「カラスウリ」

基本情報
- 学名:Trichosanthes cucumeroides
- 科名:ウリ科(Cucurbitaceae)
- 属名:カラスウリ属(Trichosanthes)
- 原産地:日本、中国、朝鮮半島など東アジア
- 開花期:夏〜秋(6〜9月頃)
- 分類:多年性つる植物(雌雄異株)
- 果実の時期:秋〜冬(10〜12月頃)
- 別名:タマズサ、キツネノマクラ
カラスウリについて

特徴
- 山野や林の縁などに自生するつる性植物で、木や草に巻きついて伸びる。
- 夜にだけ花を咲かせる珍しい植物。夕方に開き、朝になるとしぼむ。
- 白い花びらがレースのように細く裂けて広がる幻想的な姿をしている。
- 花が咲くころには夜行性の昆虫(ガなど)が受粉を助ける。
- 秋になると、楕円形の朱赤色の実がなる。熟すと中に黒い種があり、形が「烏(カラス)の頭」に似ていることから「カラスウリ」と呼ばれる。
- 実は観賞用にも人気があり、冬の山でひときわ目立つ赤色をしている。
- 根は薬用として利用され、「田七人参」に似た効果を持つとされる。
花言葉:「誠実」

由来
- カラスウリの花は夜の闇の中で、誰に見られなくても静かに咲く。
→ その控えめで純粋な姿が、「誠実さ」「真心」を象徴するとされた。 - 花びらがレースのように繊細でありながら、
毎晩決まった時間にきちんと咲いてはしぼむ律儀さも、誠実の象徴とされる。 - さらに、花が終わった後もつるを絶やさず、秋には赤い実を結ぶことから、
「見えないところで努力を続ける真心」や「約束を守る誠実な心」を表すといわれる。 - そのため、カラスウリには
→ “人知れずも真っ直ぐであることの美しさ”
を込めて「誠実」という花言葉が与えられた。
「夜の約束」

その花が咲くのは、いつも夜だった。
陽が沈み、山の端が群青に染まるころ、つるの先に白い影がふわりと開く。
灯りを持たなければ見えないほどの小さな花。けれど近づけば、空気が少しだけやわらぐような、清らかな香りがする。
美里(みさと)は、毎晩その花を見るために裏山へ通っていた。
夏の終わり、父の畑を手伝いながら、ふと見つけたのが始まりだった。
白い花びらが、レースのように細く裂けて夜風に揺れていた。
「誰にも見られないのに、こんなにきれいに咲くんだね」
そのとき呟いた言葉を、隣で笑って聞いていたのが――悠(ゆう)だった。

彼は、同じ集落の一つ上の先輩で、春から都会の大学に通っていた。
久しぶりに帰ってきたのは、わずか数日の夏休み。
それでも毎晩のように、美里の家の裏山に来ては、
「今日も咲いたかな」と懐中電灯を照らしていた。
けれど、秋の風が強くなった夜、悠はもういなかった。
休暇が終わり、また都会へ戻っていったのだ。
美里はそのあとも、ひとりで山へ通い続けた。
花は、変わらず咲いた。
夜が訪れるたび、まるで時間を守るように。
静かに開き、そして朝になると、しぼんでいく。

「律儀だね」
そう呟くと、自分の声が少し震えていた。
誰に見られなくても、花は咲く。
誰かのためにではなく、自分のままに咲いている。
やがて季節は進み、花の姿が消えたころ、赤い実が生まれた。
小さな灯のように、森の奥でぽつんと光っている。
それを見つけたとき、美里はなぜか涙がこぼれた。
――「見えないところでも、ちゃんと咲いてるんだね。」
悠が言ったあの夜の言葉が、胸の奥に甦った。
遠く離れても、誰かを思うことはできる。
見えない場所でも、努力は続けられる。
その想いが真っ直ぐであれば――きっと、届く。

翌春、雪解けの水が流れ始めたころ、
美里は赤い実から種を取り出し、畑の片隅にそっと埋めた。
土の冷たさの中に、何かを託すように。
「また、咲いてね」
その言葉は、夜風に消えた。
けれど、やがて巡る季節の中で、つるは伸び、葉をつけ、
夏の終わり――ふたたび白い花が咲いた。
誰に見られなくても、確かにそこに咲く。
それは、悠との約束のようでもあり、
美里自身の心の中に灯る、静かな誠実の証のようでもあった。
夜の闇の中で、レースの花が揺れる。
光を求めるでもなく、ただ自分の時間を信じて。
その姿は、まるでこう語りかけているようだった。
――人知れずも、真っ直ぐであれ。