1月30日の誕生花「タイツリソウ」

「タイツリソウ」

基本情報

  • 和名:タイツリソウ(鯛釣草)
  • 別名:ケマンソウ(華鬘草)、ブリーディングハート
  • 学名:Lamprocapnos spectabilis
  • 科名/属名:ケマンソウ科/ケマンソウ属
  • 原産地:中国東北部(黒竜江省)から朝鮮半島
  • 開花時期:4月〜5月頃
  • 草丈:30〜80cm程度
  • 花色:ピンク、白など

タイツリソウについて

特徴

  • ハート形の花が連なって咲き、弓なりに垂れ下がる独特の姿をもつ
  • 花の先端から小さな白い突起が垂れ、雫や涙のように見える
  • 茎がしなやかで、風に揺れる姿が繊細な印象を与える
  • 葉は柔らかく、切れ込みのある淡い緑色
  • 見た目の愛らしさとは対照的に、やや儚さを感じさせる雰囲気をもつ


花言葉:「恋心」

由来

  • ハート形の花姿が、胸に秘めた想いそのものを象徴していると考えられたため
  • 花が下向きに咲く様子が、表に出せない恋心や内に秘めた感情を連想させた
  • 連なって咲く花が、募っていく想い・連続する感情の揺れを思わせた
  • 先端の白い部分が、恋によるときめきや切なさの「涙」に見えたことから
  • 可憐で壊れやすそうな姿が、始まったばかりの繊細な恋の象徴として語られるようになった


「胸に下がる、小さな心」

 春の終わり、校舎裏の花壇には誰に教えられたわけでもなく、タイツリソウが咲いていた。淡いピンクの花が弓なりの茎に連なり、どれも少しだけうつむいている。その形が、どうしようもなく心臓に似ていることに、真帆は気づいてから、足を止めずにはいられなくなった。

高校三年の春。進路や将来の話題が日常に溶け込む中で、真帆の胸に芽生えた想いは、どこにも提出できないまま、静かに膨らんでいた。相手は同じクラスの航平。よく笑い、誰にでも分け隔てなく接する彼は、特別な言葉を投げかけたわけではない。それでも、ふと視線が合った瞬間や、隣の席でノートを覗き込む距離に、真帆の心は確かに揺れた。

けれど、その想いを口にする勇気はなかった。好きだと伝えた瞬間、今の関係が壊れてしまう気がしてならなかったからだ。だから真帆は、毎朝花壇の前に立ち、下向きに咲くタイツリソウを眺めた。まるで、自分の心を代わりに抱えてくれているように思えた。

花は一つひとつが独立しているのに、茎に沿って連なって咲いている。ひとつの想いが、また次の想いを呼び、止めどなく続いていく。その姿は、航平を想う気持ちが日々積み重なっていく自分自身と重なった。どうしても消せない感情。けれど、表に出すこともできない感情。

ある日の放課後、風が吹き、花壇のタイツリソウが一斉に揺れた。花の先端にある白い小さな突起が、雫のように揺れる。それはまるで、恋が生むときめきと切なさが、静かに零れ落ちそうになっているようだった。真帆は胸を押さえ、息を整えた。好きでいるだけで、こんなにも心が満たされ、同時に苦しくなるのかと、初めて知った。

「この花、かわいいよね」

背後から声がして、真帆は驚いて振り返った。航平だった。彼は花壇を覗き込み、無邪気に笑う。

「ハートみたいでさ。なんか、守りたくなる」

その言葉に、真帆の胸が強く脈打った。彼が何気なく放った一言は、真帆の心の奥にそっと触れた。恋心は、必ずしも伝え合うことで完成するものではないのかもしれない。想うだけで、確かに存在する。壊れやすく、可憐で、それでも本物の感情。

その日から真帆は、少しだけ変わった。想いを無理に隠そうとするのをやめた。告白はしない。それでも、笑顔で話し、目を逸らさず、同じ時間を大切にする。タイツリソウのように、うつむきながらも、確かに咲き続ける恋でいいと思えたからだ。

花壇の花はやがて季節とともに姿を消すだろう。それでも、胸に宿ったこの恋心は、簡単には消えない。始まったばかりの、繊細で未完成な想い。それこそが、今の真帆にとって、何よりも確かな「恋」だった。

タイツリソウは今日も静かに揺れている。誰にも見せつけることなく、けれど確かに、そこに心を下げながら。