10月23日の誕生花「アケビ」

「アケビ」

基本情報

  • 和名:アケビ(木通)
  • 学名Akebia quinata
  • 英名:Chocolate vine / Five-leaf akebia
  • 科名:アケビ科(Lardizabalaceae)
  • 属名:アケビ属(Akebia
  • 原産地:日本、中国、朝鮮半島
  • 分類:落葉つる性植物(つる性木本)
  • 開花期:4〜5月頃
  • 実の時期:9〜10月頃

アケビについて

特徴

  • 5枚の小葉が手のひら状に広がる、特徴的な複葉。
  • 春に、淡紫色の花(雌花)と小さな雄花を同じ株につける(雌雄同株)。
  • 花にはチョコレートのような甘い香りがあるため、英名「Chocolate vine」。
  • 秋になると果実が熟し、紫がかった果皮が自然に裂けて白い果肉が現れる。
  • 果肉は甘く食用になるが、外皮は苦味があり、山菜として炒め物などに利用される。
  • つるは丈夫で、かご細工やリースなどにも使われる。

花言葉:「偽りの魅力」

由来

  • アケビの花は、一見すると控えめで上品な印象を与えるが、近づくと強い香りを放つ。
    → 見た目と香りのギャップが「外見と内面の違い」を連想させる。
  • 紫がかった花色や果実の艶やかな見た目も、人を惹きつける“妖しい美しさ”を持つ。
  • さらに、果実の中の白い果肉と黒い種という対比が「二面性」や「裏表のある魅力」を象徴する。
    → これらの特徴から、「偽りの魅力」「隠された誘惑」といった花言葉が生まれたとされる。

「紫の果実」

夏の終わり、山道を登ると、涼しい風が頬を撫でた。
 緑の中に、ひときわ目を引く紫の実がぶら下がっている。
 ――アケビだ。

 昔、祖母がよく言っていた。
 「見た目に騙されるんじゃないよ。あの実は、見た目がきれいでも中身がどうだか分からないもんさ」
 そのときは笑って聞き流していたけれど、いまは少しだけ、その言葉の意味がわかる気がした。

 果実の皮は深い紫で、陽の光を受けて艶めいている。手を伸ばすと、指先にひんやりとした感触が伝わった。


 そっと割ると、中から白い果肉が顔を出す。
 淡い光を宿したような白。その中に、黒い種が点々と並んでいた。
 その対比が、妙に美しく見えた。

 「綺麗でしょう?」
 振り向くと、いつのまにか誰かが立っていた。
 淡い藤色のワンピースを着た女の人。見覚えのない顔だった。

 「昔は、よくこれを採りに来たの」
 彼女は微笑みながら、枝の上の果実に視線を向けた。
 「でもね、この実、食べてごらんなさい。中は甘いのに、皮は苦いのよ」
 「知ってます。祖母も同じことを言ってました」
 そう答えると、彼女は少し目を細めた。
 「人も、同じかもしれないわね」

 その言葉に、胸の奥がざわついた。
 思い浮かぶのは、街に置いてきた彼女――玲奈の顔だった。
 柔らかな笑顔。上品な声。けれどその裏には、何かを隠しているような影があった。
 わかっていたのに、惹かれてしまった。
 まるで、この紫の果実みたいに。

 「ねえ、どうして人は、苦いと知っているものを口にすると思う?」
 女の人の声が風に揺れる。
 「それでも確かめたいから……甘さの方を、信じたいからじゃないですか」
 自分でも驚くほど静かな声で答えていた。

 女の人は少し笑って、アケビの蔓を指でなぞった。
 「いい答えね。でも、信じることと、見抜くことは、少し違うのよ」
 そう言い残すと、彼女は木陰の奥に消えた。

 風が止んで、蝉の声だけが残った。
 ふと足元を見ると、先ほどのアケビの皮が落ちていた。白い果肉は消えて、黒い種だけが土に散らばっている。
 甘いものは、いつか形を失う。残るのは、苦みと影。

 けれど、俺はその種をそっと拾い上げた。
 苦さを知っても、また誰かを好きになることを、きっとやめられない。

 山を下りるころ、夕暮れの空が紫に染まっていた。
 まるで、あの果実の色のように――甘くて、少しだけ、切ない色をしていた。

9月4日、10月23日の誕生花「ダチュラ」

「ダチュラ」

基本情報

  • 分類:ナス科ダチュラ属(一年草,短命な多年草)
  • 学名:Datura metelなど
  • 原産地:インド、中東、南北アメリカ
  • 和名:チョウセンアサガオ(朝鮮朝顔)
  • 草丈:1〜2mほどに育つ
  • 花期:夏〜秋
  • 花色:白、紫、黄色など
  • 特徴:大きなラッパ状の花を咲かせ、甘く強い香りを放つ。夜に咲く種類が多く、幻想的な雰囲気を持つ。

ダチュラについて

特徴

  1. 花姿
    ラッパ型の大輪の花はエキゾチックで華やか。夜に咲き、月明かりに照らされる姿は神秘的で美しい。
  2. 香り
    芳香が強く、遠くからでも気づくほど。ただしその魅力的な香りの裏には強い毒性が潜む。
  3. 毒性
    アトロピン、スコポラミンなどのアルカロイドを含み、少量でも中毒を起こす。昔は魔女の薬や幻覚剤として用いられた伝承も残る。

花言葉:「偽りの魅力」

由来

ダチュラに「偽りの魅力」という花言葉が与えられた背景には以下のような理由があるとされています。

  • 美と毒のギャップ
    見た目は華やかで、香りも甘美だが、内実は猛毒を秘めている。その「人を惹きつけながらも命を脅かす性質」が「魅力的に見えても危険=偽りの魅力」と解釈された。
  • 幻惑のイメージ
    摂取すると幻覚や陶酔感を引き起こすため、現実を歪ませる「偽りの世界」を見せる花として捉えられた。
  • 夜に咲く妖しい美しさ
    夜の闇に浮かぶ白い花姿は神秘的で人を魅了するが、それは一時的であり、危険と隣り合わせの「まやかしの美」と考えられた。

「偽りの魅力」

古い屋敷の庭の奥、誰も近づかぬ石垣のそばに、その花は咲いていた。
 夜になると、大きな白い花が闇に浮かび上がり、甘い香りを辺りに漂わせる。その香りは人を誘うように濃厚で、風に乗って屋敷の奥まで忍び込む。

 ――ダチュラ。
 村の人々はその名を口にするのを嫌い、ただ「魔女の花」と呼んで恐れていた。

 屋敷に住む青年・廉は、その花に心を奪われていた。
 昼間は何の変哲もない緑の茂みにしか見えないのに、夜になると突如として現れる純白の花。その姿は清らかで、どこか人ならぬものの気配をまとっている。廉は気づけば毎夜、花の前に立ち尽くしていた。

 ある夜、香りがひときわ強く漂った。気づけば視界が揺らぎ、花がまるで人の姿をとったかのように見えた。
 「いらっしゃい、ずっと待っていたの」
 白い衣をまとった女が、そこに立っていた。透き通るような肌、夜の闇に溶ける黒髪。廉は抗うこともできず、その幻影に手を伸ばす。

 女は微笑み、彼の耳元に囁いた。
 「わたしと一緒に来て」

 気がついたとき、廉は屋敷の床に倒れていた。額には冷や汗がにじみ、呼吸は乱れ、喉が焼けつくように乾いていた。夢だったのか――そう思いたかったが、唇にはまだ甘い香りが残っている。

 その晩から、廉は花の幻影に取り憑かれるようになった。食事の味は感じられず、眠っても女の声が耳元で響く。「もっと近くに」「わたしを抱きしめて」。やがて彼は衰弱し、鏡に映る自分の顔が日に日に痩せ細っていくのをただ見つめるしかなかった。

 村の老婆がその噂を聞きつけ、屋敷を訪ねてきた。
 「おまえ、あの花に魅入られたのだね」
 老婆の目は鋭く、廉はうなずくしかなかった。

 「ダチュラは人を惑わす。姿も香りも美しいが、その実は毒そのもの。ほんのひと嗅ぎでも心を奪い、偽りの夢へと引きずり込む。命を削られても気づかぬまま……」

 老婆は庭へ向かい、花に塩を撒き、呪文のような言葉を唱えた。白い花は震え、やがて力尽きたように萎れた。
 その瞬間、廉の胸の重さがすっと消え、あの甘い幻影も霧散していった。

 それからというもの、廉は二度と花の咲く夜の庭へ近づかなかった。
 しかし、月の明るい晩になると、ふと耳の奥に声がよみがえる。
 「あなたは、また来てくれるでしょう?」

 彼は恐怖に身を震わせながらも、その声の甘美さを忘れることができなかった。
 ――美しさの裏に潜む毒。それが「偽りの魅力」なのだと、廉は身をもって知ったのである。