やかに見えるのだろうか。

祖母は続けた。「才能ってね、見せびらかすものじゃないよ。必要なときに、ちゃんと役に立つ。それでいいんだ」
その言葉は、冷えた空気の中で、意外なほど温かく響いた。
由良は、過去の自分を思い返す。誰かの前で大きな成果を誇った記憶はない。だが、困っている同僚の資料を整え、締切前に静かに穴を塞いできた。トラブルの夜、最後まで残って片付けた。拍手はなかったが、翌朝、仕事は進んでいた。葉の上の実のように、目立たずとも、必要な場所に在ったのではないか。
昼が近づくにつれ、庭に光が差し込む。センリョウの赤が、いっそう鮮やかになった。冬という厳しい時期にこそ、色は深まる。環境が厳しいからこそ、力は研ぎ澄まされるのかもしれない。

「戻るの?」と祖母が尋ねた。
由良は少し考えてから、頷いた。「うん。派手じゃなくていい。必要なときに、ちゃんと役に立てるように」
出発の朝、祖母は小さな鉢を手渡した。センリョウだった。「持っていきなさい。葉の上を、よく見て」
由良は鉢を抱え、赤い実を見つめる。整然と、しかし自由に並ぶ星たち。そこには、自然に発揮される才能の形があった。隠さず、奢らず、冬を越えてなお輝く力。
列車が動き出す。窓の外で景色が流れる中、由良は胸の奥に、確かな手応えを感じていた。自分の才能は、もうここにある。葉の上に、静かに。