9月13日、10月20日の誕生花「ブッドレア」

「ブッドレア」

基本情報

  • 和名:ブッドレア(フサフジウツギ)
  • 学名Buddleja davidii
  • 科名:ゴマノハグサ科(※APG分類ではフジウツギ科)
  • 原産地:中国~チベット原産
  • 開花期:7月~9月頃
  • 花色:紫・ピンク・白・黄色など
  • 別名:バタフライブッシュ(Butterfly bush)
     → 強い香りと蜜で蝶を多く引き寄せるため。

ブッドレアについて

特徴

  • 花穂:小さな花が円錐状に集まり、20cm前後の房になって咲く。
  • 香り:甘く強い芳香を放ち、蝶や蜂を誘う。特にアゲハチョウなど大きな蝶が好む。
  • 樹形:低木~中木で、剪定に強く、庭木や生け垣にも利用される。
  • 繁殖力:丈夫で育てやすく、世界各地で観賞用に広まった。

花言葉:「恋の予感」

由来

ブッドレアに「恋の予感」という花言葉が与えられた背景には、次のようなイメージが関わっています。

  1. 蝶を呼ぶ花
    • ブッドレアの甘い香りと蜜は、遠くからでも蝶を惹きつける。
    • 「蝶=恋の訪れやロマンの象徴」とされる文化的な連想から、「恋の予感」という花言葉につながった。
  2. 長く伸びる花房
    • 先へ先へと伸びるように咲く花穂は、「これから始まる新しい出来事」や「未来への期待」を思わせる。
    • そこに「まだ始まっていない恋の兆し」のイメージが重なる。
  3. 甘い香りと華やかな姿
    • 見る者を引き寄せるような芳香と色彩が、「心を惹かれる瞬間=恋の予感」を象徴すると考えられた。

「恋の予感、ブッドレアの庭で」

その庭は、夏の午後になると甘い香りで満ちあふれる。濃い紫や淡いピンクの房状の花が風に揺れ、蝶たちが次々と舞い降りてくる。まるで誰かが秘密の手紙を撒いているかのように、ブッドレアは無数の羽音を呼び寄せていた。

 陽菜(ひな)は、その庭の隅に腰を下ろし、ノートを広げていた。大学の卒論の題材に「植物と人の感情の関係」を選んだのは、きっと自分でも気づかない心の欲求だったのだろう。最近、彼女は心の中で小さなざわめきを抱えていた。それはまだ「恋」と呼ぶには幼く、でも確かに胸を騒がせる気配だった。

 ノートには、こんな言葉が走り書きされている。
 「ブッドレア――蝶を呼ぶ花。蝶=恋やロマンの象徴。花言葉は『恋の予感』。」

 ペンを止めたとき、視界の端に蝶がひらりと舞った。淡い黄色のアゲハチョウだ。陽菜は思わず手を伸ばすが、その羽はするりと逃げるように花へ吸い寄せられていく。まるで「追いかけてごらん」と誘っているように見えて、胸がくすぐったくなった。

 そのとき、庭の門が開く音がした。顔を上げると、幼なじみの悠人(ゆうと)が立っていた。背に背負ったカメラが陽を受けてきらりと光る。

「やっぱりここにいたか」
「悠人……どうして?」
「夏の蝶を撮りたくて。ブッドレアが咲いたって聞いたから」

 彼はためらいなく庭に入り、ファインダーを覗き込みながらシャッターを切った。その真剣な横顔を見ていると、胸の奥にさざ波のような熱が広がる。

「ほら、見てみろよ」
 悠人が液晶画面を差し出す。そこには紫のブッドレアに止まる蝶と、その背後でノートを抱えた自分の姿が写っていた。

「……私まで映ってる」
「いいだろ。蝶と花と、君。全部そろって“予感”の絵になる」

 その言葉に、陽菜の心臓が跳ねた。なぜ彼が花言葉のことを知っているのか、考える余裕もなかった。ただ耳に残った「予感」という響きが、胸の奥を甘く震わせた。

 風が吹き、房の花々が揺れる。蝶が群れをなして舞い上がり、空へ溶けていった。陽菜は思った。――このざわめきは、ブッドレアの香りがもたらした一時の幻ではない。きっと新しい物語の始まりなのだ。

 悠人がレンズを下ろし、静かに言った。
「この庭で、来年もまた一緒に写真を撮ろうな」

 その約束は、まだ恋とは呼べない。けれど確かに「予感」として陽菜の胸に刻まれた。紫の花が揺れ、甘い香りが二人を包み込む。まるでブッドレア自身が祝福しているように。

 ――恋の予感は、いつだって蝶の羽音とともにやってくる。

8月31日、9月16日、10月20日の誕生花「リンドウ」

「リンドウ」

HansによるPixabayからの画像

基本情報

  • 分類:リンドウ科リンドウ属(多年草)
  • 学名:Gentiana scabra var. buergeri
  • 原産地:日本(本州、四国、九州)、中国、朝鮮半島などアジア東部
  • 開花期:9月下旬~10月中旬
  • 花色:主に青紫、他に白やピンクもある
  • 草丈:20〜80cmほど
  • 利用:観賞用のほか、根は生薬「竜胆(りゅうたん)」として健胃・解熱・消炎に用いられてきた

リンドウについて

TheUjulalaによるPixabayからの画像

特徴

  1. 深い青紫色の花
    リンドウといえば鮮やかな青紫の花色が特徴的。秋の澄んだ空を映したような色合いで、日本では古くから愛されてきました。
  2. つぼみのように見える花
    花は釣鐘型で、完全に開ききらず筒状のまま咲くため、少し控えめで奥ゆかしい印象を与えます。
  3. 薬草としての歴史
    根は強い苦味をもち、生薬「竜胆」として古くから使われてきました。この「胆が裂けるほど苦い」という意味から「竜胆」という漢字が当てられています。
  4. 秋の代表花
    菊やコスモスと並び、お彼岸や敬老の日の贈り花としても親しまれています。

花言葉:「悲しんでいるあなたを愛する」

Sr. M. JuttaによるPixabayからの画像

由来

リンドウの花言葉にはいくつかありますが、その中でも「悲しんでいるあなたを愛する」は特に印象的です。

その背景には以下のような理由があります。

  1. 花がうつむいて咲く姿
    リンドウの花は横向き〜やや下向きに咲きます。その姿が「悲しみに沈む人」のように見えることから、寄り添うような愛情の花言葉が生まれました。
  2. 秋に咲く花であること
    秋は別れや寂しさを象徴する季節とされます。そんな季節に咲くリンドウは、哀愁の中に寄り添う存在として受け取られました。
  3. 色合いの象徴性
    青紫色は「憂い」「深い思慕」を連想させる色であり、落ち着いた花色が「悲しみを包み込む愛」を表現するものとされました。

「悲しみを包む青」

Thomas FerstlによるPixabayからの画像

彼女の家の庭の片隅には、毎年秋になるとリンドウが咲いた。
 小さく、うつむきながらも澄んだ青紫を放つその花は、派手さこそないが、ひときわ目を引く存在だった。

 ──「悲しんでいるあなたを愛する」。
 母が生前よく口にしていたリンドウの花言葉が、ふと胸をよぎる。

 母を見送ってから、初めて迎える秋。家の中には母の声も、あたたかな足音もなく、ただ時計の針が規則正しく音を刻むだけだった。

 朝起きても食卓は静まり返り、夜になっても帰りを待つ人はいない。季節が巡っていくたびに、自分ひとりだけが置き去りにされたようで、心の奥が冷えていくのを感じていた。

 そんなある日、庭をふと見やると、あのリンドウが花をつけていた。
 深い青紫の花弁が、澄んだ空気にしんと溶け込むように咲き誇っている。けれどもその花は、まっすぐ空を仰ぐのではなく、ほんの少しうつむいて咲いていた。

 まるで自分と同じように、悲しみを抱えながら立っているように見えて、胸が詰まった。

 しゃがみ込んで花を覗き込むと、記憶の奥から母の声が蘇る。
 「人はね、悲しいときに無理に笑わなくてもいいんだよ。悲しみを知っている人だからこそ、人を思いやれるんだと思うの」

 リンドウの花言葉を教えてくれたのも、そのときだった。母は、少し寂しそうに笑いながらも、どこか誇らしげに花を見ていた。

 「悲しんでいるあなたを愛する」
 ──あのときは難しく感じた言葉の意味が、今になってようやく少しだけ分かる気がした。

 母はきっと、自分が悲しんでいることを責めたりはしない。むしろ、その悲しみごと抱きしめてくれる。
 だから、この花は母の心そのものなのかもしれない。

 ひんやりとした秋風が頬を撫でる。見上げれば、澄み渡る空の青が広がり、その足元でリンドウが静かに揺れていた。
 哀しみに沈む心を、決して否定せず、ただそっと支えてくれる存在。
 母の愛情が、そこに確かに息づいているようだった。

 私は思わず花に向かってつぶやいた。
 「……ありがとう」

 声は誰に届くわけでもない。それでも、リンドウの青がわずかに深みを増したように見えた。
 その花の傍らで、私は初めて心の底から泣くことができた。

 悲しみを包み込むように咲く青紫のリンドウ。
 その花は、失われた母の代わりに、静かに私を抱きしめてくれているようだった。