「ハナショウブ」

基本情報
- 学名:Iris ensata
- 分類:アヤメ科 アヤメ属
- 原産地:日本、朝鮮半島~東シベリア
- 開花時期:
6月~7月中旬
- 花の色:紫、白、青、ピンクなど多彩
- 別名:イリス、ジャパニーズアイリス
ハナショウブについて

特徴
- 湿地を好む植物
- 湿原や池の周りなど、湿った場所でよく育ちます。庭園や水辺の風景に多く見られます。
- 湿原や池の周りなど、湿った場所でよく育ちます。庭園や水辺の風景に多く見られます。
- アヤメ・カキツバタとの違い
- 見分けが難しいですが、ハナショウブは「花弁の根元に黄色い模様」があるのが特徴。
- カキツバタは白い模様、アヤメは網目模様があります。
- 多くの品種が存在
- 江戸系、伊勢系、肥後系など、育て方や花形により多くの系統があります。
- 観賞用として品種改良が進み、豪華な花姿が魅力です。
- 日本文化との結びつき
- 江戸時代から続く園芸文化の中で愛され、各地でハナショウブ園や祭りが開催されます。
花言葉:「うれしい知らせ」

ハナショウブの花言葉の一つ「うれしい知らせ(glad tidings)」は、以下のような背景から来ています
- 姿からの連想
- 凛とした花姿が、良い知らせを運んでくるような印象を与えるため。
- 花弁が開き、上に向かって広がる様子が「扉が開く」「新しい便りが届く」といった明るいイメージを喚起します。
- 古くからの手紙文化との関連
- 平安時代などでは、花を贈ることが一種の通信手段のような意味合いを持っていたとも言われており、ハナショウブは「思いを伝える」象徴でもあったとされます。
- 平安時代などでは、花を贈ることが一種の通信手段のような意味合いを持っていたとも言われており、ハナショウブは「思いを伝える」象徴でもあったとされます。
- 季節感と喜び
- 梅雨のじめじめとした時期に、鮮やかで清々しい花を咲かせるハナショウブは、人々の心に喜びをもたらす存在でもあるため、「うれしい知らせ」という前向きな意味がついたとされています。
「花が届けた、うれしい知らせ」

梅雨の雨音がやさしく響く朝、千夏は久しぶりに駅前の公園を訪れた。傘を差しながら歩く小道の両脇には、紫や白のハナショウブがしっとりと咲いている。
「おばあちゃんが好きだった花だ……」
紫の一輪にそっと目を向けると、亡き祖母・貴子の声がふと蘇る。
——“この花が咲く頃には、いいことがあるわよ”
当時、まだ子供だった千夏はその言葉の意味を深く考えたことがなかった。だが今、祖母の言葉が妙に胸に残る。

祖母は手紙をよく書く人だった。筆まめで、絵手紙にも長けており、花の絵を添えた便りが毎月届いた。特にこの季節には、決まってハナショウブの絵が描かれた便りが届いていた。
だが、その手紙も、祖母が亡くなった去年から止まっている。寂しさを紛らわすために、千夏は仕事に没頭していたが、何かが心に引っかかっていた。
そのとき、ふいにスマートフォンが震えた。
「……ん?」
見知らぬ番号からの着信。少し迷ったが、応答ボタンを押した。

「千夏さんのお電話でしょうか。こちら、○○郵便局の者ですが……先日、古い郵便箱の整理をしていたところ、宛先不明で保留になっていたお手紙が見つかりまして。差出人が“水野貴子”さんとありました」
「……え?」
思わず声を上げる。
「もしご確認いただけるようでしたら、お時間のあるときにお越しください」
胸が高鳴るのを抑えきれず、千夏はすぐに郵便局へ向かった。
局員から手渡されたのは、少し黄ばんだ封筒。見覚えのある達筆の文字が並ぶ。祖母の最後の手紙だった。
封を開けると、ハナショウブの絵がまず目に飛び込んできた。

そして、文章が綴られていた。
「千夏へ
この手紙が届く頃、あなたはきっと何かに迷っているころでしょう。
でも大丈夫。あなたはちゃんと前に進める子だから。
ハナショウブは、雨の中でも真っ直ぐ咲いて、誰かの心を明るくしてくれる花。
あなたも、そんな人になれると信じています。
この花を見かけたら、“うれしい知らせ”が届く前触れと思ってね。
あなたの未来に、たくさんの幸せが訪れますように。

愛を込めて 貴子より」
読み終えた瞬間、涙がこぼれた。
祖母は、最後の最後まで千夏の背中を押そうとしてくれていた。その思いが時を超えて、今、届いたのだ。
ふと、ハナショウブの咲く公園を見やると、雨上がりの空に薄く光が差し始めていた。
「ありがとう、おばあちゃん」
千夏は空に向かって呟いた。
そして、笑った。
——それは、まさに「うれしい知らせ」が届いた瞬間だった。