「オジギソウ」

基本情報
- 和名:オジギソウ(お辞儀草)
- 別名:ミモザ(※園芸・俗称。本来のミモザは別属)
- 学名:Mimosa pudica
- 科名/属名:マメ科/ミモザ属
- 原産地:中央アメリカ~南アメリカ
- 開花時期:7月〜10月頃
- 草丈:30〜60cm程度
- 花色:淡いピンク(球状の花)
オジギソウについて

特徴
- 触れると葉がすばやく閉じ、茎ごと下がる独特の反応を示す
- 光・振動・温度などの刺激にも反応する
- 葉は細かく分かれ、繊細で柔らかな印象
- 花は小さな糸状の雄しべが集まった丸い形
- 外界の変化に敏感な性質をもつ植物として知られる
花言葉:「感受性」

由来
- わずかな刺激にも即座に反応する性質が、感情の鋭さを連想させたため
- 触れられると葉を閉じる姿が、心が揺れ動く様子に重ねられた
- 外界から身を守るように反応する様子が、繊細で傷つきやすい心を象徴した
- 刺激が去ると再び葉を開く姿が、感情の回復力や柔らかさを感じさせた
- 喜びや痛みを強く感じ取る、豊かな心の象徴として語られるようになった
「触れた世界に、心はひらく」

夏の午後、祖父の家の縁側には、風に揺れる影があった。軒先から差し込む光の中、鉢植えのオジギソウが静かに葉を広げている。細かな葉は羽のように軽やかで、見ているだけで息が整う気がした。
紗弓は、そっと指先を伸ばした。触れた瞬間、葉は驚くほど素早く閉じ、茎がわずかに下がる。まるで小さな礼をするように。紗弓は思わず息をのんだ。こんなにも小さな刺激に、こんなにもはっきりと反応するのだ。
「びっくりしたんだよ」

背後から祖父の声がした。紗弓は振り返り、少し気まずそうに笑った。「ごめんね、って思う」。祖父はうなずく。「でもね、悪いことじゃない。感じ取れるってことだから」
紗弓は、感じ取ることが怖かった。高校に入ってから、言葉一つ、視線一つに心が揺れ、眠れない夜が増えた。友だちの何気ない一言に傷つき、ニュースの見出しに胸が痛み、誰かの喜びに自分のことのように涙が出る。鈍くなれたら楽なのに、と何度も思った。

縁側に戻ると、オジギソウはしばらく葉を閉じたままだった。紗弓は距離を保ち、風の音に耳を澄ませる。しばらくすると、閉じていた葉が、ためらうように、少しずつ開き始めた。さっきまでの警戒が嘘のように、元の姿へ戻っていく。
「すぐに閉じるけど、ずっと閉じてはいないだろ」
祖父の言葉が、胸に落ちた。紗弓は気づく。守るために閉じることと、世界を拒むことは違うのだと。刺激が去れば、また開けばいい。傷ついたからといって、永遠に心を畳む必要はない。

翌日、学校で紗弓は勇気を出して、クラスメイトの相談に耳を傾けた。重たい話だったが、逃げなかった。胸は痛んだ。それでも、話し終えた相手の表情が少し和らいだのを見て、温かなものが広がった。感じやすい心は、痛みだけでなく、喜びも強く受け取れる。
放課後、帰宅してオジギソウに水をやる。葉は光を受けて広がり、微細な影を落とす。紗弓はそっと、今度は触れずに手を近づけた。風が揺れ、葉がわずかに反応する。世界はいつも、完全に静かではない。それでも、この小さな植物は、閉じては開き、また世界を迎え入れる。
感受性は、弱さではない。
それは、触れた世界を深く味わう力だ。
紗弓は、胸いっぱいに夏の空気を吸い込んだ。感じ取ってもいい。閉じてもいい。そして、また開けばいい。オジギソウの葉がゆっくりと広がるのを見ながら、彼女はそう確信した。