11月10日の誕生花「フヨウ」

「フヨウ」

基本情報

  • 科名・属名:アオイ科フヨウ属
  • 学名Hibiscus mutabilis
  • 英名:Cotton rose / Confederate rose
  • 原産地:中国中部
  • 開花時期:8月〜10月
  • 花色:白、淡紅、濃紅(時間とともに色が変化するものもある)
  • 草丈:約1.5〜3m
  • 別名:ハチス(蓮)に似ていることから「木芙蓉(もくふよう)」とも呼ばれる

フヨウについて

特徴

  • 夏から秋にかけて咲く大輪の美しい花。1日花で、朝開いて夕方しぼむ。
  • 花径は約10〜15cmと大きく、ハイビスカスに似た形をしている。
  • 花は次々と咲くため、長期間にわたり楽しめる
  • 花色が朝は白、午後には淡紅、夕方には紅色へと変化する種類もあり、**「酔芙蓉(すいふよう)」**として知られる。
  • 丈夫で育てやすく、庭木や生け垣としても人気。
  • 葉は手のひら状で、柔らかな質感を持つ。

花言葉:「しとやかな恋人」

由来

  • フヨウの花は大きく華やかでありながら、控えめで上品な印象を与える。
  • 1日でしぼむ儚さが、奥ゆかしく静かな愛情を象徴している。
  • 「しとやかな恋人」という花言葉は、
    → その優雅な姿と短い命の儚さが、
    一途で慎ましい愛を連想させることから生まれた。
  • また、蓮(ハス)に似た清らかな美しさを持つことから、**「清楚な女性」や「品のある恋人」**の象徴とされた。

「夕暮れの芙蓉」

駅から家までの帰り道、川沿いに並ぶ芙蓉の花が夕陽に染まっていた。
 朝は白く咲いていた花が、今は淡い紅に色を変えている。

 沙織は立ち止まり、そっと一輪を見上げた。
 ――「しとやかな恋人」。
 高校の頃、彼がそう教えてくれたのを思い出す。

 夏の終わりのある日、二人でこの道を歩いた。
 彼はカメラを首にかけて、夢中で花を撮っていた。
 「芙蓉って、朝と夕方で色が変わるんだよ。まるで、人の気持ちみたいだろ」
 そう言って笑う顔を、沙織は今でもはっきり覚えている。
 その笑顔を見ながら、彼女は思った。
 ――この人の隣にいられる時間が、ずっと続けばいいのに。

 だが季節は変わり、彼は遠くの街へ行った。
 新しい仕事、新しい環境。
 連絡はだんだん減っていき、最後に届いたメッセージは「元気でな」。
 それ以来、彼からの言葉はなかった。

 沙織はその花を見つめながら、かすかに微笑んだ。
 あれから何度、夏を越えただろう。
 仕事に追われ、街に飲み込まれ、それでも――この道だけは変わらなかった。
 朝には白く、夕には紅く。
 芙蓉は今日も、静かに咲いている。

 風が吹く。
 花びらがふわりと揺れ、ひとひらが沙織の手の甲に落ちた。
 その感触は、まるで過去から届いた小さな挨拶のようだった。

 「ねえ、覚えてる? あのときの花、まだ咲いてるよ」
 心の中でそう呟く。もちろん、彼に届くわけではない。
 けれど、その儚さこそが、彼女が愛した芙蓉のようだった。

 花は1日でしぼむ。
 けれど、翌朝にはまた新しい花が咲く。
 それは終わりではなく、静かな循環。
 別れの中にも、続いていくものがあるのだと、沙織はようやく気づいた。

 陽が傾き、川面が金色に光る。
 花は少しずつ赤を深め、夜の気配を受け入れるように閉じていく。
 沙織はその姿に重ねた。
 華やかでありながら、決して騒がず、そっと咲いて散っていく――。
 まるで、あの人が残していった愛のかたちみたいだ。

 帰り際、沙織は一輪の花に小さく頭を下げた。
 ありがとう、と言葉にはしなかったが、風がそれを受け取った気がした。

 家へ向かう足取りは、なぜか軽かった。
 たとえもう会えなくても、あの日の想いは色を変えながら、今も胸の中に咲いている。
 それは、誰にも見えない――しとやかな恋の花。