11月8日の誕生花「ノバラ」

「ノバラ」

基本情報

分類: バラ科バラ属(Rosa multiflora
原産地: 日本・中国・朝鮮半島
別名: シロバラ、ノイバラ(一般的に同義で使われます)
開花時期: 5〜6月
花色: 白(または淡いピンク)
花の大きさ: 2〜3cmほどの小輪
香り: 優しく甘い香り
実: 秋には赤い小さな実(ローズヒップ)をつける

ノバラについて

特徴

ノバラは、日本の山野や道端、川沿いなどに自生するつる性の低木です。
枝には鋭いトゲがありますが、花は小さく清楚で、白い花びらが5枚。

🌼 主な特徴:

  • 生命力が非常に強く、荒れ地でもよく育つ。
  • 花は一重咲きで、控えめながらも清楚な美しさがある。
  • 果実(ローズヒップ)は秋に赤く色づき、鳥たちの食料にもなる。
  • バラの園芸品種の台木としても使われるほど丈夫。

→ 「派手さはないけれど、自然の中で健気に咲く日本の原種バラ」です。


花言葉:「素朴なかわいらしさ」

由来

ノバラの花言葉「素朴なかわいらしさ」は、その飾らない美しさ野生の優しさに由来しています。

  • 園芸種のバラのように豪華ではなく、小さく清楚な花姿
  • 山や道端に咲くその姿は、まるで「自然のままの笑顔」のよう。
  • 人の手が入らなくても、自分の場所で静かに咲く

この姿が「素朴だけれど、心を和ませる可愛らしさ」と感じられたことから、
「素朴なかわいらしさ」という花言葉が生まれました。


「ノバラの道」

六月の風が吹いていた。
 通学路の脇、誰も気にも留めないような斜面に、白い花がこぼれるように咲いていた。
 小さな花びらが陽に透けて、ひとつひとつが光の粒のように見える。

 「ノバラっていうのよ」
 母が教えてくれたのは、小学生の頃だった。
 「園芸のバラみたいに派手じゃないけどね、かわいいでしょ」
 そう言って、母はしゃがみ込み、花の匂いを確かめるように息を吸った。
 その横顔を、今でもよく覚えている。

 ――あれから十年。
 母のいないこの町で、私はもう一度その道を歩いていた。
 仕事で上京してから、忙しさにかまけて帰省も減っていたけれど、
 今日は少しだけ、母の声が恋しくなったのだ。

 坂道を登る途中、昔と変わらぬ白い花が目に入った。
 つるを伸ばし、フェンスに絡みついて、風に揺れている。
 ふとしゃがみ込むと、甘い香りが微かに漂った。
 記憶の底から、母の笑い声が浮かんでくるようで、胸の奥がきゅっとなる。

 「こんな場所にも、ちゃんと咲いてるんだね」
 思わず声に出してしまう。
 舗装の割れ目から根を伸ばし、誰に見られなくても、ただそこに咲く花。
 豪華な花束のように飾られることはなくても、
 この白い花は、確かに“生きている”ことを誇っているようだった。

 ポケットからスマホを取り出し、そっと一枚だけ写真を撮る。
 画面の中のノバラは、昔と変わらない姿で笑っていた。
 ――自然のままの笑顔。
 母が言っていた言葉が、ふいに蘇る。

 人は誰かに見てもらえなければ、価値がないと思ってしまうことがある。
 仕事で成果を出せず、比べられ、焦りや苛立ちに押しつぶされそうな日々。
 でも、ノバラはそんなことを気にも留めずに、
 ただ自分の場所で、淡々と花を咲かせている。

 風が頬を撫で、白い花びらが一枚、手のひらに落ちた。
 軽くて、やわらかくて、触れるとすぐに壊れそうだった。
 けれどその儚さが、なぜだか強く感じられた。

 私は花びらをそっと指先で包み込み、空を見上げた。
 雲の隙間からこぼれる光が、道の先まで照らしている。
 その光の中で、ノバラの白がいっそう鮮やかに輝いて見えた。

 ――母も、きっとこの花が好きだった理由はこれだろう。
 飾らなくても、ちゃんと美しい。
 誰かに褒められなくても、咲くことに意味がある。

 私はもう一度、深く息を吸い込んだ。
 甘くて、懐かしい香りが胸に満ちていく。
 「ねえ、お母さん。私、ちゃんとやってるよ」
 心の中でそう呟くと、風がまたひとつ吹き抜けた。

 花が揺れ、光が散る。
 ノバラの道は、あの日と同じように静かで、そして温かかった。

4月20日の誕生花「ストロベリーキャンドル」

「ストロベリーキャンドル」

Brett HondowによるPixabayからの画像

■ ストロベリーキャンドルの基本情報

  • 学名Trifolium incarnatum
  • 和名:ベニバナツメクサ(紅花詰草)
  • 英名:Strawberry Candle, Crimson Clover
  • 科名:マメ科
  • 原産地:ヨーロッパ
  • 開花時期:4月~5月
  • 草丈:20〜50cmほど
  • 用途:花壇、グランドカバー、緑肥(農地改良)

ストロベリーキャンドルについて

WikimediaImagesによるPixabayからの画像

■ 特徴

  • 名前のとおり、イチゴのような赤いキャンドル型の花穂が特徴的。
  • 花は穂状に密集し、ふわっとした柔らかい質感。
  • 葉はクローバーのような形(三つ葉)で、全体としてとてもナチュラルでかわいらしい印象。
  • 手間が少なく、丈夫で育てやすい一年草
  • 緑肥や蜜源植物としても利用され、ミツバチにも好まれる。

花言葉:「素朴なかわいらしさ」

◆ 花言葉の意味と由来

  • ストロベリーキャンドルは、派手さはないものの、赤くふわっとした姿がどこか懐かしく、素朴な印象を与えます。
  • クローバーの仲間でありながら、その独特な花姿が「かわいらしい」と感じられ、多くの人に親しまれてきました。
  • そのため、「素朴なかわいらしさ」という花言葉が付けられました。

また、「胸に灯る想い」「きらめく愛」などのロマンチックな花言葉もあり、贈り物にもぴったりです。


「ストロベリーキャンドルの咲く丘で」

Emmie_NorfolkによるPixabayからの画像

春の終わり、町はずれの小さな丘に赤い花が咲きはじめる。ふわりとした赤い花穂が、風にそよいでまるでキャンドルの炎のように揺れていた。

 この花を「ストロベリーキャンドル」と教えてくれたのは、祖母だった。

「この花はね、素朴なかわいらしさっていう花言葉があるのよ」

 祖母はいつもその花の前で微笑んだ。大きくもなければ、華やかでもない。でも、そこには不思議なあたたかさがあった。子どものころの私は、それがなんとなく好きだった。

 中学生になり、私はあまり丘に行かなくなった。スマホや部活、友達との時間が増えて、祖母との時間は少しずつ減っていった。それでも祖母は何も言わず、ただ笑っていた。

 春、祖母が静かに旅立った。まるで季節の風に乗るように、穏やかに。

 それからしばらく、心にぽっかりと穴があいたような日々が続いた。ふと気がつくと、私は祖母と通ったあの丘に向かっていた。

 風が吹き抜ける丘の上には、あの日と同じようにストロベリーキャンドルが咲いていた。少しだけ涙が出た。でも、その赤い花たちは、まるで「おかえり」と言ってくれているようだった。

「おばあちゃん、今年もきれいに咲いてるね」

 声に出すと、誰もいないはずなのに返事が聞こえたような気がした。風が頬をなでて、花がふわりと揺れる。

 その時、不意に幼い頃のことを思い出した。

 ――あなたは派手じゃなくてもいいのよ。優しくて、まっすぐで、あなたらしくいればいい。

 祖母がよく言っていた言葉だった。

 私は、ずっと“目立たなきゃ”“強くならなきゃ”と思っていた。けれど祖母の言葉と、今目の前に咲く花が重なったとき、私ははじめて“そのままでいい”という意味がわかった気がした。

 花は、何も語らず、ただそこに咲いているだけ。でも、確かに誰かの心を温める力がある。そう思ったら、自分の中のなにかが、ふわっとやわらかくなった。

 それから私は、毎年春になるとこの丘に足を運ぶようになった。大学に入ってからも、社会人になっても。ある年には、好きな人を連れてきて、やがて家族になった。

 子どもができて、彼女が「この赤いお花なあに?」と聞いてきたとき、私は笑って答えた。

「これはね、ストロベリーキャンドルっていうのよ。“素朴なかわいらしさ”っていう花言葉があるの」

 娘は不思議そうな顔をしながら、赤い花に指を伸ばす。そして、「ふわふわしてて、かわいいね」と言った。

 私は、少し泣きそうになりながら「そうだね」とだけ答えた。

 風が吹く。赤い花が、炎のようにそよぐ。

 きっと祖母も、どこかで見ている。やさしい目で、あの笑顔で。

 ストロベリーキャンドルの咲く丘には、静かで温かい時間が流れていた。