「スイセンノウ」

基本情報
- 和名:スイセンノウ(酔仙翁)、フランネルソウ
- 学名:Lychnis coronaria
- 英名:Rose campion, Dusty miller(※別種と混同される場合あり)
- 科属:ナデシコ科 / センノウ属
- 原産地:南ヨーロッパ
- 草丈:50~80cmほど
- 花期:初夏~夏(6月~8月頃)
- 花色:鮮やかな紅紫、白、ピンクなど
スイセンノウについて

特徴
- 鮮烈な花色
ビロードのような質感をもつ濃い紅紫色の花が代表的で、緑灰色の葉とのコントラストが美しい。
遠目からでもよく目立ち、庭を彩る存在感がある。 - 葉の特徴
全体に白い毛が密生し、葉は灰緑色でフランネル(起毛布地)のような手触り。そこから「フランネルソウ」と呼ばれる。 - 生命力の強さ
やせ地でも育ち、こぼれ種でもよく増える丈夫な植物。初夏から真夏にかけて長期間花を咲かせる。
花言葉:「私の愛は不変」

スイセンノウに与えられた代表的な花言葉のひとつが 「私の愛は不変」 です。
この背景には以下のような理由があります。
- 灰緑色の葉と鮮やかな花の対比
灰色の葉は落ち着いた印象を与え、そこに咲く紅い花は長く強い輝きを放ちます。
このコントラストが「永続する愛の情熱」を象徴した。 - 強健で長く咲く性質
過酷な環境でもよく育ち、夏の暑さの中でも長い期間にわたり咲き続ける姿が「変わらない愛」を思わせる。 - 古来からの象徴性
ヨーロッパでは赤い花は「燃える愛」「情熱」の象徴。
さらにスイセンノウは生命力が強いため、枯れにくい花として「永遠の愛」「変わらぬ想い」と結びつけられた。
「私の愛は不変」

庭の隅にひっそりと咲くスイセンノウを、綾子はじっと見つめていた。
灰緑色の葉の上に、燃えるような紅い花が一輪。真夏の陽射しを受けても色褪せず、むしろいっそう鮮烈な輝きを放っている。
――不思議な花だ、といつも思う。
夫の真一が植えたのは、もう十年以上も前のことだ。庭いじりが趣味の彼は、種を土に落としながら「これは強い花だよ。きっと長く咲いて、俺たちを見守ってくれる」と言って笑った。
その言葉のとおり、スイセンノウは毎年欠かさず芽を出し、夏になると紅い花を咲かせた。ほとんど手をかけなくても枯れずに育ち、こぼれ種から次の世代を残していく。

だが、その夫はもういない。
二年前、病に倒れ、あまりにも早く旅立ってしまった。
綾子はしばらく花を見ることができなかった。庭に出れば、鮮やかな紅色が胸を刺す。まるで「愛はまだここにある」と告げられているようで、耐えられなかったのだ。
けれども今年、ふと窓辺から庭を眺めたとき、あの花が風に揺れているのを見て足が止まった。灰緑色の葉は落ち着き払って静かにそこにあり、その上で紅い花が揺るぎなく咲き誇っている。
その対比は、まるで真一と自分の姿のように思えた。口数は少なく穏やかで、いつも影から支えてくれた夫。その傍らで、不器用ながらも感情を隠せずに生きてきた自分。

「私の愛は不変」――スイセンノウの花言葉を思い出したとき、綾子の頬を涙が伝った。
愛する人はもういない。触れることも、声を聞くこともできない。それでも、消えることのない想いが確かにここに残っている。時間が経つほどに薄れていくはずの痛みも、花の色のように強く鮮烈であり続ける。
綾子はしゃがみ込み、そっと花に手を伸ばした。柔らかな毛に包まれた葉は温もりを帯びているかのようだった。
「ねえ、あなた。今年も咲いてくれたわ」
思わず声に出すと、不思議な安らぎが胸に広がった。

季節は巡り、花はまた種を落とす。来年も、再来年も、この庭にスイセンノウは咲き続けるだろう。
そのたびに、夫の笑顔を思い出すだろう。
愛する人のいない寂しさは消えない。けれど、愛そのものは決して枯れない。
灰緑の葉に守られながら燃えるように咲く紅い花のように――。
綾子は涙を拭い、まっすぐ花を見つめた。
「私も同じよ。あなたへの愛は、ずっと変わらない」
夏の空の下、スイセンノウが静かに揺れていた。
その姿はまるで、「わかっているよ」と答えるように見えた。