9月14日、30日の誕生花「シュウメイギク」

「シュウメイギク」

基本情報

  • 和名:シュウメイギク(秋明菊)
  • 学名Anemone hupehensis ほか(Hybridも含む)
  • 科名:キンポウゲ科
  • 属名:イチリンソウ属(アネモネ属)
  • 原産地:中国、台湾
  • 開花期:8月下旬〜11月頃
  • 花色:白、ピンク、紅紫など
  • 別名:キブネギク(貴船菊)
    • 京都・貴船地方でよく見られることに由来。

シュウメイギクについて

特徴

  1. 秋を彩るアネモネの仲間
    名前に「菊」とありますが、実際はアネモネの仲間。菊との関係はありません。花姿が菊に似ていることからこの名が付きました。
  2. 可憐で気品ある姿
    細長い茎の先に花を咲かせ、風に揺れる姿が優雅。花弁のように見える部分は実は萼片です。
  3. 丈夫で広がりやすい
    地下茎で増える性質が強く、一度根づくと群生しやすい植物。庭では秋の風情を演出する花として親しまれます。
  4. 和の景観に調和
    日本の寺社や庭園でよく見られ、苔むした石や竹林とともに植えられると特に映える。

花言葉:「忍耐」

由来

シュウメイギクに「忍耐」という花言葉が与えられた背景には、次のような点が関係しています。

  1. 秋の終わりまで咲き続ける姿
    夏の暑さが過ぎ、他の花が少なくなる晩秋まで、ひっそりと長く咲き続ける姿は「耐え忍ぶ力」を思わせる。
  2. 細い茎でも風雪に負けない強さ
    繊細に見える茎は意外と強く、風にしなやかに揺れながらも折れずに立つ。その姿が「忍耐心」を象徴。
  3. 厳しい環境でも根づく繁殖力
    半日陰ややせ地でもよく育ち、群生するほどの生命力を持つ。表面の儚さとは裏腹に、根の強さが「耐えて生き抜く」イメージと重なった。

忍耐の花 ―シュウメイギクの庭で―

山あいの小さな寺の庭には、秋になると白や薄紅の花が揺れていた。参道を囲む苔むした石垣の間からすっと茎を伸ばし、風に揺れながらも折れずに立つその花。人々はそれを「秋明菊」と呼んだ。

 寺に仕える若い僧、智真は、毎朝その花に水をやりながら、ふと自分の心を映すように感じていた。

 彼は数年前にこの寺へ入ったが、修行の道は険しかった。座禅では眠気に襲われ、経の朗誦では声が震え、師からは「心が揺れている」と叱責される。自ら選んだ道でありながら、心の奥では何度も「逃げ出したい」と思った。

 ある日の夕暮れ、庭の隅に立ち尽くしていると、師の老僧が近づいてきた。

 「智真、なぜ花を見つめておるのだ」

 彼は正直に打ち明けた。
 「私の心は弱く、修行に耐えられそうにありません。ですが、この花が風に揺れても折れない姿を見ると、なぜか胸が締めつけられるのです」

 老僧は静かに頷き、花を見やった。
 「秋明菊には『忍耐』という花言葉がある。その理由を知っているか」

 智真は首を横に振る。

 「この花は夏が過ぎ、他の花が散ってしまったあとも、晩秋までひっそりと咲き続ける。誰に称えられるでもなく、ただ黙って季節を耐え忍ぶのだ」

 老僧は花の細い茎を指さした。
 「見た目は儚いが、風に吹かれても雪に打たれても折れぬ強さを秘めている。しなやかに揺れるからこそ、倒れずにいられるのだ」

 そして苔の間から顔を出す新芽に目を向けた。
 「さらにこの花は、半日陰でも、やせた土でも根を張り、やがて群れとなる。外からは弱そうに見えても、根は深く強い。それが忍耐の証なのだ」

 智真は目を見開いた。自分が弱いと思っていたこと、迷いを恥じていたこと――それは折れることではなく、まだ揺れながら耐えている証かもしれない。

 その日から彼は、座禅で眠気に襲われても、ただひたすらに呼吸を数え続けた。声が震えても経を唱え続けた。揺れながらも折れない秋明菊のように。

 数年が過ぎ、智真はいつしか人々に頼られる僧となった。秋、庭の花が再び咲き揺れるころ、彼は訪れた旅人にこう語った。

 「この花は、忍耐を教えてくれます。見た目はか弱くとも、根を張り続ければ、必ず生き抜けるのです」

 旅人は深く頷き、しばらく花の群れを眺めていた。

 夕陽が庭を黄金に染める。秋明菊は風に揺れながらも、ひっそりと、けれど確かに咲き続けていた。

9月8日、13日、30日の誕生花「ゼフィランサス」

「ゼフィランサス」

varun_saaによるPixabayからの画像

基本情報

  • 学名Zephyranthes
  • 科名:ヒガンバナ科(Amaryllidaceae)
  • 原産地:アメリカ
  • 和名:サフランモドキ、タマスダレ など
  • 英名:Rain lily(レインリリー)、Fairy lily
  • 開花期:5月下旬~10月(種類による)
  • 草丈:20~30cm程度
  • 特徴:雨が降った後などに一斉に花を咲かせることから「レインリリー」と呼ばれる。

ゼフィランサスについて

特徴

  • 花の姿
    花はクロッカスや小型のユリに似た形で、6枚の花弁を放射状に広げる。白・ピンク・黄色など、品種により色合いが異なる。
  • 花の咲き方
    晴れた日に開き、曇りや夜には閉じる。雨後に一斉に花茎を伸ばして咲く様子は、可憐で清楚な印象を与える。

  • 細長く芝生のような線形で、球根から叢生して伸びる。
  • 丈夫さ
    寒さには弱いが、繁殖力が強く、庭植えにすると群生しやすい。
  • 別名「タマスダレ」
    日本では白花のゼフィランサス・カンディダが広く普及し、線形の葉に白花が群れ咲く姿を「玉簾(たますだれ)」と呼んできた。

花言葉:「汚れなき愛」

由来

ゼフィランサスに与えられた花言葉はいくつかありますが、その中でも「汚れなき愛」は代表的です。

背景

  1. 清楚な白花のイメージ
    特にタマスダレ(白花種)は、真っ白な花弁を持ちます。その純白さが「無垢」「純粋さ」を象徴し、愛の清らかさに重ねられた。
  2. 雨に洗われて咲く姿
    雨上がりに花茎を伸ばして咲くことから、「雨で清められて生まれる花」と見なされた。大地を潤す雨とともに咲く姿が「汚れなき心」を連想させる。
  3. 儚さと一途さ
    一輪一輪は数日で終わる短命の花ですが、次々と新しい花を咲かせる。その姿が「途切れない純粋な愛」を表しているとされた。

「汚れなき愛」

夏の夕立が過ぎ去ったあと、街路樹の根元に群れ咲く白い花が雨粒を抱いたまま揺れていた。ゼフィランサス――タマスダレ。通りがかる人々は気にも留めないが、志穂は足を止めずにはいられなかった。

 「……今年も、咲いたんだ」

 彼女にとってこの花は、ただの草花ではない。五年前の夏、病室の窓際に小さな鉢を置いてくれた人がいた。彼女の婚約者だった、悠人である。

 当時、志穂は病に伏し、未来を失ったかのように塞ぎ込んでいた。そんな彼女の枕元に、悠人は小さな白い花を携えて現れた。

 「ゼフィランサスっていうんだ。雨が降ったあと、一斉に咲くんだよ。清らかで、真っ直ぐで……志穂みたいな花だと思ったんだ」

 不器用な言葉に、彼女は涙を零した。儚い花なのに、毎日次々と新しい花を咲かせる。その姿が、どんな状況でも彼女を励まし続けてくれた。

 だが、その翌年。悠人は事故で突然この世を去った。志穂の隣に、彼が再び現れることはなかった。

 それでも、鉢の中のゼフィランサスは、雨のたびに白い花を咲かせた。まるで悠人がそこにいて、「生きてほしい」と語りかけているようだった。

 志穂は悲しみに押し潰されそうになりながらも、その花を枯らさぬように世話を続けた。花が咲くたびに、彼女は亡き人の声を胸に聞いた。

 「大丈夫。僕はここにいる。君をずっと見守っている」

 ――雨上がりの街角。志穂は群れ咲く白花を見つめ、静かに微笑んだ。
 「汚れなき愛」――花言葉を思い出すたびに、彼の不器用な優しさと真っ直ぐな眼差しがよみがえる。

 たとえ姿が消えても、心に宿るものは消えない。短い命を繰り返し咲かせるゼフィランサスのように、彼の愛は途切れることなく志穂を支えているのだ。

 夕陽が差し込み、花弁の雫がきらめく。志穂は深く息を吸い込み、歩き出した。
 ――この愛を胸に抱いて、今日も生きていこう。