4月14日、12月12日の誕生花「ハルジオン」

「ハルジオン」

🌼 ハルジオンの基本情報

  • 和名:ハルジオン(春紫苑)
  • 学名Erigeron philadelphicus
  • 英名:Philadelphia fleabane
  • 分類:キク科 ムカシヨモギ属
  • 原産地:北アメリカ
  • 開花時期:4月~6月頃(春〜初夏)
  • 花の色:白、薄ピンク、時に淡紫色

ハルジオンについて

🌿 ハルジオンの特徴

  • 姿:道端や空き地など、比較的どこでも見られる野草で、高さは30〜80cmほどに成長します。
  • :キク科特有の小さな花が集まった頭状花(とうじょうか)で、細く糸のような花びらが特徴的。似た花に「ヒメジョオン」がありますが、ハルジオンはつぼみのときに下を向くのが特徴です。
  • :茎を抱くようにつく(「茎を抱く葉」がハルジオンの見分けポイント)

花言葉:「追想の愛」

ハルジオンの花言葉「追想の愛」は、淡く可憐な見た目から「過去の愛を静かに思い出す」といったイメージが由来です。控えめに咲く姿が、淡い記憶や失われた恋をそっと思い出させることから、このようなロマンチックでちょっと切ない花言葉がつけられています。


「ハルジオンの手紙」

風がやわらかく吹き抜ける午後、駅前の小さな公園に、ユウはひとりで腰を下ろしていた。
目の前には、季節外れのハルジオンがひとつ、足元で揺れている。

「まだ咲いてるんだね、君」

そう独りごちて、ユウはポケットから一通の手紙を取り出した。黄ばんだ封筒には、少しだけ滲んだインクで、たったひとつの名前が書かれている。

――紗季へ

五年前、この公園で最後に会った日。春の陽射しの中、彼女は笑ってこう言った。

「ユウくんはいつもハルジオンみたい。目立たないけど、優しくて、ふっと心に残るの」

照れくさくて返事もできず、ただ笑ってごまかしたあの日。
まさかそれが最後になるなんて思いもしなかった。

紗季は突然、遠くの町へ引っ越してしまった。親の仕事、家庭の事情――何もかもが急で、置いてけぼりにされたような気持ちだった。
そのあとに届いたのが、この手紙だった。

「ごめんね、何も言わずに行ってしまって。私、ユウくんに伝えたいことがいっぱいあったの。でも、言葉にできなかった。
だから、いつかちゃんと伝えるために、この手紙を預けておきます。いつかまた、あの公園で会えたときに読んでほしい。
その日が来るまで、そっと大事にしまっておいてね」

読みたい気持ちはあった。けれど、それ以上に「また会える」と信じたくて、ずっと封を切れずにいた。

だが、先日ふと耳にした彼女の噂。
「数年前に、病気で亡くなったらしいよ」と。

ユウはその場で立ち尽くした。目の前がぐらりと揺れた。
あの日の笑顔が、声が、すべて胸の奥で弾けて、涙が止まらなかった。

――もう、彼女は戻ってこない。

そう思ったとき、ようやく手紙の封を開ける決心がついた。

指先でゆっくりと封を破る。便箋に並んだ文字は、やわらかく、どこまでも紗季らしかった。

『ユウくんへ

春になると、あの公園のハルジオンが思い浮かびます。
私たちの時間は短かったけれど、あなたと過ごした日々は、私にとって宝物でした。

もし、これを読んでくれているなら、それはきっと、もう会えないということなんだと思う。

ごめんね、さよならも言えずに。

でも、私の心は、ずっとあなたと一緒でした。

ハルジオンの花言葉、知ってる?
「追想の愛」っていうんだって。
私の想い、いつか伝わるといいな。

ありがとう、ユウくん。
あなたに出会えてよかった。

紗季』

読み終えたあと、ユウの目からぽろりと雫が落ちた。
白く揺れるハルジオンが、まるで彼女の代わりにそこに咲いているように思えた。

「追想の愛、か……」

ユウはそっと立ち上がり、花に手を伸ばす。だが摘まずに、ただそっとなでて微笑んだ。

過去は戻らない。けれど、想いは時間を越える。
そして、記憶の中に咲き続ける花もある。

ハルジオンは今日も、小さな風に揺れていた。

11月13日、27日、12月12日の誕生花「デンドロビウム」

「デンドロビウム」

基本情報

  • 学名Dendrobium
  • 科名:ラン科(Orchidaceae)
  • 属名:デンドロビウム属(Dendrobium)
  • 原産地:ネパール、インド東北部、ブータン、ミャンマーなど
  • 開花時期:2月~5月(3月~4月がピーク)
  • 花色:白、ピンク、紫、黄、緑など
  • 別名:セッコク(石斛/日本原産種)、デンドロビューム

デンドロビウムについて

特徴

  • ラン科の中でも種類が非常に多く、1000種以上が存在する。
  • 多くの品種は樹木や岩に着生し、空気中の湿気や雨から水分を吸収して生きる。
  • 細長い茎(バルブ)に葉をつけ、茎の節から花を咲かせる姿が特徴的。
  • 花は繊細でありながら華やかで、気品を感じさせる美しさを持つ。
  • 観賞用・贈答用のランとして人気が高く、開店祝いや卒業式などにも用いられる。
  • 長く咲き続けるため、「永遠」「忍耐」といった意味も持たれることがある。

花言葉:「わがままな美人」

由来

  • デンドロビウムは、花姿がとても美しく、しかも気まぐれに咲くことで知られる。
    → 温度・湿度・日光など、栽培環境に敏感で、わずかな変化でも咲き方が変わる。
  • その繊細さと手のかかる美しさが、「美しいけれど扱いにくい」「気まぐれな美人」を連想させた。
  • 花びらの形や色合いが、まるで艶やかな女性の表情を思わせることから、
    「わがままな美人」「華やかな女性」といった花言葉がつけられた。
  • 同時に、どんな環境でも根を張り、時期がくると見事に咲くことから、
    「強い意志を持った美しさ」も象徴している。

「ガラス越しの花」

ミナはショーウィンドウに映る自分の姿を、じっと見つめていた。
 美容室のガラスに、春の光が反射している。整えたばかりの髪が、その光をやわらかく受けて揺れた。
 「少し短くしましたね」と言われて頷いたが、彼女の心はどこか遠くにあった。

 デスクに置いていたデンドロビウムが、昨日しおれた。
 細い茎の先に、いくつも花をつけていたあの美しい姿が、嘘のように萎んでいた。
 思わず手を伸ばして花びらに触れたとき、指先にひんやりとした感触が残った。
 それは、まるで自分自身を見ているようだった。

 仕事も恋も、うまくいっていない。
 自分なりに努力しているつもりでも、ほんの少しの言葉や態度で傷ついてしまう。
 誰かに「強いね」と言われるたび、笑顔でうなずきながら、心の奥で「本当は違うのに」と思っていた。

 帰り道、通りの花屋の前で足を止めた。
 ガラス越しに見える棚の上、淡い紫色のデンドロビウムが、春の光に包まれていた。
 花びらの奥には、ほんのりと金色が混じっている。
 その複雑な色合いは、まるで人の心のようだった――一色では言い表せない、美しさと難しさを併せ持っている。

 「気まぐれな花なんですよ」
 花屋の女性が声をかけてきた。
 「育てるのは少し大変。でもね、ちゃんと手をかけてあげると、忘れたころにまた咲くんです」

 ミナは微笑んだ。
 「わがままだけど、芯が強いんですね」
 「そう。そういう人、憧れますよね」

 その言葉が胸の奥に響いた。
 ――わがまま、という言葉の中に、ほんとうは「自分を信じる強さ」が隠れているのかもしれない。

 帰宅後、ミナはしおれたデンドロビウムの鉢を手に取った。
 根元を見つめると、まだ小さな芽がいくつか残っている。
 捨てるのは、やめよう。
 そっと水を与え、窓辺に置く。光が少しだけ差し込むその場所に。

 次の朝、ミナは鏡の前で髪を整えながら、自分に小さく言った。
 「気まぐれでもいい。少しずつでいい」

 ベランダの向こう、遠くの空に淡い雲が流れていた。
 その下で、デンドロビウムの茎が、ほんの少しだけ光を受けて輝いている。

 ――また咲く日が来るまで、私も生きてみよう。
 それは、決意というより、祈りに近い言葉だった。

 花は気まぐれに咲く。
 けれど、その気まぐれの中に、確かな意志がある。
 ミナはそれを知って、初めて自分の「わがまま」を受け入れられた気がした。

 静かな朝の光の中、ガラス越しの花が、ゆっくりと彼女の方を向いていた。