2月22日の誕生花「ウスベニタチアオイ」

「ウスベニタチアオイ」

基本情報

  • 和名:ウスベニタチアオイ(薄紅立葵)
  • 英名:Hollyhock(ライトピンク系)
  • 学名:Althaea officinalis
  • 分類:アオイ科タチアオイ属
  • 原産地:ヨーロッパ
  • 開花時期:7月〜9月
  • 草丈:150〜250cmほど
  • 花色:淡い紅色、薄桃色
  • 利用:庭植え、花壇、切り花、薬用(近縁種)

ウスベニタチアオイについて

特徴

  • 背の高い直立した花姿
    茎をまっすぐ伸ばし、下から上へ順に花を咲かせる堂々とした姿が特徴。
  • やわらかく透けるような薄紅色
    強い主張はなく、光を含んだような優しい色合いが印象的。
  • 一輪一輪が大きく、素朴な形
    飾り気のない花形が、自然体の美しさを感じさせる。
  • 長い開花期間
    次々と花を咲かせ、夏の庭に静かなリズムを与える。
  • 古くから人の生活に寄り添う植物
    観賞用だけでなく、薬草や民間療法にも用いられてきた歴史がある。


花言葉:「慈善」

由来

  • 人を包み込むような穏やかな花姿から
    大きく開いた花が、与えることを惜しまない慈しみの心を連想させた。
  • 派手さよりも実用性を重んじてきた歴史
    薬用・食用・観賞用として人々の暮らしを静かに支えてきたことが、「無償の与え合い=慈善」の象徴となった。
  • 次々と花を咲かせる献身的な性質
    一輪が終わってもすぐ次が咲く姿が、見返りを求めない思いやりを思わせる。
  • 淡い色が示す控えめな優しさ
    主張しすぎない薄紅色が、押しつけない善意や静かな思いやりと重ねられた。


「薄紅は、見返りを求めない」

 その町には、観光地として地図に載るほどの名所はなかった。駅前の商店街も半分以上がシャッターを下ろし、夕方になると人通りは急に減る。それでも、春から夏にかけて、ひとつだけ町の景色を変えるものがあった。

 川沿いの細い道に沿って、ウスベニタチアオイが咲くのだ。

 誰が最初に植えたのか、正確な記録は残っていない。ただ、背の高い茎がまっすぐ空へ伸び、淡い紅色の花を下から順に咲かせていくその姿は、町の人間にとって「いつもの夏」の象徴だった。

 美咲は、その花の世話をしている数少ない一人だった。

 といっても、特別な情熱があったわけではない。町役場を辞め、地元に戻ってきたとき、母に頼まれただけだった。「誰かが見てないと、草だらけになるから」と。断る理由もなく、朝の涼しいうちに水をやり、枯れた花を摘む。それだけのことだった。

 ウスベニタチアオイは、近くで見ると不思議な花だった。
 一輪一輪は大きいのに、自己主張が強くない。色は淡く、花弁は柔らかく開いている。触れれば壊れてしまいそうなのに、風には案外強く、簡単には倒れない。

 まるで、人を迎え入れるために腕を広げているようだった。

 町に戻ってからの美咲は、どこか居心地の悪さを感じていた。都会で働いていた頃は、成果や評価が明確だった。だがここでは、誰も急かさない代わりに、誰も期待していないようにも思えた。

 「戻ってきてくれて助かるよ」

 そう言われるたび、胸の奥が少しだけ痛んだ。それは感謝なのか、それとも都合のいい言葉なのか、美咲には判断がつかなかった。

 ある日、花の手入れをしていると、見知らぬ女性が足を止めた。旅行者らしく、小さなリュックを背負っている。

 「この花、きれいですね」

 それだけ言って、写真を撮り、去っていった。
 名前を聞かれることもなければ、由来を説明することもない。

 だがその一瞬、美咲は胸の奥で何かがほどけるのを感じた。

 ウスベニタチアオイは、誰かに褒められるために咲いているわけではない。名前を知られなくても、意味を理解されなくても、淡々と花を咲かせる。終わった花は静かに落ち、すぐ次の蕾が開く。

 与えても、返ってこないことを前提にしているような咲き方だった。

 祖母は生前、この花を「役に立つ花」だと言っていた。
 喉を痛めたときは煎じ、皮膚が荒れたときは湿布にする。派手ではないが、暮らしの隅で人を支える花。

 慈善とは、きっとこういうものなのだろう。
 声高に善を語ることではない。感謝を求めることでもない。ただ、必要なときに、そこに在ること。

 夏が近づくにつれ、花は上へ上へと咲き進んだ。下の花が散っても、上にはまだ蕾がある。その姿を見ていると、美咲は自分が焦っていた理由が分からなくなった。

 何かを成し遂げなくてもいい。
 誰かに評価されなくてもいい。

 今日できることを、今日の分だけやればいい。

 夕暮れ、川面に風が走り、薄紅の花が一斉に揺れた。色は淡いのに、その景色は驚くほど豊かだった。

 美咲は如雨露を置き、しばらく立ち尽くす。
 与えることは、失うことではない。
 静かに、何度でも咲き続けることなのだ。

 ウスベニタチアオイは何も語らない。
 それでも、その大きく開いた花は、今日も変わらず、誰かの通り道をやさしく照らしていた。

 見返りを求めない、薄紅の慈善として。