1月9日、25日の誕生花「ハコベ」

「ハコベ」

基本情報

  • 分類:ナデシコ科ハコベ属
  • 学名:Stellaria
  • 原産地:ユーラシア大陸
  • 開花時期:2月〜6月頃
  • 生育環境:道端、畑、庭先など身近な場所
  • 別名:ハコベラ、コハコベ

ハコベについて

特徴

  • 草丈は低く、地面を這うように広がって育つ
  • 白く小さな五弁花だが、花弁が深く裂けて十枚に見える
  • 繊細で柔らかな茎と葉を持ち、春の七草の一つとして親しまれる
  • 厳しい環境でもよく育ち、身近な場所に自然に溶け込む存在


花言葉:「愛らしい」

由来

  • 小さく可憐な白い花が、控えめながら親しみやすい印象を与えることから連想
  • 足元にそっと咲き、人知れず季節を告げる姿が、無邪気で愛らしい存在として捉えられた
  • 人々の暮らしの近くで静かに寄り添い続けてきた歴史が、素朴で温かな魅力を象徴した


「足元で春を告げるもの」

 朝の空気はまだ冷たく、吐く息がわずかに白くなる頃だった。早苗はゴミ出しの帰り、いつものように団地の裏道を歩いていた。特別な景色はない。コンクリートの道、低いフェンス、その向こうの小さな空き地。毎日通るからこそ、目に映るものはいつも同じで、意識に上ることもない。

 その日、なぜか足が止まった。靴先のすぐ脇、踏み固められた土の隙間に、小さな白が見えたからだ。しゃがみ込むと、それはハコベだった。指先ほどの花が、いくつも寄り添うように咲いている。白い花弁は繊細で、よく見ると十枚に裂けているように見えた。

 「こんなところに……」

 声に出すと、思いのほか柔らかな響きがした。ハコベは主張しない。背を高く伸ばすことも、鮮やかな色で目を引くこともない。ただ、そこに在る。気づく人がいれば、そっと存在を知らせる程度に。

 早苗は、ふと幼い頃の記憶を思い出した。祖母の家の庭。畑の端や縁側の下、どこにでもハコベは生えていた。祖母はそれを摘み、春の七草だと言って味噌汁に入れた。「小さいけどね、ちゃんと役に立つんだよ」と笑っていた顔が、妙に鮮明によみがえる。

 早苗は都会で暮らし、結婚し、子どもを育て、今はまた一人の時間が増えつつある。特別な成功も失敗もない。ただ日々が過ぎていく。その平凡さに、時折、取り残されたような気持ちになることもあった。

 けれど、足元のハコベを見ていると、不思議と心が和らいだ。誰に褒められるわけでもなく、評価されるわけでもない。それでも、季節が巡れば、ちゃんと芽を出し、花を咲かせる。人知れず春を告げる役目を、黙って果たしている。

 早苗は思う。愛らしさとは、きっと声を上げることではない。目立たない場所で、誰かの暮らしのそばに在り続けること。踏まれそうな場所でも、へこたれず、次の季節を迎えること。その健気さに、人は無意識のうちに心を預けるのだ。

 立ち上がると、朝日が少し高くなっていた。フェンスの影が伸び、空き地の土が淡く光る。その中で、ハコベは相変わらず小さく咲いている。まるで「気づいてくれてありがとう」とでも言うように。

 早苗は道を変え、花を踏まないように歩いた。ほんの数センチの違いだが、それだけで気持ちが整う。今日も洗濯をして、買い物に行き、夕飯を作る。それだけの一日だ。それでも、足元に咲く白い花を知っているだけで、世界は少し優しくなる。

 人々の暮らしの近くで、静かに寄り添い続ける存在。ハコベは何も語らない。ただ、その小さな花で、春と、ささやかな愛らしさを、確かに伝えていた。

1月18日、25日の誕生花「プリムラ」

「プリムラ」

基本情報

  • サクラソウ科・サクラソウ属の多年草
  • 原産地:中国、日本、ヨーロッパ
  • 学名:Primula
  • 開花期:12月〜4月(主に冬〜早春)
  • 花色:黄、赤、ピンク、紫、白、複色など非常に多彩
  • 園芸品種が多く、鉢花・花壇用として広く親しまれている

プリムラについて

特徴

  • ロゼット状に広がる柔らかな葉の中心から花茎を伸ばす
  • 寒さに強く、冬の庭やベランダを明るく彩る
  • 小花が集まって咲く姿が可憐で、親しみやすい印象を与える
  • 品種によっては甘い香りを持つものもある
  • 毎年決まった季節に花を咲かせる、生命力のある植物


花言葉:「青春の恋」

由来

  • 冬の終わりから春先にかけて、他の花に先がけて咲く姿が「若さ」や「初々しさ」を連想させた
  • 明るく澄んだ色合いの花が、胸の高鳴りやときめきを象徴した
  • 寒さの中でも健気に咲く様子が、未熟でもまっすぐな恋心と重ねられた
  • ヨーロッパでは「最初の花(primus)」として、初恋や若き日の思い出と結びつけられてきた


「春を待つ色、胸に芽吹くもの」

 冬の終わりを告げる風は、まだ冷たさを残していた。吐く息は白く、指先はかじかむ。それでも、町外れの小さな花屋の店先には、ひと足早く春の色が並んでいた。プリムラ。丸く広がる葉の中心から、澄んだ色の花をいくつも咲かせている。

 高校に入ったばかりの春香は、通学路の途中でその花屋の前を通るたび、無意識に足を止めていた。黄色、淡いピンク、紫。どれも眩しく、胸の奥を少しだけざわつかせる。理由はわからない。ただ、見ていると心が軽くなった。

 春香には、気になる人がいた。同じクラスの悠真。特別に話したことがあるわけではない。朝の挨拶を交わす程度で、目が合えば慌てて逸らしてしまう。それでも、教室の窓際に座る彼の横顔を見つけると、胸がきゅっと締めつけられた。

 ある放課後、雪まじりの雨が降り出した。春香は傘を忘れ、立ち尽くしていた。そこへ悠真が声をかけてきた。「よかったら、一緒に」。その一言だけで、心臓が大きく跳ねた。言葉少なに並んで歩く帰り道、二人の間に流れる沈黙は、不思議と居心地が悪くなかった。

 別れ際、春香は花屋の前で立ち止まった。プリムラが、冷たい空気の中でも変わらず咲いている。思い切って、一鉢買った。家に帰り、窓辺に置くと、部屋が少し明るくなった気がした。

 それから春香は、毎朝その花に水をやりながら、自分の気持ちを確かめた。寒さの残る朝でも、プリムラは健気に花を開いている。未熟でも、迷いながらでも、まっすぐに咲こうとする姿。それは、誰にも言えない自分の恋心に、どこか似ていた。

 春が本格的に訪れるころ、桜のつぼみがほころび始めた日、春香は悠真に声をかけた。「この前の、お礼を言いたくて」。差し出したのは、小さなプリムラの鉢だった。顔が熱くなり、視線を上げられない。それでも、気持ちは不思議と穏やかだった。

 悠真は少し驚いたあと、照れたように笑った。「ありがとう。大事に育てる」。その笑顔を見た瞬間、春香は悟った。答えがどうであれ、この気持ちはもう、彼女の中で確かに芽吹いているのだと。

 プリムラは「最初の花」と呼ばれるという。冬の終わり、誰よりも早く咲き、春の訪れを知らせる花。春香の恋もまた、まだ幼く、行き先もわからない。それでも、寒さの中で咲いたこの想いは、確かに彼女の青春そのものだった。

 窓辺のプリムラが、やさしい色で揺れている。春香は胸に手を当て、小さく息を吸った。恋はまだ始まったばかり。それでいい。今はただ、このときめきを大切に抱えていれば。春は、もうすぐそこまで来ている。