「ハマユウ」

基本情報
- 学名:Crinum asiaticum var. japonicum
- 分類:ヒガンバナ科・ハマオモト属の常緑多年草
- 原産地:インドネシアとスマトラ
- 開花期:6~9月、主に夕方から夜間に開花し、芳香を放つ
- 外観:幅広く厚い葉が放射状に広がり、花茎に白い小花が10個ほど咲きます。花びらは細長く、中心部に赤い雄しべがアクセントに
- 生育環境:日当たり・水はけの良い砂地(海岸沿い)を好み、暖地向き。地植え・鉢植えどちらも可能で、寒冷地では冬越しに注意が必要
ハマユウについて

特徴
- 自生地:海岸線に群生し、葉が「オモト」(万年青)に似ているため別名「ハマオモト」とも
- 香りと開花:夜に開花して強い芳香を放ち、主に蛾などを誘引する虫媒花
- 種子の特性:種子はコルク質の厚皮で覆われ、水に浮く性質があり、海流に乗って遠くへ拡散・発芽する能力あり
- 有毒性:全草有毒で、特に球茎は強い毒性を持つが、薬用としての利用もある
花言葉:「どこか遠くへ」

- 主な花言葉:
- 「どこか遠くへ」
- 「汚れがない」
- 「あなたを信じます」
💡由来のひもとき
- 「汚れがない」:
神事で使われる白い布・“木綿(ゆう)” に似た清らかな白い花色から - 「どこか遠くへ」:
種子が浮力を持って海流に流され、新たな土地で発芽する姿にちなむ - 「あなたを信じます」:
「遠くへ流れても、必ず根を下ろし花を咲かせる」というたくましさと期待を込めた想いから
「どこか遠くへ、きっと届く」

あの夏の日、彼女は港に立っていた。
セーラー服の襟が風に揺れ、白いハマユウの花が足元でそっと揺れていた。
「ここ、まだ覚えてる?」
穂乃香がそう言って微笑んだ。
海辺のこの小さな町で、僕らは育った。中学三年の夏。図書室で偶然隣の席に座ってから、毎週末、海沿いの堤防で話すようになった。彼女は東京からの転校生で、最初はよそよそしかった。でも、少しずつ距離が縮まり、名前を呼び合えるようになったのは、ちょうどハマユウが咲き始めた頃だった。

「この花、知ってる? ハマユウっていうんだって」
彼女はそう言って、白く細長い花びらを指差した。
「花言葉はね、“どこか遠くへ” だって」
「なんか、君みたいだな」
そう言ったら、彼女は少し驚いた顔をしてから、笑った。
東京に戻ることが決まったのは、その翌週のことだった。
「私、ここが好きだったよ。思ったよりも、ずっと」
最後に会った日、彼女はひとつだけお願いをしてきた。
「この花、来年もちゃんと見ておいて。毎年ここで咲いてるか、教えて」って。

あれから十年。
連絡先も、手紙のやりとりも、いつの間にか途絶えていた。東京の高校に進学した彼女のその後は知らない。けれど僕は毎年、ハマユウが咲くこの場所に来ていた。
白い花は、変わらずそこにいた。潮風に揺れながら、まるで何かを待っているかのように。
ハマユウの種子は海に浮かび、遠くの浜辺まで運ばれていく。その途中で沈んでしまうこともあれば、知らない土地で芽を出し、やがて花を咲かせることもあるという。
――どこか遠くへ。それでも、きっと届く。

ふと、誰かが近づいてくる気配がした。振り返ると、白いワンピースの女性が立っていた。風に揺れる髪の奥に、懐かしい面影があった。
「やっぱり……まだ咲いてたんだ」
穂乃香だった。
時が過ぎても、変わらない花の香りと、あの夏の記憶が、確かに僕らをつないでいた。
「ねえ、覚えてる? “どこか遠くへ”って」
彼女の声に、僕はうなずいた。
「そして、“あなたを信じます”――だったよな」
笑いながら見つめ合ったその瞬間、海から吹いた風が、ふたりの間にハマユウの香りを運んだ。