「インパチェンス」

基本情報
- 学名:Impatiens walleriana
- 科名/属名:ツリフネソウ科/ツリフネソウ属
- 原産地:熱帯アジア
- 開花期:5月~11月上旬
- 草丈:20~50cm程度
- 別名:アフリカホウセンカ、サンパチェンス(園芸種の改良品種)
- 花色:赤、ピンク、オレンジ、白、紫など多彩
インパチェンスについて

特徴
- 開花期が長い
春から秋にかけて休むことなく花を咲かせ、華やかな景観を作ります。 - 日陰にも強い
半日陰でも元気に育つため、日当たりが少ない庭やベランダでも重宝されます。 - 花びらの艶やかさ
花弁は光沢を帯び、濃く鮮やかな色合いが特徴的です。 - 水を好む性質
水切れに弱く、乾燥させないようこまめな水やりが必要です。 - こぼれ種でも増える
種を付けると、熟した果実が弾けて種子を飛ばす“爆ぜる性質”を持っています(英名 “Impatiens”=“我慢できない” はこの性質に由来)。
花言葉:「鮮やかな人」

インパチェンスの花言葉の一つに**「鮮やかな人」**があります。
これは次の理由からと考えられます。
- 豊富でビビッドな花色
赤やオレンジ、ピンクなど非常に鮮明で印象的な色彩が、まるで周囲の視線を惹きつける個性的な人物像を連想させます。 - 長期間咲き続ける生命力
存在感を失わず、長く咲き続ける姿が「人の記憶に残る鮮烈さ」を表現しています。 - 明るく生き生きとした印象
花の形や咲き方が活発で快活な雰囲気を持つことから、“鮮やかで輝くような人”を象徴する言葉となりました。
「鮮やかな人」

その人が街角の花屋に現れたのは、梅雨明けの午後だった。
白いシャツにカーディガンを羽織り、雨上がりの陽射しに少しだけ目を細める。彼女が店先のプランターに手を伸ばしたとき、私は思わず声をかけていた。
「それ、インパチェンスって言うんです。」
赤やオレンジ、ピンクの花が、まるで絵の具を散りばめたように咲いている。
彼女は花びらをそっと撫でて、小さく微笑んだ。
「鮮やかですね。……でも、この花、日陰でも咲くんですよね?」
「ええ、むしろ半日陰のほうが元気なくらいです。長く咲いてくれるんですよ。」

その瞬間、なぜか彼女自身がインパチェンスのように見えた。
雨雲の残る灰色の空の下で、まるで周囲を明るく照らすような存在感。
きっと彼女は、誰かの記憶に鮮烈に残る「鮮やかな人」なのだろうと、根拠もなく思った。
それから、花屋に彼女が通うようになった。
毎週のように、インパチェンスの鉢をひとつ、またひとつと買い足していく。
「お庭でも作っているんですか?」と尋ねると、彼女は少し首を傾げた。
「いいえ、ベランダに並べているだけ。……でも、毎日花が咲いていると、何だか元気になれるんです。私、仕事で少し疲れていて。」

彼女は看護師をしていると言った。
夜勤が続き、眠れぬ日もある。
それでもベランダに並ぶ花たちが、彼女の心をふっと軽くしてくれるのだという。
夏の終わり、彼女の姿が急に見えなくなった。
電話番号も名前も知らない。
ただ、あの笑顔とインパチェンスの花色だけが、私の心に鮮やかに残っていた。
秋風が吹き始めた頃、彼女がふらりと現れた。
少し痩せたように見えたが、笑顔は変わらない。
「入院していたんです。ちょっと無理をしすぎて。」

彼女はそう言って、赤いインパチェンスを指さした。
「やっぱり、これを見ると生き返る気がするんです。鮮やかに咲き続けるから。……私も、こうありたいな。」
その言葉を聞いて、胸の奥が熱くなるのを感じた。
「あなたは、もう十分鮮やかな人ですよ。」
そう伝えると、彼女は少し驚いたように笑った。
冬が訪れる前に、彼女は遠くの街へ引っ越した。
けれど、今も店先のインパチェンスを見るたびに、あの午後の光景が蘇る。
赤、オレンジ、ピンク――どれも彼女の笑顔の色だ。
鮮やかで、生き生きとして、誰よりも輝いている。