10月13日、16日の誕生花「ネリネ」

「ネリネ」

基本情報

  • 学名Nerine
  • 科名:ヒガンバナ科(Amaryllidaceae)
  • 属名:ネリネ属
  • 原産地:南アフリカ
  • 英名:Guernsey lily(ガーンジー・リリー)
  • 和名:ダイヤモンドリリー
  • 開花期:10〜12月頃(秋〜初冬)
  • 花色:ピンク、白、赤、オレンジ、紫 など

ネリネについて

特徴

  • ダイヤモンドのような輝き
     ネリネの花びらは光を受けるとキラキラと輝きます。
     この独特の光沢は、花びらの表面にある微細な突起構造によるもので、
     まるでダイヤモンドのような煌めきを放つことから「ダイヤモンドリリー」と呼ばれます。
  • 晩秋を彩る花
     多くの花が終わる晩秋から初冬にかけて咲くため、
     寂しくなった季節に明るさを添える存在です。
  • 球根植物
     葉が出る時期と花が咲く時期が異なる種類が多く、
     花が先に咲いてから葉が伸びるタイプもあります。
  • 長持ちする切り花
     花もちがよく、花束やアレンジメントにも重宝されます。

花言葉:「また会う日を楽しみに」

由来

この花言葉には、ネリネの開花時期花姿にまつわる深い意味が込められています。


① 再会を感じさせる「季節の訪れ」

ネリネは、他の多くの花が咲き終えた後、
秋の終わりに静かに咲き始める花です。
まるで「またこの季節が来たね」と、
再会を告げるように咲くことから、
「また会う日を楽しみに」という意味が生まれました。


② 一度枯れても、翌年また美しく咲く

ネリネは球根植物で、
花が終わると地上部は枯れますが、
翌年になると再び花を咲かせます。
その「別れ」と「再会」を繰り返す姿が、
離れてもまた会える希望を象徴しています。


③ 光を放つ花姿に込められた希望

晩秋の冷たい空気の中でも、
ネリネは光を受けて輝き続けます。
その姿が「別れのあとにも光がある」
=「次に会える日を信じて待つ」という
ポジティブなメッセージに通じています。


「また会う日を楽しみに」

冬の気配が街に降りてきた。
 駅前の通りでは、イルミネーションの準備が進み、
 人々の吐く白い息が光の粒に溶けていく。

 沙耶は、花屋のガラス越しに並ぶピンクの花に足を止めた。
 「ダイヤモンドリリー」と書かれた札。
 光を受けて淡く輝く花びらは、まるで朝露を閉じ込めたように繊細で、
 どこか懐かしい温もりを感じさせた。

 ――ネリネ。
 その名を、彼が教えてくれたのはちょうど一年前の今日だった。

 あの日も、同じように冷たい風が吹いていた。
 大学の温室の片隅で、彼――湊は一輪の花を指さしながら微笑んでいた。

 「ネリネっていうんだ。晩秋に咲くから、ちょっと季節はずれなんだけど……
  光を当てると、花びらがキラキラするんだ。まるで“また会おう”って言ってるみたいだろ?」

 沙耶は笑って首をかしげた。
 「どうして“また会おう”なの?」

 「ほら、花が終わっても、また次の年に咲くんだ。
  一度枯れても、ちゃんと戻ってくる。
  だから、“また会う日を楽しみに”って言ってるように見えるんだ」

 そのとき、彼の瞳の中に小さな光があった。
 穏やかで、まっすぐで――
 まるで花びらの輝きを映したような光。

 けれど、春が訪れる前に、彼は遠い町へ旅立った。
 研究のための留学。
 「一年後、きっとまた会おう」と言って、
 彼は小さな球根を沙耶に手渡した。

 それが、ネリネだった。

 沙耶は、窓辺にその球根を植えた。
 夏の間も、秋になっても、芽が出る気配はなかった。
 土を見つめるたびに、
 「本当にまた咲くのかな」と不安になる夜もあった。

 けれど、十一月の初め、ふと気づくと
 鉢の中に細い茎が伸び、淡いつぼみが揺れていた。

 光を受けて、ほんの少しだけ輝いていた。

 「……おかえり」

 思わず口にした言葉に、自分でも驚いた。
 まるで花が彼の代わりに帰ってきたような気がしたのだ。

 ネリネは、冷たい風の中でも健気に咲き、
 部屋の空気をやわらかく照らしていた。

 そして今日――
 約束の日。

 沙耶は花束を胸に抱き、駅のホームに立っている。
 電車のブレーキ音が響き、扉が開く。

 人の波の中から、懐かしい笑顔が見えた。
 湊が小さく手を振っている。

 「ただいま」

 その声に、胸の奥があたたかくほどけた。
 沙耶は微笑みながら花を差し出す。

 「おかえり。
  ――この花、覚えてる?」

 湊は一瞬、目を見開き、それから静かに頷いた。
 「ネリネだね。“また会う日を楽しみに”」

 二人の間に、冬の風がやさしく吹き抜けた。
 その風の中で、花びらがきらめく。

 別れの季節に咲く花。
 でも、その輝きは、再会の約束のようにあたたかかった。

 夜になり、窓辺の鉢の中でネリネが静かに揺れていた。
 光を受けて、淡く、確かに輝いている。
 まるで言葉の代わりに伝えているように――

 「また会う日を、楽しみに。」

9月28日、10月16日の誕生花「シオン」

「シオン」

基本情報

  • 和名:シオン(紫苑)
  • 学名Aster tataricus
  • 英名:Tatarian aster
  • 科属:キク科・シオン属
  • 原産地:日本、東アジア
  • 開花期:9月~10月
  • 草丈:1~2mほどに育つ多年草
  • 利用:観賞用だけでなく、根は生薬(紫苑:しおん)として咳止め・去痰薬に使われる。

シオンについて

特徴

  • 花の姿:淡い紫色の舌状花と、黄色の筒状花を持つ、菊に似た花を咲かせる。花は直径3~4cmほどで、茎の先端に多数つく。
  • :長楕円形で厚みがあり、下部の葉は大きく、上に行くほど小さくなる。
  • 草姿:まっすぐに高く伸びる茎の先に、群れ咲くように花をつける。すっきりとした立ち姿だが、風に揺れると少し儚げに見える。
  • 性質:丈夫で育てやすく、日当たりと水はけの良い場所を好む。切り花にしても長持ちする。

花言葉:「ためらい」

由来

  • 紫苑の花は、満開になってもどこか控えめで、はっきりと開ききらない印象を与える。その遠慮がちな咲き方から、「ためらい」という花言葉がつけられた。
  • また、花びらは繊細に細く広がるが、重なり合って揺れる姿が、思いを伝えたいのに口にできずに揺らぐ心を連想させる。
  • 日本では古くから和歌や物語にも登場し、**「言い出せない恋心」や「控えめな心情」**の象徴として描かれてきたことも、この花言葉に重なっている。

「紫苑のためらい」

夏の名残をひきずる風が、山裾の道を渡っていく。
 紗英は祖母の古い家の庭に立ち、揺れる紫苑の群れを見つめていた。

 ――どうして、こんなときに。

 胸の奥がざわつく。幼なじみの翔が来月、遠い街へ引っ越すことを知ったのは昨日のことだった。
 別れの言葉を口にすべきなのに、会えば笑ってしまい、肝心な想いは喉の奥で渦を巻くばかり。

 紫苑は満開に咲いているはずなのに、どこか控えめで、花弁を広げきらない。淡い紫が幾重にも重なり合い、風に吹かれて小さく揺れている。その姿が、紗英には自分の心そのもののように映った。

 「ためらい……」

 思わず声に出す。かつて祖母が教えてくれた花言葉が蘇る。
 ――この花は、思いを伝えたいのに言えない心を映すんだよ。

 紫苑の群れの向こう、木戸を押して翔が入ってきた。白いシャツに汗がにじんでいる。
 「おばさんから栗もらった。ほら」
 差し出された袋を受け取りながら、紗英は視線を合わせられない。口を開けば、涙が零れてしまいそうだった。

 庭の端で、翔も紫苑を見ていた。
 「小さい頃さ、この花の蜜を吸おうとして、蜂に追いかけられたの覚えてる?」
 「……覚えてるよ」
 思わず笑ってしまい、二人の間にやわらかな空気が流れる。けれどその優しさが、かえって紗英を苦しめた。

 伝えなきゃ。
 でも――。

 風に揺れる紫苑の花弁が、彼女の心を映すように震えていた。

 翔は、まるで心を見透かすように静かに言った。
 「紗英、俺……ずっと言えなかったことがある」
 驚いて顔を上げると、彼の目が真っ直ぐにこちらを射抜いていた。
 「離れても、おまえのこと忘れない。ずっと、大事な人だから」

 胸が熱くなった。言葉は喉で絡まり、涙で視界が滲む。紫苑の花が揺れて、空気そのものがやさしく震えているようだった。

 「……私も」
 ためらいながら、それでも声を絞り出す。
 「私も、同じ気持ち。ずっと言えなかったけど」

 翔は少し驚いたように、そして安堵したように笑った。ふたりの間を吹き抜ける風が、紫苑の群れを大きく揺らした。

 言えなかった想いは、花に重ねて咲き続けていた。
 ためらいの果てにようやく零れ落ちた言葉は、紫苑の紫のように淡く、けれど確かな色を持って、二人の心を結んでいった。