8月8日、10月5日、15日の誕生花「クレオメ」

「クレオメ」

VirginieによるPixabayからの画像

基本情報

  • 和名:セイヨウフウチョウソウ(西洋風蝶草)
  • 学名Cleome hassleriana
  • 科名/属名:フウチョウソウ科/クレオメ属
  • 原産地:熱帯アメリカ
  • 開花時期:6月~10月(初夏~秋)
  • 草丈:60〜150cmほどになる高性草花
  • 一年草(※寒冷地では扱いは一年草)

クレオメについて

特徴

◎ 風に舞う蝶のような花姿

クレオメは、長い雄しべと雌しべが外へと飛び出したようなユニークな形状の花を咲かせます。その姿は、まるで蝶が舞っているかのように見えることから、和名では「風蝶草」と呼ばれています。

◎ 個性的で幻想的な咲き方

花は茎の上部に穂状に咲き進み、下から上へと開花していくため、常に咲きかけとつぼみが混在したような不思議な印象を与えます。その独特の構造が、ミステリアスな雰囲気を醸し出します。

◎ 夜にも咲く神秘性

クレオメの花は昼夜問わず咲いていることが多く、夕暮れや夜にも花を開いている姿が見られます。夕闇の中、ほのかに浮かぶその姿にはどこか秘密めいた美しさがあります。


花言葉:「秘密のひととき」

NGUYỄN THỊ THYによるPixabayからの画像

クレオメに与えられた花言葉「秘密のひととき(A Secret Moment)」は、次のような要素に由来していると考えられます。

● 幻想的な花姿と静寂の時間

クレオメの花は、日没後や夜間にも開花を続け、周囲が静まり返った時間帯でも、まるで誰にも気づかれずに咲いているかのようです。この“誰にも知られずに美しく咲く”様子が、まさに「秘密のひととき」を象徴しているといえるでしょう。

● 長い雄しべが作る繊細なシルエット

その繊細で複雑な花の構造は、近くでじっくり見ないとわからないほど繊細であり、それが「誰かとだけ分かち合う秘密」のような雰囲気を漂わせています。

● 見過ごされやすい美しさ

派手すぎず、どこか儚さを含んだ美しさは、短くても記憶に残る静かな時間――たとえば、夕暮れ時に誰かと過ごした特別な瞬間――を連想させます。


✧ おわりに

クレオメは、その独特な美しさと、静けさの中にひそむ魅力によって、「秘密のひととき」という詩的な花言葉を与えられた花です。風にそよぎ、誰にも見られずとも美しく咲くその姿は、まるで誰かとの心の中だけにある、大切な思い出のようです。


「秘密のひととき」

あの夏の終わり、私は祖母の古い家で、一輪の花に出会った。

 都会の喧騒に疲れ、何も告げずに帰省したのは、八月の終わりだった。山に囲まれたその町は蝉の声も薄らぎ、空気にわずかな秋の気配が混じっていた。

 「庭に咲いてるクレオメ、見たかい?」

 ふと立ち寄った近所の商店で、懐かしい声がした。祖母の友人であるその女性は、私が小さな頃に庭で遊んでいたのを覚えていて、「おばあちゃんが毎年植えていたんだよ」と笑った。

 その足で、祖母の庭に戻った。長く手入れをしていない庭は少し荒れていたが、裏手の塀の近くに、それは確かに咲いていた。

 すらりと背を伸ばした花茎の先に、羽のように広がる薄紫の花。その中心から長く伸びる雄しべが、まるで蝶の触角のように風に揺れている。どこか異国めいた佇まいで、周囲の雑草とは明らかに違う気配を放っていた。

 近づいてみると、花のつくりはとても繊細だった。線の細い花弁と、そこから飛び出すような雄しべ。輪郭が曖昧になるほどに、夜の空気の中でふわりと浮かんでいる。

 その夜、縁側で風鈴の音を聞きながら、祖母のノートをめくった。そこには、育てた草花の記録や、短い日記のような文章が残されていた。

「夕暮れのクレオメは誰にも見られず咲いてる。
静かな時間に、そっと目を向けてくれる人がいたら、それでいい」

 その一文を読んだ瞬間、胸の奥で何かがゆっくりほどけるのを感じた。

 社会の中で役割を演じ、人の目を気にしながら生きる日々。あの花のように、誰にも知られず、自分のリズムで咲くことは、わがままなのだろうか――。

 翌朝、まだ薄明るい時間にもう一度庭を見た。クレオメは、夜の静けさをまだその花びらに宿していた。朝の光に少し照らされながらも、まるで夢の中に咲いているようだった。

 その姿は、まさに「秘密のひととき」だった。

 派手ではない。けれど、だからこそ、見つけた者の心に深く残る。

 私はそっとスマホの電源を切った。連絡を絶っていた数日間の後ろめたさも、不思議と消えていた。

 その日から、私は毎朝、庭に立ってクレオメを眺めた。何かを考えるでもなく、ただ花と同じ時間を過ごした。

 誰かと分かち合うでもない、私だけの静かな時間。

 まるで祖母が、今の私に「ここにいていいよ」と言ってくれているような、そんな気がした。

✧ おわりに

 クレオメは、誰にも見られなくても、夜の静けさの中で凛として咲く花です。その姿は、ひとりの心の中にそっと咲く記憶や、他人には伝えられない思いに似ています。

 たとえ一瞬でも、自分だけのために過ごす時間。その中でふと見つけた小さな美しさは、人生の中で何よりも大切な「秘密のひととき」なのかもしれません。

5月18日、10月5日の誕生花「キバナコスモス」

「キバナコスモス」

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基本情報

  • 和名:キバナコスモス(黄花コスモス)
  • 学名Cosmos sulphureus
  • 科名/属名:キク科/コスモス属
  • 原産地:メキシコ
  • 開花時期:6月~10月(地域により異なる)
  • 草丈:50〜150cm
  • 花色:黄色、オレンジ、朱赤など
  • 花の大きさ:直径4~6cm程度

キバナコスモスについて

grainlatteによるPixabayからの画像

特徴

  • 耐暑性に優れる:通常のコスモス(Cosmos bipinnatus)よりも暑さに強く、日本の夏でもよく育ちます。
  • 成長が早く、丈夫:乾燥ややせ地にも強く、手間がかからないことから、初心者にも育てやすい花として人気です。
  • 花びらの形状:一般的なコスモスよりも花びらが丸みを帯びており、やや肉厚。
  • 茎や葉:茎はややしっかりしており、葉は切れ込みが深い羽状複葉で、軽やかな印象。

花言葉:「野性美」

Golam KibriaによるPixabayからの画像

キバナコスモスの花言葉のひとつに「野性美(やせいび)」があります。

この言葉は、以下のようなキバナコスモスの特徴に由来すると考えられています:

  • 自然の中で力強く咲く姿:キバナコスモスは、痩せた土地でも元気に花を咲かせ、強い日差しの下でも鮮やかな色を放つことから、「手入れされた庭園の美しさ」ではなく「自然のままの美しさ」を体現しています。
  • 野性的で鮮やかな色合い:オレンジや黄色などのビビッドな花色が、他の植物と比べて野趣あふれる印象を与えるため。
  • 生命力の強さ:繁殖力が強く、野生でも広がることがあり、そのたくましさが「野性」を感じさせる要素となっています。

つまり、人工的な美ではなく、自然の中でひときわ輝くような「飾らない力強い美しさ」を表す言葉として「野性美」という花言葉がつけられたとされています。


「野性の色で咲く」

Bishnu SarangiによるPixabayからの画像

日が傾きはじめた校舎の裏庭に、ひときわ鮮やかなオレンジの花が揺れていた。

キバナコスモス──風にそよぐその姿は、まるで自由そのものだった。

「また咲いてるね」

菜摘(なつみ)は、その花を見つめながら小さくつぶやいた。

この裏庭に足を運ぶようになったのは、夏休み前のことだった。クラスになじめず、誰かと話すことも億劫になっていた菜摘にとって、ここは唯一の“逃げ場”だった。雑草交じりのこの場所には、他の誰も寄りつかなかった。

そんな場所に、ある日ぽつんと咲いていたのが、あのキバナコスモスだった。

最初は一輪だけだった。けれど、数週間もしないうちに、少しずつ増えていった。誰かが植えたわけではない。風に乗ってきた種が根付き、勝手に育ったのだろう。

──それでも、どこか凛としていた。

雨の日も、強い日差しの日も、折れもせず、堂々と咲いていた。

「きれいだな……」

誰に聞かせるわけでもない言葉が、ふと漏れた。

自分とは真逆の存在に思えた。人と上手に話せず、笑顔も作れず、居場所すら見つからない。そんな自分とは違って、何も求めず、ただ咲くことを選んでいるかのようだった。

ある日、裏庭に先客がいた。

Bishnu SarangiによるPixabayからの画像

黒い髪を短く刈り込んだ、無口そうな男子──クラスで目立つタイプではなかったけれど、名前は知っていた。「相馬(そうま)」という、理科が得意な静かな子だった。

「……この花、キバナコスモスって言うんだよ」

彼は花を見つめながら、ぽつりと言った。

「野性美っていう花言葉、知ってる?」

菜摘は少し驚いたように首を振った。

「人工的に育てられる美しさじゃなくてさ。どこにでも咲くけど、どこでもきれいで、強い。そんな花なんだって」

相馬の声は風にまぎれそうなくらい静かだったけど、不思議と菜摘の心にすっと染み込んできた。

「なんか、いいね……それ」

その日を境に、二人は裏庭でときどき言葉を交わすようになった。話題は花だったり、本だったり、空の雲だったり。多くは語らないけれど、その沈黙が心地よかった。

やがて夏が過ぎ、季節が秋に変わるころ。

裏庭のキバナコスモスは、見事に咲き誇っていた。

「すごいね……まるで、野生の絵の具みたい」

菜摘は笑った。こんなふうに、自然に笑えたのは久しぶりだった。

「ねえ、あの花……私も、ああなれるかな」

「なれるよ。だって、もう咲いてるじゃん」

相馬の言葉に、菜摘は驚いて彼の顔を見た。

「逃げ場にしてたこの場所が、咲かせたんだ。君の心にも、きっと同じ色の種があるんだと思う」

オレンジ色の光が、沈む太陽と重なっていた。

風が吹く。キバナコスモスが揺れる。

そして、菜摘の中にも、確かに何かが芽吹いたような気がした。