11月9日の誕生花「ランタナ」

「ランタナ」

基本情報

  • 科名:クマツヅラ科(またはシソ科に分類されることも)
  • 属名:シチヘンゲ属(Lantana 属)
  • 学名Lantana
  • 原産地:熱帯アメリカ、ブラジル、ウルグアイ
  • 開花時期:5月〜10月(長期間咲く)
  • 花色:黄、橙、赤、桃、白、紫など多彩(咲き進むにつれ色が変化)
  • 分類:常緑低木または多年草
  • 別名:シチヘンゲ(七変化)、コウオウカ(紅黄花)

ランタナについて

特徴

  • 小さな花が集まって球状に咲く「散形花序」が特徴的。
  • 花の色が咲き進むにつれて変化する(例:黄色→オレンジ→赤)。
  • 日当たりと高温を好み、丈夫で育てやすい。
  • 熱帯では低木として大きく育つが、日本では鉢植えや花壇で栽培されることが多い。
  • 葉には独特の香りがあり、防虫効果があるとされる。
  • 世界の一部地域では繁殖力が強く、外来種として問題視されることもある。

花言葉:「心変わり」

由来

  • ランタナの花は咲き始めと咲き終わりで花色が変化する。
    → 例:黄色い花が次第にオレンジ、赤、紫などに変わる。
  • この「次々と色を変える」姿が、移ろいやすい心や感情の変化を連想させた。
  • そのため、「心変わり」「移り気」「合意」「確かな計画」などの花言葉が生まれた。

「七変化の庭」

夏の午後、陽射しに照らされた小さな庭で、彩りを変える花が風に揺れていた。
 黄色、橙、赤、そして少し紫がかった花びら――ランタナ。

 その花を見つめながら、沙耶はふと息をついた。
 去年、この庭を一緒に整えたのは彼だった。
 「この花、すごいよ。咲くたびに色が変わるんだ」
 そう言って笑う声が、今も耳に残っている。

 その頃の自分は、変わることを怖れていた。
 大学を出て、就職して、同じ町に住み続ける。
 それが“安定”だと思っていた。
 けれど、彼は違った。
 「同じ場所にいるだけが幸せじゃない。
  変わることも、きっと大切だと思う」

 彼はその言葉の通り、翌年には遠い街へ転勤していった。
 連絡はだんだん減り、いつしか途絶えた。
 心変わり――その言葉を聞くたび、胸の奥が痛んだ。

 けれど今日、ランタナを見ていて思う。
 この花は裏切っているわけじゃない。
 色を変えるたびに、新しい季節の光をまとっている。
 変化を恐れず、ただ生きている。

 ふと、ポケットの中の古いスマホが震えた。
 ――「久しぶり。そっちは元気?」
 画面に映る名前に、心臓が小さく跳ねた。
 沙耶はしばらく指を止め、ランタナの花を見つめた。
 陽の角度が変わるたび、色が少しずつ深くなっていく。

 彼もきっと、あの頃とは違う自分になっている。
 そして、自分もまた変わった。
 ならば、もう「心変わり」という言葉を責める必要はないのかもしれない。
 心が変わるのは、生きている証なのだから。

 沙耶はスマホを両手で包み込み、短く返信を打った。
 ――「うん。元気だよ。庭の花も、変わらず咲いてる。」

 送信ボタンを押した瞬間、風が通り抜けた。
 ランタナの花がゆらりと揺れ、光を受けて七色にきらめく。

 その色の移ろいを見つめながら、沙耶は微笑んだ。
 変わることは、終わりではなく始まりなのだと、ようやく思えた。

10月27日の誕生花「チョコレートコスモス」

「チョコレートコスモス」

基本情報

  • 和名:チョコレートコスモス
  • 学名Cosmos atrosanguineus
  • 科名/属名:キク科/コスモス属
  • 原産地:メキシコ
  • 開花時期:5月〜11月(主に夏〜秋)
  • 分類:多年草(寒さに弱く、日本では一年草扱いされることも)
  • 花色:濃い赤褐色〜黒紫色
  • 香り:チョコレートのような甘い香り(特にバニラやカカオに似た香り)

チョコレートコスモスについて

特徴

  • 花径は約4〜5cmとやや小ぶりで、深みのあるダークブラウン系の色合いが特徴。
  • 花びらはビロードのような質感で、高級感や落ち着いた印象を与える。
  • 同じコスモス属でも、一般的なコスモス(秋桜)よりも落ち着いた色調で、大人っぽい雰囲気を持つ。
  • 夕方や気温の高い時間帯に特に香りが強くなる。
  • 花持ちがよく、切り花やガーデン装飾にも人気。
  • 種子では増えにくく、地下茎や株分けによって増やすのが一般的。

花言葉:「心変わり」

由来

  • チョコレートコスモスは、チョコレート色の花びらが時間とともに微妙に色合いを変える性質がある。
    → 深紅から黒紫、または赤褐色へと変化していく姿が「心が移ろう様子」を連想させた。
  • また、同じ「コスモス」の仲間でありながら、一般的な明るいコスモスとはまったく異なる**“異色の存在”**であることも、「気持ちが変わった」「他とは違う魅力に惹かれる」といった意味合いにつながっている。
  • 甘い香りを放ちながらも、どこか儚げな印象を持つことから、「恋心が移りゆく」「愛の熱が冷めていく」といった恋愛の変化を象徴する花としても解釈されている。

「変わりゆく色の中で」

放課後の温室には、夕陽が斜めに差し込んでいた。
 チョコレートのような甘い香りが漂う中、紗英はそっと花びらに指を伸ばした。
 黒紫に近いその色は、昨日よりも少しだけ赤みを帯びている気がした。

 「……本当に、不思議な花」

 隣で水やりをしていた亮が顔を上げる。
 「チョコレートコスモスって、名前からしておいしそうだよな」
 「食べちゃダメだよ」
 笑い合う声が、温室の中でやわらかく響いた。

 この花を育て始めたのは、文化祭での展示のためだった。
 クラスの誰もが明るいピンクや黄色のコスモスを選ぶ中、紗英だけがこの深い色の花に惹かれた。
 その理由を聞かれたとき、彼女は答えられなかった。
 ただ——どこか自分に似ていると思ったのだ。

 「ねえ、亮。コスモスって“調和”とか“優美”とか、そういう花言葉が多いんだって」
 「へえ、意外だな」
 「でも、このチョコレートコスモスだけ、“心変わり”なんだって」

 亮はじっと花を見つめた。
 「心変わり、か……なんか切ないな」
 「うん。でも、悪いことばかりじゃない気がする」
 「どういう意味?」
 「色が変わるってことは、生きてるってこと。止まってないってことだから」

 そのとき、温室の外から風が吹き込み、花が小さく揺れた。
 陽の光が差し込む角度が変わり、花びらは黒から赤へ、そしてまた褐色へと、わずかに色を変えていく。
 まるで、呼吸をしているようだった。

 紗英はその変化を見つめながら、胸の奥が少し痛んだ。
 ——彼への気持ちも、こうして少しずつ変わっていくのだろうか。

 初めて彼に惹かれたのは、たぶん春。
 桜の下で、偶然手を貸してくれたとき。
 その手の温かさを、ずっと覚えていた。
 でも、夏が過ぎ、秋が深まるにつれて、彼の笑顔を見るたびに、どこか胸がざわつくようになった。

 「亮、来年はどんな花を育てたい?」
 「うーん、やっぱり向日葵かな。まっすぐで、元気なやつ」
 「そうだね……亮っぽい」
 「紗英は?」
 彼の問いに、紗英は少し考えてから答えた。
 「また、この花がいい」
 「チョコレートコスモス?」
 「うん。変わっていく色を、ちゃんと見届けてみたいから」

 その言葉に、亮は小さく笑った。
 けれど、紗英の胸の中では、違う意味が静かに芽生えていた。
 自分の心も、きっと変わっていく。
 彼への想いも、時間の中で形を変えるかもしれない。
 けれど、それを恐れずに見つめていたい。
 変わることを、悲しみではなく、命の証として受け止めたい——。

 夕陽が完全に沈むころ、花びらは深い黒紫に染まった。
 温室を出ると、空には一番星が瞬いていた。
 紗英は振り返り、最後にもう一度、花を見つめた。

 その色は、今日の終わりを告げるようで、
 それでいて、新しい朝を約束するようにも見えた。