7月22日、9月25日、10月30日の誕生花「ペチュニア」

「ペチュニア」

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基本情報

  • 学名Petunia
  • 科名 / 属名:ナス科 / ペチュニア属
  • 原産地:南アメリカ中東部亜熱帯~温帯
  • 開花時期:春〜秋(3月〜11月頃)
  • 草丈:約20〜50cm(品種により異なる)
  • 花色:赤、ピンク、紫、白、黄色、青、複色など非常に豊富
  • 分類:一年草(日本では)、多年草(原産地では)

ペチュニアについて

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特徴

  • 花の形:ラッパ型で丸く開いた花弁。柔らかな印象。
  • 開花期間が長い:春から秋まで咲き続けるため、ガーデニングや鉢植えに人気。
  • 多彩な品種:八重咲き、フリンジ咲き、ミニタイプなど園芸品種が非常に多く、色や形にバリエーションが豊か。
  • 生育が旺盛:日当たりと風通しのよい場所でよく育ち、比較的育てやすい。
  • 香り:一部の品種は甘くやさしい香りをもつ。

花言葉:「心の安らぎ」

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ペチュニアの花言葉にはいくつかありますが、なかでも**「心の安らぎ」**は特に穏やかな印象を与える花姿から生まれたと考えられます。

由来のポイント:

  • 優しい花色と形
     ペチュニアはラッパ状の丸みを帯びた花で、どこか包み込むような柔らかさを感じさせます。そのため、見る人の気持ちをほっと和らげる効果があります。
  • 長く咲き続ける安心感
     春から秋まで咲き続けるその姿は、「いつもそばにいてくれる存在」のよう。変わらぬ花姿が「安定」や「心の癒やし」といった感情を連想させるのです。
  • 家庭的で親しみやすい雰囲気
     庭先やベランダ、街角の花壇など身近な場所でよく見かけることから、日常に寄り添うような花=心の安らぎを象徴する花とも言えます。

「ペチュニアの咲くベランダで」

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四階建ての古びたアパート、その二階の角部屋に、白いレースのカーテンが揺れている窓がある。窓の外には小さなベランダがあり、そこにひっそりと並ぶ鉢植え――紫や淡いピンク、クリーム色のペチュニアが風に揺れていた。

 その部屋に住むのは、七十を過ぎた一人暮らしの女性、佐伯澄子。夫を亡くしてから十年以上が経ち、子どもたちはみな遠方に住んでいる。声のない日々が続いていたが、それを寂しいと嘆くでもなく、彼女は静かに、ゆっくりと毎日を過ごしていた。

 ペチュニアの花を育て始めたのは、二年前の春。偶然通りかかった園芸店で、「初心者にも育てやすいですよ」とすすめられ、何気なく手に取ったのが始まりだった。最初は淡いピンクの一株だけだったが、季節が巡るたびに少しずつ鉢は増え、気づけばベランダの半分以上がペチュニアで埋め尽くされていた。

 ある日、隣室に若い女性が越してきた。名前は美咲。澄子より五十歳も若く、無口で、どこか傷を抱えたような雰囲気の子だった。

 「こんにちは」

 ある朝、澄子が水やりをしていると、隣の窓から不意に声がした。驚いて顔を上げると、美咲がベランダ越しに頭を下げていた。

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 「いつも、きれいだなと思って見てました。……この花、なんて名前ですか?」

 「ペチュニアよ」

 「……優しい色ですね」

 それが、ふたりの最初の会話だった。

 それから少しずつ、美咲はベランダ越しに顔を出すようになった。会話は短く、気まぐれだったが、やがて彼女の手元にも小さな鉢植えが並ぶようになった。澄子は土のこと、水の量、陽当たりについて、少しずつ伝えていった。

 「この花ね、『心の安らぎ』っていう花言葉があるのよ」

 ある夕方、日が傾くベランダで、澄子がそう話しかけると、美咲はふと目を見開いた。

 「……安らぎ、ですか」

 「そう。丸くてやわらかい形でしょう。咲き方も素直で、香りは控えめだけど、そこがまたいいの。ずっと咲いていてくれるから、ね。誰かがそばにいてくれるみたいで、落ち着くのよ」

 その言葉に、美咲はしばらく黙っていた。

 「私……、夜になると、眠れなくて。何をしてても、胸がざわざわして。だけど、ここに来てから、ベランダを覗くのが、ちょっと楽しみになってて……」

 そう呟いて、彼女は小さく笑った。澄子はそれを、風に揺れる花のように見つめていた。

 季節は夏を越え、秋風がベランダを通り抜けるようになった。ペチュニアたちはゆるやかにその数を減らしながらも、最後までけなげに花を咲かせていた。

 「来年も、咲かせましょうね」

 澄子がそう言うと、美咲はうなずいた。

 「今度は、もっとたくさん育ててみたいです」

 ふたりの間に流れる空気は、静かで温かかった。言葉は多くなくても、そこに確かに「安らぎ」があった。

 ベランダのペチュニアは、今年も変わらず咲き続けていた。

7月5日、10月30日の誕生花「ロベリア」

「ロベリア」

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基本情報

  • 学名Lobelia erinus(代表種)
  • 科名:キキョウ科(またはロベリア科に分類されることも)
  • 原産地:熱帯~温帯
  • 開花時期:3月下旬~11月上旬
  • 草丈:10~30cm程度の一年草または多年草(園芸では一年草扱いが多い)
  • 花色:青、紫、白、ピンクなど(特に青紫系が有名)

ロベリアについて

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特徴

  • 小花が密に咲く
     細かく分かれた茎に小さな花をたくさん咲かせ、ふんわりと広がる姿が特徴的です。寄せ植えやハンギングバスケットにも向いています。
  • 涼しげな印象
     特に青紫色のロベリアは、涼感のある色合いで夏の花壇をさわやかに演出してくれます。
  • 耐暑性はやや弱い
     日本の高温多湿にはあまり強くなく、夏場は花が少なくなることもあります。そのため春~初夏が最も見ごろとされています。
  • 多年草タイプもあり
     多年草タイプのロベリア(例:ロベリア・シファリティカ)は、背が高く、宿根草として育てることも可能です。

花言葉:「謙遜」

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ロベリアの代表的な花言葉のひとつが「謙遜(modesty / humility)」です。

この由来には、以下のような植物の姿が関係していると考えられます。

◎ 控えめで可憐な佇まい

ロベリアは非常に小さな花を咲かせ、あまり目立つ存在ではありません。主役というよりは、寄せ植えなどで他の花を引き立てるような「控えめな存在感」を持っています。

◎ 群れて咲くことで美しさが際立つ

一輪一輪は小さくとも、集まって咲くことで全体としての美しさが表れる姿は、「自分をひけらかさず、周囲と調和する謙虚な心」を象徴しているとされます。

◎ 色合いのやさしさ

特に青紫色のロベリアは落ち着いた印象を与え、「静かに佇む美しさ=謙遜」のイメージと重なります。


「ロベリアの手紙」

Greg WolgastによるPixabayからの画像

六月の朝、庭に咲くロベリアが風に揺れていた。まだ陽は高くない。濡れた花びらがきらきらと朝露を弾いて、小さな青い光の粒がいくつもそこに宿っているようだった。

 佳乃はゆっくりとしゃがみこみ、その花にそっと手を伸ばす。

 「……やっぱり、あなたは静かに咲いてるのが似合うね」

 小さな声でそう言って笑うと、胸元から一通の手紙を取り出した。それは三年前に亡くなった祖母からのものだった。遺品の整理をしているときに、庭の植木鉢の裏から見つかった封筒。その表には、達筆な字で「佳乃へ」とだけ書かれていた。

 “あなたはすぐに前へ出ようとしない子でした。誰かを引き立てようとして、自分の気持ちはいつも後回し。私はそんなあなたが、まるでロベリアのように思えてなりませんでした。”

 祖母の字が、たどたどしく続いていた。

 “ロベリアはね、小さくて、静かで、決して目立たない花。でも、寄せ植えの中でそっと咲いて、全体を優しく整えるの。そういう花があるからこそ、他の花が引き立つのよ。謙遜、という花言葉は、そんなロベリアの性格そのもの。

 でもね、忘れないで。控えめでいることが、美しくないということじゃないの。自分の美しさを、ちゃんと信じなさい。

Ingrid BischlerによるPixabayからの画像

 あなたの中にあるやさしさと静けさは、いつかきっと誰かの心を救うわ。”

 最後の行には、「私の大好きなロベリアの種を、同封しておきます」と記されていた。封筒の中には、乾いた小さな種が五つ入っていた。それを植えたのが、いま佳乃の目の前に咲いているこの青い花だった。

 この庭は祖母が大切にしていた場所だ。佳乃が幼いころ、花の名前や水やりのコツを優しく教えてくれたのも祖母だった。だが、成長するにつれ、佳乃は「もっと自分を出さなきゃ」と周囲に言われるようになった。大人になるほどに、控えめでいることが劣っているかのような気がして、戸惑い、自分を否定しそうになることもあった。

 けれど――。

 この花は、それでも変わらずに咲いている。

 声高に咲くことはない。でも、誰かの足元に、さりげなく寄り添うように咲く。目立つ色ではないけれど、青紫の花びらは見つけた人の心に、すっと染みるような落ち着きを与えてくれる。

 まるで祖母の言葉のようだ。

 佳乃は立ち上がり、ロベリアを見下ろした。風が吹き、花たちがやわらかく揺れた。

 「ありがとう。私、少しずつでいいから、自分のままで歩いてみるね」

 そう呟いて、佳乃は家の奥へと戻っていった。花のそばには、折りたたまれた祖母の手紙と、小さなロベリアの名札がそっと置かれていた。

 そこには、祖母の筆跡で、こう書かれていた。

 ――謙遜は、静けさの中にある誇り。