11月17日、19日の誕生花「スターチス」

「スターチス」

基本情報

  • 科名:イソマツ科(Plumbaginaceae)
  • 属名:スターチス属(別名:リモニウム属)
  • 原産地:世界中の海岸、砂漠、荒れ地
  • 学名:Limonium
  • 開花時期:5〜7月頃(品種により差あり)
  • 色:紫・ピンク・黄色・白・青など
  • 別名:リモニウム、シーラベンダー

スターチスについて

特徴

  • **花びらのように見える部分は「乾燥しても色褪せない萼(がく)」**で、実際の花は中央の小さな白い部分。
  • ドライフラワーにしても鮮やかな色が長期間残る。
  • 湿気に強く、日持ちがよいので切り花として人気。
  • 砂地や海に近い場所など、比較的乾燥した土地でも育つ強さを持つ。
  • 花姿がカサカサとした紙質で、軽く、扱いやすい。

花言葉:「永遠に変わらない」

由来

  • スターチスは 乾燥しても萼の色がほとんど褪せず、形も長く保たれるため。
  • 生花もドライフラワーもほとんど見た目が変わらない性質から、
    →「変わらぬ思い」
    →「永遠に変わらない」
    という花言葉が生まれた。
  • 長期間飾れることから、永続する愛や記憶を象徴する花として扱われるようになった。

「色の消えない花」

海沿いの町に、小さな花屋があった。店主の美咲は、毎朝かならずスターチスの束を手に取り、窓辺に飾る。紫や青、レモン色の小さな萼が集まったその花は、ほかの花のように瑞々しさこそないが、どれだけ時が経っても色を失わなかった。

 「どうして毎日、これを飾るの?」
 常連の青年・悠斗がたずねたのは、夏の終わりだった。

 美咲は少しだけ笑い、束をそっと指で撫でた。
 「この花ね、生花でもドライフラワーでも、ほとんど姿が変わらないの。色も形も、ずっとそのまま。だから、花言葉は“永遠に変わらない”。」

 悠斗は「へぇ」と短く返したが、その瞳はどこか遠くを見ていた。

 店の奥の壁には、古い写真が飾られている。そこには、微笑む夫婦と、まだ幼い少女──美咲自身が写っていた。写真の隣には、色褪せていないスターチスのドライフラワー。少女の頃、母が初めて店を任された日に束ねた花だ。

 「変わらないって、ほんとにそんなことあるの?」
 悠斗の問いは、どこかすがるようでもあった。

 「あるよ」
 美咲は答えた。
 「人は変わっていくけどさ──それでも変わらないでいてくれる“何か”ってある。思い出とか、言葉とか、誰かの気持ちとかね。」

 悠斗はしばらく黙っていたが、やがて静かに話し始めた。
 「実はさ……離れて暮らしてた祖母が、昨日亡くなったんだ。急だった。最後に何か言えてたらよかったなって思って。」

 美咲は「そっか……」と小さくつぶやき、スターチスの束を一つ取り出した。

 「この花、持っていく?」
 「え?」
 「色が消えないからね。時間が経っても、想いが薄れたりしない。大事な人との記憶を、そっと支えてくれると思う。」

 悠斗は驚いたように目を瞬いた。
 けれど次の瞬間、深く息を吐き、静かにうなずいた。
 「……ありがとう。きっと、ばあちゃんも喜ぶ。」

 帰っていく背中を見送りながら、美咲はふと天井を見上げた。店のどこかにまだ母の笑い声が残っている気がする。スターチスの束が、今日も窓辺で揺れていた。まるで、変わらぬ想いをそっと守るように。

 それはきっと、色の消えない花だけが知っている秘密だった。

10月28日、11月19日の誕生花「ワレモコウ」

「ワレモコウ」

基本情報

  • 科名:バラ科
  • 属名:ワレモコウ属(Sanguisorba)
  • 学名Sanguisorba officinalis
  • 原産地:ユーラシアの温帯から亜寒帯、北米大陸北西部~西部
  • 分類:多年草
  • 開花時期:7月〜10月頃
  • 花色:暗紅色〜赤褐色
  • 生育環境:日当たりのよい草地や山野

ワレモコウについて

特徴

  • 花びらがないように見えるが、実際は萼(がく)が花のように色づいている。
  • 細長い茎の先に、楕円形の小さな花が密集して咲く独特の姿。
  • 落ち着いた色合いと風に揺れる繊細な姿が日本的な情緒を感じさせる。
  • 生け花や茶花にもよく用いられ、秋の風情を象徴する植物の一つ。
  • 根には薬効があり、止血や整腸に利用されてきた歴史を持つ。

花言葉:「あこがれ」

由来

  • 細くまっすぐ伸びた茎の先で、小さな花穂をそっと揺らす姿が、**「遠くを見つめるよう」**に見えることから。
  • 地味ながらも凛と立つその姿が、**「控えめな憧れ」「手の届かない存在を思う気持ち」**を連想させる。
  • 秋風に揺れるたおやかな花姿が、どこか儚くも切ない憧憬の情を映しているとされる。

「風の向こうの君へ」

放課後の校庭には、夕方の風が吹き抜けていた。グラウンドの端に立つ花壇のそばで、結衣はしゃがみ込み、小さな赤褐色の花を見つめていた。
 ――ワレモコウ。
 地味で、誰も気にも留めないような花。それでも、風に揺れる姿がどこか懐かしくて、結衣は毎日ここに足を運んでいた。

 その花を最初に教えてくれたのは、三年の先輩だった。文化祭の準備で花壇の整備をしていたとき、彼がふと手を止めて言った。
 「この花、知ってる? ワレモコウっていうんだ。名前、ちょっと変だろ」
 彼は笑って、花穂の先をそっと指で弾いた。細い茎がしなやかに揺れ、暗紅色の粒が小さく震えた。
 「派手さはないけど、なんかいいだろ。風にまかせて、でも折れない」

 その言葉が、胸の奥にずっと残っていた。

 彼は卒業して、もうこの学校にはいない。
 けれど秋になると、決まって花壇の隅にこのワレモコウが咲く。まるで彼が残していった記憶のように。

 風が吹くたびに、花が遠くを見つめるように揺れる。
 ――まるで、あの人を探しているみたい。
 結衣は心の中でつぶやいた。

 彼がいなくなってから、何度も忘れようとした。
 けれど、どうしても消えなかった。地味で目立たないこの花が、彼そのもののように思えたからだ。
 誰も気づかない場所で、静かに咲き続ける。
 それでも、確かにそこにある。

 放課後の風は少し冷たく、空は茜色から群青に変わりかけていた。
 結衣は立ち上がり、花壇の前で小さく息を吐いた。
 「先輩、私ね、まだここにいるよ」

 言葉は風に溶け、どこまでも広がっていく。
 その向こうに、いつか届くように。

 ふと、ワレモコウがまた揺れた。
 まるで「わかってる」とでも言うように。

 遠くを見つめるようなその姿に、結衣は微笑んだ。
 憧れという言葉は、いつも少し切ない。手の届かない場所にある光のようで、追いかけても触れられない。
 けれど、それでもいいのだと思った。
 憧れがあるからこそ、今日も自分は前を向けるのだから。

 風が吹く。
 茎がたおやかに揺れ、花穂が陽の名残を映す。
 その姿はまるで、遠くを見つめる小さな祈りのようだった。

 ――憧れは、消えない。たとえもう届かなくても。

 結衣はもう一度花を見つめてから、ゆっくりと歩き出した。
 夕暮れの風の中、赤褐色の花は、静かに彼女の背中を見送っていた。