「クルクマ」

基本情報
- 学名:Curcuma petiolata
- 科名 / 属名:(ショウガ科・ウコン属)
- 分類:多年草
- 原産地:タイ、インドなどの熱帯アジア
- 開花期:夏(5月~10月頃)
- 別名:「ハルウコン(春ウコン)」「ウコンの花」
- 切り花としての人気:花持ちが非常に良く、アレンジメントや仏花としても用いられる。
クルクマについて

特徴
- 花に見える部分は苞(ほう)
- 実際の花は苞の間に小さく咲く白や淡黄色の部分で、一般的に目立つ色鮮やかな部分(ピンク・紫・白・緑など)は苞。
- この苞が重なり合って美しい造形をつくる。
- エキゾチックで上品
- ショウガ科らしい独特の形態を持ちながらも、柔らかな色合いが気品を感じさせる。
- 強い生命力
- 熱帯の植物らしく暑さに強い。切り花にしても長持ちする。
- 観賞用と薬用での違い
- 観賞用に流通するクルクマは花を楽しむ種類。
- 一方でウコンの仲間として、根茎を薬用・香辛料に利用する種類もある。
花言葉:「あなたの姿に酔いしれる」

優雅で幻想的な姿
- クルクマの苞は、まるで異国のランの花のようにエキゾチックで整った形をしており、人目を奪う美しさがある。
- その艶やかで魅惑的な姿に、思わず見惚れてしまうことから「あなたの姿に酔いしれる」という花言葉が与えられた。
長く咲き続ける花持ち
- 切り花にしても非常に日持ちがよく、いつまでもその姿を眺めていられる。
- 「ずっと見つめていたい」「酔いしれるほどに美しい存在」というイメージに重なる。
異国情緒の強さ
- 日本では珍しい熱帯的で豪奢な姿が、日常を忘れさせるような陶酔感を与える。
「あなたの姿に酔いしれる」

夏の午後、ガラス張りの温室に足を踏み入れたとき、瑞希は思わず息を呑んだ。蒸し暑さとともに、異国の香りが肌にまとわりつく。そこに広がっていたのは、鮮やかな色を放つ花々。そのなかでひときわ彼女の目を奪ったのが、クルクマだった。
整然と重なり合う苞は、まるで異国のランの花のよう。白から淡いピンク、そして濃い紫へと色を変えるその姿は、現実の風景というより幻想の断片のように見えた。瑞希はガラス越しの光を浴びて艶やかに立つ花々から目を離せなかった。

「この花、クルクマっていうんですよ」
背後から声がした。振り返ると、温室の管理をしている青年が立っていた。爽やかな笑みを浮かべたその人は、まるで花に負けないほど自然に光をまとっているように感じられた。
「あなたの姿に酔いしれる、って花言葉があるんです」
青年はそう言って、手にした霧吹きを軽く振った。細やかな水滴が苞の表面に散り、光を受けて宝石のように輝く。その一瞬に、瑞希の胸はきゅっと縮んだ。――まるでその言葉が、彼自身の存在を説明しているように思えたからだ。

花言葉など、これまで深く考えたことはなかった。けれど、この花を目の前にした瞬間だけは違った。瑞希は確かに「酔う」感覚を覚えた。形の美しさだけではなく、どこか現実を忘れさせる力を持っていた。
青年は説明を続けた。「クルクマは切り花にしても長持ちするんです。だから、ずっと飾っておいても色褪せにくい。ずっと眺めていられる花なんですよ」
その言葉に、瑞希は不意に心の奥を衝かれた。ずっと眺めていられる存在。ずっと心を奪われてしまう存在。――それは、彼に対する自分の感情そのものではないか。温室の蒸気に紛れて、頬に熱が差すのを隠せなかった。

「異国からやってきた花だから、日本ではちょっと特別なんです。豪奢で、でも品があって。日常を忘れさせるような雰囲気がありますよね」
青年は柔らかく語りかける。瑞希はうなずきながら、心の中で思った。――あなたこそ、私にとって日常を忘れさせる存在。
しばらく二人は黙って花を見つめていた。温室の奥に風が通り抜け、苞がかすかに揺れる。時間が止まったように思えた。瑞希は胸の奥でそっと言葉をつぶやく。
――あなたの姿に酔いしれる。
その想いは、クルクマの花に秘められた花言葉そのままだった。青年に伝えることはできなかったけれど、花を介して心は確かに結ばれていた。
温室を出るとき、瑞希は振り返った。クルクマの群れはまだ光を浴び、幻想のように咲き続けていた。彼にまた会いたい、あの花にもう一度触れたい。そう願う心は、熱帯の花のように静かに、しかし力強く根を張っていた。