「ノースポール」

基本情報
- 和名:ノースポール
- 別名:クリサンセマム・パルドサム
- 学名:Leucanthemum paludosum(Chrysanthemum paludosum)
- 科名/属名:キク科/レウカンセマム属
- 原産地:北アフリカ
- 開花時期:12月〜5月(冬〜春)
- 花色:白(中心は黄色)
- 草丈:20〜40cm
- 分類:一年草
- 用途:花壇、鉢植え、寄せ植え
ノースポールについて

特徴
- 白と黄色のコントラストが鮮やか
清楚な白い花弁と、明るい黄色の花芯が印象的で、遠くからでもよく目立つ。 - 寒さに強く、長く咲き続ける
冬の寒さに耐え、霜にも比較的強いため、花の少ない季節にも庭を明るくする。 - 手入れが簡単で育てやすい
丈夫で病害虫にも強く、ガーデニング初心者にも向く。 - 次々と花を咲かせる性質
一輪が終わってもすぐに新しい花をつけ、全体として長期間花壇を彩る。 - 控えめだが親しみやすい姿
派手さはないが、整った形と素直な咲き方が安心感を与える。
花言葉:「誠実」

由来
- まっすぐで素直な花姿から
花弁が均等に並び、歪みのない姿が、嘘や飾りのない心=誠実さを連想させた。 - 環境に左右されず咲き続ける性質
寒さや多少の悪条件でも、変わらず花を咲かせる様子が「一貫した心」「裏切らない姿勢」を象徴している。 - 長い開花期が示す信頼感
派手に咲いてすぐ散るのではなく、静かに、しかし長く咲き続けることが、継続する誠意や信頼につながった。 - 白い花色の象徴性
白は純粋さ・正直さを表す色とされ、ノースポールの印象と重なり「誠実」という花言葉が与えられた。
「白は、嘘をつかない」

冬の朝、真帆はマンションのエントランス横に並ぶ花壇の前で、ほんの数秒だけ足を止める。白い小さな花が、寒風に揺れながらも整った形を崩さずに咲いていた。ノースポールだ、と彼女は名前を知っているわけでもないのに、なぜか心の中でそう呼んでいた。
花弁は均等で、中心の黄色を囲むようにまっすぐ並んでいる。華美な色でも、甘い香りでもない。それなのに、毎朝目に入るたび、少しだけ胸が落ち着いた。
真帆は、嘘が苦手だった。
正確には、嘘をつかずに生きることが、年々難しくなっていると感じていた。

職場では、空気を読むことが最優先される。曖昧な返事、濁した言葉、賛成でも反対でもない表情。それらを使いこなせる人ほど「大人」と呼ばれ、評価される。真帆はそれができなかった。
正直に言えば角が立ち、黙れば誤解される。誠実でいようとするほど、不器用さだけが目立った。
ある日、会議で提出された企画案に、真帆は違和感を覚えた。数字の整合性が取れていない。見栄えはいいが、実行すれば現場が疲弊する。
言うべきか、黙るべきか。
迷っている間に、会議は終わった。
その夜、帰宅途中で花壇の前に立ち止まった。
ノースポールは、相変わらず同じ姿で咲いている。寒さのせいで他の花が弱っている中、白い花弁は歪まず、欠けもせず、淡々とそこにあった。

派手に自己主張するわけでもない。
だが、昨日と同じ姿で、今日も咲いている。
「……ずるいな」
真帆は小さく息を吐いた。
変わらずにいることが、こんなにも強いなんて。
翌朝、彼女は会議室で手を挙げた。
声は震えた。視線が集まるのが怖かった。それでも、事実だけを、飾らずに伝えた。感情は抑え、数字と現場の状況を淡々と。
一瞬、空気が止まった。
だが、誰かがうなずき、別の誰かが補足を加え、議論が生まれた。最終的に企画は修正され、より現実的な形に落ち着いた。

評価がどうなるかは分からない。
それでも、真帆の胸には、奇妙な軽さがあった。
帰り道、花壇の前でまた足を止める。
ノースポールは、やはり白いままだった。
風に揺れても、形は崩れない。昨日と同じように、今日も咲き続けている。
誠実とは、派手な正しさではない。
誰かに認められるための姿勢でもない。
たぶんそれは、自分の中で一度決めた「嘘をつかない」という約束を、何度も、何日も、裏切らずに守り続けること。
白は、嘘をつかない。
汚れやすいからこそ、誤魔化しがきかない。
真帆は小さく微笑み、再び歩き出した。
明日も、同じ花が咲いているだろう。
そして自分もまた、同じ心でいられたらいい。
ノースポールは何も語らない。
それでも、その静かな白は、今日も変わらず、誠実だった。