8月16日、9月5日の誕生花「オミナエシ」

「オミナエシ」

基本情報

  • 学名Patrinia scabiosifolia
  • 科名:スイカズラ科(旧分類ではオミナエシ科)
  • 和名:オミナエシ(女郎花)
  • 原産地:日本、中国、朝鮮半島など東アジア
  • 開花期:6月~9月(温暖地では10月まで)
  • 草丈:50~150cmほど
  • 別名:ハゴロモソウ(羽衣草)、オミナエグサ

オミナエシについて

特徴

  • 花の姿
     多数の小さな黄色い花が茎の先にまとまり、ふわっとした雲のような花序をつくります。花ひとつひとつは直径3mmほどで非常に小さいですが、群れて咲くことで鮮やかな黄金色の花房となり、秋の野を彩ります。
  • 名前の由来
     「オミナエシ(女郎花)」は、女性(=オミナ)を圧倒するほど美しい花、という意味から。対比的に、男性的で力強い姿の「オトコエシ(男郎花)」も存在します(白い花)。
  • 草姿
     細長い茎をすっと伸ばし、風に揺れる軽やかな姿が特徴。日本的な「はかなさ」「繊細さ」を感じさせる野草として、古くから歌や絵に登場します。

花言葉:「美人」

オミナエシに「美人」という花言葉が与えられたのは、以下のような理由からと考えられます。

  1. 繊細で優美な姿
     小さな花がまとまって咲き、華奢で上品な雰囲気を放ちます。そのたおやかさが「美しい女性」の姿に重ねられました。
  2. 古典文学との結びつき
     『万葉集』や『源氏物語』など、古くから秋の風情とともに詠まれてきました。優雅な女性に例えられることが多く、文学的イメージが「美人」という花言葉を強めています。
  3. 名前そのものが女性を連想させる
     「女郎(おみな)」という言葉が入っており、もともと女性的な美しさを象徴する花とされてきました。

「女郎花の面影」

祖母の家の庭には、毎年、秋になると一角に黄金色の小さな花が群れて咲いた。背をすっと伸ばした茎に、無数の細やかな花が集まり、まるで小さな星座のように輝いて見えた。それがオミナエシだと知ったのは、私が十歳の頃だった。

 「これは女郎花っていうのよ。秋の七草のひとつ。花言葉は“美人”」
 祖母は縁側に腰掛けながら、そう教えてくれた。

 「美人?」と私は首をかしげた。
 「そう。小さな花が集まって、ふんわりと上品な姿になるでしょう。昔の人は、優しい女性の姿に重ねたのね」

 祖母の声はどこか楽しそうで、けれど少し寂しげでもあった。

 その後も秋ごとに、庭は黄金の光で彩られた。受験や進学で忙しくなっても、祖母が送ってくれる手紙には、必ず「今年も女郎花が咲きました」と添えられていた。

 だが、二年前に祖母は静かに世を去った。残された家はしばらく誰も住むことなく、季節が過ぎても私は足を運ぶことができなかった。

 そして今、久しぶりに訪れた庭の片隅で、オミナエシは変わらず咲き誇っていた。荒れた庭の中で、そこだけがまるで時間を止めたかのように、黄金色の小花を風に揺らしている。

 「……おばあちゃん」

 思わず声に出すと、胸が熱くなった。小さな花たちが寄り添い合う姿は、祖母の面影と重なった。祖母は派手な人ではなかった。背筋を伸ばし、静かに微笑み、家族を支えることを何より大切にしていた。その姿は決して人目を引く美貌ではないのに、振り返れば誰よりも「美しい人」だったと思う。

 私はしゃがみ込み、花にそっと触れた。指先に触れるのは儚く柔らかな茎。それでも根を張り、季節ごとに必ず咲き続ける強さを秘めている。

 「美人ってね、顔のことだけじゃないの」
 ふいに、祖母の言葉が蘇る。
 「人の心を優しくする人。それも立派な美人なのよ」

 その言葉に導かれるように、私は小さな花をひと枝手折った。瓶に挿せば、きっと祖母の笑顔が浮かぶだろう。

 縁側に座り、秋の風に揺れるオミナエシを眺める。無数の花は、それぞれが控えめで、ひとつひとつでは目立たない。それでも集まることで輝きを放ち、人の心に深く残る。

 ――祖母の生き方そのものだ。

 私は静かに目を閉じた。黄金色の花の群れが、胸の奥にやわらかな温もりを広げていく。これから先、どれほど時が過ぎても、この庭に咲くオミナエシを見るたびに、私は「美人」という言葉の本当の意味を思い出すだろう。

 そして、祖母の面影と共に。

8月24日、29日、9月5日の誕生花「ケイトウ」

「ケイトウ」

基本情報

  • 学名Celosia argentea
  • 英名:Cockscomb(トサカの意味)、Woolflower など
  • 分類:ヒユ科・ケイトウ属
  • 原産地:インド・熱帯アジア
  • 開花期:7月〜11月(夏から秋にかけて)
  • 花色:赤、ピンク、黄色、オレンジ、白、緑など多彩
  • 特徴的な形態:花序がニワトリのトサカに似る種類(トサカケイトウ)、羽毛のようにふわふわした種類(羽毛ケイトウ)、穂のように直立する種類(久留米ケイトウ)など、様々な形がある。

ケイトウについて

特徴

  1. 独特な花姿
    • トサカ状や羽毛状など、他の花にはないユニークなフォルムを持つ。
    • ベルベットのような質感を持つ花もあり、視覚的にも触覚的にも特徴的。
  2. 強い生命力
    • 夏の暑さや乾燥にも強く、育てやすい一年草。
    • 花もちが良く、切り花やドライフラワーにも重宝される。
  3. 日本との関わり
    • 古くから日本で親しまれ、江戸時代には品種改良が盛んに行われた。
    • 「久留米ケイトウ」など地域ブランドもある。

花言葉:「個性」

イトウに「個性」という花言葉が与えられたのは、その唯一無二の姿と深く関係しています。

  • トサカや羽毛のような形
    一般的な「花」のイメージから大きく外れ、動物や羽毛を連想させる奇抜な花姿。
  • 多彩なバリエーション
    色も形も多様で、同じケイトウでも印象が大きく異なる。
  • 群を抜いて目立つ存在感
    花壇の中でも強烈に視線を集める姿が「自分らしさを貫く」「他と違う魅力」と結びつけられた。

このように、他にない独創的な形状と色彩が「個性」という花言葉の背景になっています。


「花壇の片隅のケイトウ」

夏の午後、校舎裏の花壇はひときわ鮮やかだった。ひまわりやマリーゴールドが並ぶ中、ひときわ奇妙な形の花が混ざっている。赤紫のトサカのようにねじれた花弁、黄金色に羽毛のように広がる花穂。まるで他の花々とはまったく違う存在感で、群れの中に立っていた。
 ケイトウ――「鶏頭」と呼ばれる花だ。

 沙希はその花の前で足を止めた。
 「やっぱり、ちょっと変だよね」
 思わず口にすると、隣のクラスメイトの直人が笑った。
 「変っていうか……すごい目立つよな。あいつだけ全然違うもんな」

 沙希はうつむいた。彼女の胸の奥に、その言葉が妙に突き刺さる。自分もまた、教室の中で「違う」と言われる存在だったからだ。声が小さく、好きなものも他のみんなと噛み合わない。絵を描くことが何より好きなのに、部活動の勧誘で声をかけてくる運動部にはどうしても馴染めなかった。
 「沙希って、変わってるよな」
 笑いながら言われるその一言が、どれほど胸に重くのしかかっていたか。

 けれど目の前のケイトウは、まるでそんな言葉を気にも留めないように、陽の光を浴びて誇らしげに咲いている。
 「……どうしてだろう。変なのに、きれい」
 沙希がつぶやくと、直人が首をかしげた。
 「きれい? 普通の花の方がよっぽど整ってるじゃん」
 「うん。でも、ケイトウは……他の花にはない形をしてるでしょ。だから目が離せないんだと思う」

 自分でも不思議だった。これまで「変」と言われることを恐れ、目立たないように過ごしてきた。けれどケイトウを見ていると、変わっていることが「弱さ」ではなく「力」なのではないかと感じられてくる。
 花壇の中で埋もれもせず、堂々と立ち、強烈な存在感を放っている。
 「自分らしさを貫くって、こういうことなのかな……」

 次の日、沙希はスケッチブックを持って花壇に向かった。クレヨンで描くケイトウの赤や黄は、他の花よりもずっと生き生きと画面に広がっていく。花の凹凸に沿って濃淡をつけると、ベルベットのような質感まで浮かび上がる。
 夢中で描いていると、ふいに背後から声がした。


 「うまいな、沙希」
 振り向くと直人が覗き込んでいた。
 「ケイトウって、やっぱり変だと思ってたけど……絵にするとカッコいいな」
 彼の素直な言葉に、沙希の胸に温かいものが広がった。

 その瞬間、彼女は気づいた。
 変わっていることは、恥ずかしいことではない。
 「個性」――ケイトウの花言葉に与えられたその言葉が、ようやく自分の中にしっくりと落ちてきたのだった。

 秋風が吹く頃、花壇のケイトウはさらに色濃く燃え上がり、まるで「ここにいる」と誇らしげに主張していた。沙希もまた、スケッチブックを胸に抱えながら、小さな声でつぶやいた。
 「私も、私のままで咲いていいんだ」