12月5日の誕生花「ナンテン」

「ナンテン」

基本情報

  • 学名:Nandina domestica
  • 科名:メギ科
  • 分類:常緑低木
  • 原産:日本、中国、東南アジア
  • 別名:ナンテンギ、ナンテンチク
  • 開花期:6〜7月
  • 結実期:冬(11〜2月頃に赤い実)
  • 用途:庭木、縁起木、生け花、正月飾りなどに利用

ナンテンについて

特徴

  • 「難転(難を転じて福となす)」の語呂から、古くから縁起の良い植物とされる。
  • 初夏に白い小花を咲かせ、その後に鮮やかな赤い実を長くつける。
  • 冬でも落葉しないため、実の赤と葉の緑のコントラストが美しい。
  • 葉は季節で色が変化し、春の赤芽 → 夏の緑 → 冬の紅葉と表情が豊か。
  • 枝ぶりが柔らかく、風に揺れる姿が繊細で優しい印象を与える。
  • 病害虫に強く、手入れが簡単で長寿。

花言葉:「私の愛は増すばかり」

由来

  • 白い花・緑の葉・赤い実と、季節を追うごとに彩りが増す姿から
    → “時間とともに深まる愛情” を象徴すると考えられたため。
  • 秋から冬にかけて実が赤く色づき、
    寒さの中でも赤い実が鮮やかに残り続ける様子が、
    “育ち続ける想い” を連想させた。
  • 一度実がつくと長期間残ることから
    消えない愛、積み重なる愛情のイメージにつながった。

「冬の実が落ちるころ」

夕暮れの光が、庭の片隅に立つナンテンの実を赤く染めていた。冬の始まりを告げるような冷たい風が吹き、そのたびに葉がやわらかく揺れる。その光景を、結衣(ゆい)は縁側に座ってぼんやりと眺めていた。

 この家に帰ってきたのは、久しぶりだった。街での暮らしに疲れ、何となく行き場をなくした心が、ふと「帰りたい」と呟いたのだ。
 けれど、ここにはもう祖父はいない。
 二年前の冬、突然の別れが訪れた。結衣が最期に会えなかったことを、家のどこを歩いても思い出す。

 庭のナンテンは、もともと祖父が植えたものだった。

 「ナンテンはな、季節が移るほどきれいになるんだ」
 祖父はいつもそう言いながら、葉を手のひらでなでていた。
 「最初は白い花。夏には緑の葉が茂って、冬には赤い実になる。色が増えるっていうのは、積み重なっていくからなんだよ」

 その言葉が、今になって胸に沁みる。
 ――色が増えるほど、積み重なっていく。

 目を閉じると、祖父の笑い声がよみがえる。小さな頃、庭で転んで泣いたとき、真っ先に抱き上げてくれたこと。夏の夜に花火をして、煙でむせながら笑ったこと。忙しくなって帰らなくなっても、「元気ならそれでいい」と言ってくれたこと。

 どれも、あたりまえだと思っていた。
 けれど、もう返せない。

 風に揺れる枝が、そっと実を鳴らした。
 赤い実が冬の薄い光の中でほのかに揺れ、結衣の視線を引き寄せる。

 「あ……」

 ふと、ひと粒の実が落ちた。
 雪も積もっていない土の上に、ぽとりと落ちて弾けるように見えた。

 実が落ちる瞬間を見て、結衣はなぜか胸が締めつけられた。
 ――季節が変わっても、ずっと残っていたのに。
 赤いままで、冷たい風にも負けないまま、ずっと。

 なのに、今、音もなく落ちた。

 「……どうしてかな」

 問いかけは、庭に溶ける。
 答えは風に流れていったが、代わりに、思いがけない気づきが胸に満ちてきた。

 ナンテンが季節ごとに色を増すように。
 祖父との日々も、時間が経つほど鮮やかになっていく。
 忘れるどころか、むしろ増えていく。
 消えるのではなく、重なり続けていく。

 赤い実は落ちたけれど、それは終わりじゃない。
 実が落ちることで土が潤い、また新しい芽に力を渡すように――愛情も、誰かの中で姿を変えながら生き続ける。

 「おじいちゃん……」

 名前を呼んだとたん、涙がひと粒こぼれた。
 その涙は冷たいはずなのに、頬を伝う感触はどこか温かかった。

 結衣は立ち上がり、そっとナンテンの前に歩み寄った。
 枝先の赤い実が、夕日に照らされてきらりと光る。
 まるで、まだここにいるよと伝えるみたいに。

 「私ね、忘れてないよ。……むしろ、増えてくんだよ。会えない時間が長いほど」

 風がふわりと吹いた。
 ナンテンが優しく揺れ、葉がさざめく。
 それは返事のようで、慰めのようでもあった。

 結衣は深呼吸をし、もう一度実を見つめる。
 冬の庭の赤は、小さくても確かにあたたかい。
 積み重なる愛情は、色を増しながら、これからも胸の中に残り続ける。

 ――私の愛は増すばかり。

 ナンテンの花言葉が、初めて本当の意味を帯びて胸に沁みた。

 夕暮れの庭に、赤い実がひっそりと灯る。
 それは、時間を超えて息づく愛の光だった。