10月17日の誕生花「ムラサキシキブ」

「ムラサキシキブ」

基本情報

  • 科名・属名:シソ科 / ムラサキシキブ属
  • 学名Callicarpa japonica
  • 原産地:日本、中国、朝鮮半島
  • 別名:コムラサキ(※園芸品種で混同されやすい)
  • 開花時期:6〜7月
  • 実の時期:9〜11月
  • 花色:淡い紫〜薄ピンク
  • 実の色:鮮やかな紫色
  • 花の大きさ:直径3〜4mmほどの小花
  • 樹高:1〜3m前後の落葉低木

ムラサキシキブについて

特徴

  • 枝いっぱいに 小さな紫色の実 をつける姿が美しく、秋の庭を彩る代表的な植物。
  • 実は 光沢のある紫色 で、日に当たるとまるで宝石のように輝く。
  • 花は初夏に咲くが控えめで、秋の実の美しさが主役
  • 鳥が実を食べて種を運ぶため、自然繁殖しやすい。
  • 名前の由来は、その優雅さを平安時代の才女・紫式部にたとえたことから。

花言葉:「愛され上手」

由来

  • 小さな花が密集して咲き、秋には一面に美しい紫の実を実らせる様子が、
    → 「周囲から自然と愛される」「人々の心を惹きつける」印象を与えるため。
  • 花も実も目立ちすぎず、控えめながら人の心をつかむ魅力を持つことから、
    → 「愛され上手」「聡明」「上品」などの花言葉が生まれた。
  • また、「紫式部」という名前の持つ 知性と優美さ も、
    → 「愛され上手」という意味をより深めている。

「紫の実の頃に」

庭の隅に、祖母が植えたムラサキシキブの木がある。
 小さな花をつける季節は気づかぬほど静かで、誰もその存在を話題にしない。けれど秋になると、枝いっぱいに紫の実をつけ、日差しを受けてまるで小さな宝石のように輝き出す。

 「愛され上手って、こういうことを言うのかもしれないね」
 祖母はよくそう言って笑っていた。

 高校に上がったばかりの頃、私はその言葉の意味が分からなかった。
 「愛され上手」なんて、なんだかあざとく聞こえたし、人に好かれることばかり考えるのは格好悪いと思っていた。

 でも、そんな私とは違い、祖母はどこへ行っても穏やかに人に囲まれていた。
 特別おしゃべりでもないし、派手な服を着るわけでもない。それなのに、いつのまにか人の心に入り込んで、気づけば誰もが祖母を好きになっていた。

 「ねえ、どうしてそんなに誰からも好かれるの?」
 ある日、素直に尋ねたことがある。

 祖母はムラサキシキブの枝を撫でながら、少し考えてから答えた。
 「好きになってもらおうと思うより、好きでいることのほうが大事なんだよ」
 「え?」
 「この花もそうだろう? 見てもらおうなんて思っていない。でも、季節が来ればちゃんと咲いて、実を結ぶ。それを見つけた人が“きれいだな”って思うだけ」
 祖母は微笑んだ。
 「人も同じさ。無理に目立たなくても、心をこめて咲いていれば、ちゃんと誰かが見つけてくれる」

 その言葉が胸に残ったまま、数年が過ぎた。
 祖母が亡くなった翌年、私は大学の帰りに久しぶりにあの庭を訪ねた。
 手入れもされていないはずなのに、ムラサキシキブの枝はしなやかに伸び、濃い紫の実をたくさんつけていた。

 手を伸ばして一粒を摘む。指先に感じるのは、小さな丸い命の重み。
 その瞬間、祖母の声が心の奥でよみがえる。
 ――見てもらおうなんて思っていない。でも、ちゃんと咲く。

 涙がこぼれた。
 愛されることを計算しない優しさ。控えめだけど、人の心に灯りをともすような存在。
 祖母が言っていた「愛され上手」とは、きっとそういうことなのだと思う。

 家に戻って、ノートに小さく書いた。
 “私はムラサキシキブみたいに生きたい”

 それから私は、無理に笑顔を作るのをやめた。
 自分の好きなことを、静かに丁寧に続けるようにした。すると不思議なことに、いつのまにか周りに優しい人たちが集まってくるようになった。

 紫の実が色づく頃、私はまたあの庭に立つ。
 風に揺れる枝の先で、光を受けた小さな実たちがきらめいている。
 まるで、「ちゃんと見てるよ」と囁くように。

 ――ねえ、おばあちゃん。
 あなたの好きだったこの花、やっぱり“愛され上手”だね。