「ランタナ」

基本情報
- 科名:クマツヅラ科(またはシソ科に分類されることも)
- 属名:シチヘンゲ属(Lantana 属)
- 学名:Lantana
- 原産地:熱帯アメリカ、ブラジル、ウルグアイ
- 開花時期:5月〜10月(長期間咲く)
- 花色:黄、橙、赤、桃、白、紫など多彩(咲き進むにつれ色が変化)
- 分類:常緑低木または多年草
- 別名:シチヘンゲ(七変化)、コウオウカ(紅黄花)
ランタナについて

特徴
- 小さな花が集まって球状に咲く「散形花序」が特徴的。
- 花の色が咲き進むにつれて変化する(例:黄色→オレンジ→赤)。
- 日当たりと高温を好み、丈夫で育てやすい。
- 熱帯では低木として大きく育つが、日本では鉢植えや花壇で栽培されることが多い。
- 葉には独特の香りがあり、防虫効果があるとされる。
- 世界の一部地域では繁殖力が強く、外来種として問題視されることもある。
花言葉:「心変わり」

由来
- ランタナの花は咲き始めと咲き終わりで花色が変化する。
→ 例:黄色い花が次第にオレンジ、赤、紫などに変わる。 - この「次々と色を変える」姿が、移ろいやすい心や感情の変化を連想させた。
- そのため、「心変わり」「移り気」「合意」「確かな計画」などの花言葉が生まれた。
「七変化の庭」

夏の午後、陽射しに照らされた小さな庭で、彩りを変える花が風に揺れていた。
黄色、橙、赤、そして少し紫がかった花びら――ランタナ。
その花を見つめながら、沙耶はふと息をついた。
去年、この庭を一緒に整えたのは彼だった。
「この花、すごいよ。咲くたびに色が変わるんだ」
そう言って笑う声が、今も耳に残っている。

その頃の自分は、変わることを怖れていた。
大学を出て、就職して、同じ町に住み続ける。
それが“安定”だと思っていた。
けれど、彼は違った。
「同じ場所にいるだけが幸せじゃない。
変わることも、きっと大切だと思う」
彼はその言葉の通り、翌年には遠い街へ転勤していった。
連絡はだんだん減り、いつしか途絶えた。
心変わり――その言葉を聞くたび、胸の奥が痛んだ。

けれど今日、ランタナを見ていて思う。
この花は裏切っているわけじゃない。
色を変えるたびに、新しい季節の光をまとっている。
変化を恐れず、ただ生きている。
ふと、ポケットの中の古いスマホが震えた。
――「久しぶり。そっちは元気?」
画面に映る名前に、心臓が小さく跳ねた。
沙耶はしばらく指を止め、ランタナの花を見つめた。
陽の角度が変わるたび、色が少しずつ深くなっていく。

彼もきっと、あの頃とは違う自分になっている。
そして、自分もまた変わった。
ならば、もう「心変わり」という言葉を責める必要はないのかもしれない。
心が変わるのは、生きている証なのだから。
沙耶はスマホを両手で包み込み、短く返信を打った。
――「うん。元気だよ。庭の花も、変わらず咲いてる。」
送信ボタンを押した瞬間、風が通り抜けた。
ランタナの花がゆらりと揺れ、光を受けて七色にきらめく。
その色の移ろいを見つめながら、沙耶は微笑んだ。
変わることは、終わりではなく始まりなのだと、ようやく思えた。