「ムクゲ」

🌺 基本情報
- 和名:ムクゲ(木槿)
- 学名:Hibiscus syriacus
- 英名:Rose of Sharon
- 科名:アオイ科
- 属名:フヨウ属(Hibiscus)
- 原産地:中国
- 開花時期:7月~9月
- 樹高:1~3mほどの落葉低木
ムクゲについて

🌿 特徴
- 花色の多様性:白、ピンク、紫、青紫などがあり、一重咲きや八重咲きの品種も存在。
- 一日花:1つの花は基本的に1日でしぼみますが、次々に新しい花を咲かせるため長く楽しめる。
- 丈夫で育てやすい:暑さや乾燥に強く、庭木や街路樹、公園などでも多く植えられる。
- 象徴的存在:
- 韓国の国花としても有名(韓国語では「ムグンファ/무궁화」)。
- 日本でも夏の風物詩として親しまれる。
花言葉:「純粋な愛」

ひたむきに咲き続ける性質:1日でしぼんでしまう花にもかかわらず、毎日新しい花を次々に咲かせる姿は、あきらめずに相手を思い続ける「純粋な愛」や「永遠の愛情」を象徴しています。
見た目の清らかさ:白や淡い色の花びらは、清楚で控えめな印象を与えるため、「無垢」や「純粋さ」をイメージさせます。
「一日花の約束」

駅前の小さな花屋で、彼女はムクゲの鉢植えを選んでいた。
「これ、誰に贈るの?」
店主の老婆が笑顔で尋ねると、彼女は少し照れたように言った。
「……七回目の命日なんです。彼に」
***
大学時代、彼と彼女は同じサークルで出会った。暑い夏の昼下がり、彼が汗をぬぐいながら言ったのを、彼女はいまでも覚えている。
「この時期って、いつもムクゲが咲いてるよな」
それが、彼の初めての言葉だった。

「ムクゲって知ってる? 一日でしぼんじゃうけど、また明日咲くんだよ。強くて、健気で、なんか……いいよな」
それから彼女はムクゲを見るたびに、彼の言葉を思い出すようになった。彼は不器用だけど誠実な人だった。何事にもまっすぐで、優しかった。そして、突然いなくなった。
事故だった。信号無視の車に巻き込まれ、彼は帰らぬ人となった。彼女はしばらく何も考えられなかった。けれど、彼の部屋に飾られていた小さなメモが、彼女の心を少しずつ動かしていった。

そのメモには、こう書かれていた。
「来年の夏、ムクゲを見に行こう。○○公園、朝の8時、約束な」
日付は、彼が亡くなった翌年の7月15日だった。
彼女はその日、○○公園に行った。彼の姿はもちろんなかったけれど、そこには満開のムクゲが風に揺れていた。白、ピンク、淡紫色――まるで彼が言った通り、強くて、健気に咲いていた。
それから彼女は、毎年その日、その場所にムクゲを持って行くようになった。
***

花屋の老婆は鉢植えに水をやりながら、ふとつぶやいた。
「ムクゲの花言葉、知ってる?」
「はい。『純粋な愛』ですよね」
彼女は微笑んだ。
「一日しか咲かないけど、また必ず咲く。まるで……会えなくても、心だけはずっとつながってるみたいで」
老婆はうなずき、優しく花を包んだ。
「それはね、本当に誰かを思ってる人にしか似合わない花だよ」
彼女は鉢植えを大事そうに抱え、ゆっくりと公園へ向かった。
ムクゲの花は今日もひとつ、静かに咲いていた。たった一日だけれど、その命の輝きは、永遠を信じる心とともにあった。