「センニチコウ」

基本情報
- 和名:センニチコウ(千日紅)
- 英名:Globe Amaranth
- 学名:Gomphrena
- 科名:ヒユ科
- 原産地:熱帯アメリカ(特にペルー、グアテマラ)
- 開花期:6〜11月
- 花色:赤、紫、ピンク、白など
- 別名:センニチソウ、千日草
- 花の構造:実際に色づいている部分は花びらではなく苞(ほう)で、その間に小さな花が咲く
センニチコウについて

特徴
- 非常に花もちが良い
- 「千日紅」という名のとおり、咲いてから色あせにくく、長く鑑賞できる。
- 切り花やドライフラワーにしても鮮やかな色を保つ。
- 耐暑性・耐乾性に優れる
- 強い日差しや高温でも元気に咲き続けるため、夏の花壇や鉢植えに最適。
- 丸く愛らしい花姿
- 球状に咲く花は小ぶりで可愛らしく、寄せ植えや花束にアクセントを添える。
- 虫や病気に強い
- 初心者でも育てやすい丈夫な植物。
花言葉:「変わらぬ恋」

色あせない美しさ
- 千日紅は花期が長く、咲き進んでも色がほとんど褪せない。
- ドライフラワーにしても発色を保つことから、「時を経ても変わらない愛情」の象徴となった。
長く寄り添う姿
- 夏から秋まで、途切れることなく咲き続ける姿が、長い年月を共に歩む恋人や夫婦の姿に重ねられた。
“千日”という名のイメージ
- 「千日」という長い期間を意味する名前そのものが、「永遠」や「不変」を連想させる。
「千日の赤」

古びた木の引き出しの奥から、小さなガラス瓶が出てきた。中には、鮮やかな赤い花が数輪――けれど、それは生花ではなく、乾いて軽くなった千日紅だった。
祖母が亡くなって三日目。遺品整理の手を止めて、私はその瓶をそっと持ち上げる。
「まだ色が残ってる……」
呟いた私の耳に、母が懐かしそうな声で言った。
「それね、おばあちゃんが若い頃にもらった花なのよ。おじいちゃんから。」

祖父は、私が生まれる前に亡くなっている。写真の中でしか知らない人だ。
母は瓶を手に取り、ゆっくりと蓋を開けた。ふわりと乾いた香りが広がる。
「二人が結婚する前、初めての誕生日に贈られたんだって。千日紅はね、色あせないでずっと残るから、“変わらぬ恋”って意味があるのよ。」
私は花を一本取り出して光にかざした。
驚くほど赤が鮮やかで、時間を閉じ込めたみたいだった。五十年以上経っているはずなのに、少しも褪せていない。

母の話では、祖父は口数の少ない人で、花なんて似合わなかったらしい。それでも、若かった祖母に「長く一緒にいたい」という思いを伝えたくて、花屋でこの小さな赤い花を選んだという。
祖母はその花をずっと部屋に飾り、色あせてきた頃にドライにして瓶に詰めた。瓶の口を閉じた日から、もう一度も開けなかったそうだ。
私は瓶を見つめながら思った。
――祖母にとって、この赤は祖父そのものだったのだろう。
夏から秋まで、途切れず咲き続ける千日紅のように、二人の時間は静かに積み重なっていったのだ。

葬儀の朝、私は祖母の枕元に瓶を置いた。
花は声を発しない。それでもきっと、祖父の言葉を代わりに届けてくれる。
「ありがとう。変わらず愛しているよ。」
そんな声が、心の中で確かに聞こえた気がした。
火葬の煙が空へと溶けていく。私は瓶から一輪を取り出し、そっとポケットにしまった。
色あせない赤は、きっとこれからも私にとっての“変わらぬ恋”の証になるだろう。