10月9日の誕生花「ホトトギス」

「ホトトギス」

基本情報

  • 和名:ホトトギス(杜鵑草)
  • 英名:Toad lily(ヒキガエルリリー)
  • 学名Tricyrtis hirta
  • 科名:ユリ科(またはホトトギス科に分類されることも)
  • 属名:ホトトギス属(Tricyrtis)
  • 原産地:日本(本州~四国・九州)
  • 開花期:8月~9月(秋の花)
  • 花色:白、薄紫、淡紅紫など(斑点模様が特徴)

ホトトギスについて

特徴

  1. 斑点模様が特徴的な花
    • 花びらに紫色の斑点が散る独特な模様を持ちます。
    • この斑点が、鳥の「ホトトギス(不如帰)」の胸の斑点に似ていることから名づけられました。
  2. 控えめで上品な佇まい
    • 花はあまり大きくなく、下向きや横向きに咲くため、派手さはありません。
    • 山野の木陰など、柔らかな光の中で静かに咲く姿が印象的です。
  3. 丈夫で日陰にも強い
    • 強い直射日光よりも半日陰を好みます。
    • 落葉樹の下や庭の隅など、ひっそりとした場所でよく育ちます。

花言葉:「秘めた思い」

由来

花言葉「秘めた思い」は、ホトトギスの咲き方と姿に深く関係しています。

🔹 1. ひっそりと咲く姿

ホトトギスは派手に咲き誇る花ではなく、森の木陰や人目の少ない場所で静かに咲きます。
その控えめで奥ゆかしい姿が、**「心に秘めた想い」「人に言えない恋心」**を象徴しています。

🔹 2. 複雑で繊細な模様

花びらに散る斑点模様は、まるで心の奥に隠された感情のよう。
表には出さずとも、内には深い想いが宿っている——そんな印象から「秘めた思い」という花言葉が生まれました。

🔹 3. 秋に咲く静かな花

多くの花が終わる秋の終わり頃に咲くことも、
「時を待ち、静かに想いを温める」イメージと重なります。
短い季節にひっそりと咲くその姿が、忍ぶ恋や内に秘めた感情を連想させるのです。


木陰に咲く想い — ホトトギスの花言葉「秘めた思い」より

夏の名残を引きずる風が、校庭の端を渡っていった。木立の影に隠れるように、紗耶はしゃがみ込んでいた。手のひらには、まだ蕾を残した小さな花。薄紫の花びらには、細やかな斑点が散っている。

 「ホトトギス……」
 そう呟くと、となりで風間が微笑んだ。
 「よく知ってるね。山の花なのに」
 「去年、おばあちゃんに教わったの。木陰でひっそり咲く花だって」

 風間はうなずき、そっとその花に指先を伸ばした。だが、すぐに引っ込める。まるで触れることをためらうように。

 放課後の園芸部。二人だけが残った温室には、夕方の光が淡く射し込んでいた。
 テニス部の声も、校舎のざわめきも遠い。聞こえるのは、ホトトギスの葉を揺らす微かな音だけ。

 「風間くん、進路決まったって聞いた」
 「うん。県外の大学。……まだ親にもちゃんと言ってないけど」
 彼の声はどこか迷いを含んでいた。

 紗耶は花を見つめたまま、胸の奥に押し込めていた言葉を思い出していた。
 伝えたい気持ち。けれど、伝えたら何かが変わってしまう気がして、ずっと飲み込んでいた。

 「ホトトギスってね」
 小さな声で紗耶は言った。
 「人の目にあまり触れない場所で咲くんだって。派手じゃないし、気づかれないことも多い。でも、それでもちゃんと季節を感じて、咲くの」
 「……秘めた思い、ってやつ?」
 「うん。花言葉」

 風間が静かに笑った。
 「なんか、紗耶みたいだな」
 「え?」
 「クラスでも目立たないけど、ちゃんと自分の世界を持ってるとこ」

 その言葉に、紗耶の指先が小さく震えた。
 言葉を返そうとしたが、喉の奥で止まった。胸の奥が熱く、そして少し痛い。

 「ねえ、紗耶」
 「……なに?」
 「もし、俺がいなくなっても、この花みたいに咲いててほしい」
 「どういう意味?」
 「今、言ったら……きっと、後悔するから」

 それだけ言って、彼は立ち上がった。
 温室の扉が開くと、風が花を揺らした。小さな花びらがわずかに光を反射する。

 紗耶はそっとその花を見つめた。
 薄紫の花びらに散る斑点が、まるで涙の跡のように見えた。

 ――表には出さずとも、内には深い想いが宿っている。

 おばあちゃんが言っていた言葉を思い出す。
 「人に見せなくても、咲くことに意味があるのよ」

 その晩、ノートの隅に小さくホトトギスの絵を描いた。
 「秘めた思い」と添えて。

 誰にも見せないままページを閉じたとき、心の奥に静かなあたたかさが広がった。
 それは、言葉にできなかった想いが、確かに咲いた瞬間だった。

8月28日の誕生花「エリンジウム」

「エリンジウム」

基本情報

  • 分類:セリ科エリンジウム属(多年草)
  • 原産地:ヨーロッパ、南北アメリカ
  • 学名:Eryngium
  • 和名:マツカサアザミ(松毬薊)
  • 開花期:6月~8月
  • 草丈:30~100cm程度
  • 花色:青紫、銀青色など(金属的な輝きを帯びるのが特徴)
  • 利用:切り花、ドライフラワー、ブーケ、アレンジメントに人気

エリンジウムについて

特徴

  • 独特な花姿
    花のように見える部分は総苞片で、鋭いトゲを思わせる形。中心には小さな花が多数集まり、まるで「青い宝石」や「氷の結晶」のように輝く。
  • 金属光沢のある色合い
    青紫から銀青色に輝き、まるで金属細工のような質感を持つ。ドライにしても色が残りやすく、アレンジメントに重宝される。
  • アザミに似た印象
    和名の「マツカサアザミ」は、松ぼっくりのような花姿とアザミに似た葉を併せ持つことに由来する。

花言葉:「秘めた思い」

由来

エリンジウムに「秘めた思い」という花言葉が与えられた背景には、次のような理由があるとされています。

  1. トゲに守られた花
    花の周囲を硬い総苞片が取り囲み、容易に近づけない姿は、まるで「心の奥に隠された感情」を守っているかのよう。
  2. 冷たい輝きの奥にある美しさ
    金属的でクールな印象を与える外見とは裏腹に、中心には小さく繊細な花が集まっている。そのギャップが「表に出さないが内に秘めている思い」を連想させる。
  3. ヨーロッパでの伝承
    中世ヨーロッパでは、エリンジウムが「愛の媚薬」として扱われた記録もあり、隠された恋心や秘めた愛情を象徴する花として語られてきた。

秘めた思いー「エリンジウムの花の下で」

真夜中の温室は、月明かりとランプの淡い灯りに照らされていた。
 透きとおるような銀青の花弁が、氷の結晶のように冷たく光を返す。
 彼女――エマは、エリンジウムの鉢を両手でそっと抱きしめるようにして見つめていた。

 その花は、不思議な力を持つと信じられてきた。中世の書物には「恋の媚薬」と記され、誰かの心を惹き寄せる秘術に用いられたと伝えられている。けれどエマにとって、この花が意味するのはもっと静かで、もっと切実なものだった。

 ――秘めた思い。

 硬い苞片に守られて咲く小さな花。その姿は、彼女が胸の奥深くに押し隠してきた感情と重なっていた。

 エマは村の学者ルイスに想いを寄せていた。彼の手はいつもインクで染まり、研究に没頭する横顔は陽だまりのように温かい。それなのに、彼女は決してその気持ちを口にできなかった。立場の違い、そして彼の未来を縛ってしまうかもしれない恐れが、言葉を喉元で凍らせた。

 ある日、ルイスが温室を訪れた。
 「またその花を見ているんだね」
 彼は柔らかく微笑んだ。
 「どうしてそんなに惹かれるんだい?」

 エマは答えに迷った。心の奥底では「あなたに似ているから」と叫んでいたが、唇から出たのは別の言葉だった。
 「……この花は、秘密を抱えたままでも美しく咲けるから」

 ルイスは不思議そうに首をかしげたが、それ以上は追及しなかった。彼は彼女の横に立ち、しばし花を眺めていた。二人の影がランプの光で重なり合う。その一瞬の近さに、エマの胸は痛いほど高鳴った。

 けれど、彼女はその思いを外に出さなかった。まるで花が棘で自らを守るように。

 夜が更け、ルイスは温室を去った。扉が閉じる音が響くと同時に、エマはエリンジウムを見下ろした。青く光る花々が、彼女の秘めた心を映し出すかのように静かに揺れていた。

 「もしこの花に力があるのなら――」
 彼女は小さくつぶやいた。
 「私の思いを、どうかこのまま守っていて」

 その祈りは誰にも届かない。けれど花は答えるように、冷たく美しい光を放ち続けた。
 言葉にならない想いを、棘の奥で大切に抱えながら。

 やがてエマは知ることになる。秘めた思いは、声に出さずとも確かに存在し、時に人の心を静かに動かすのだということを――。