「タイサンボク」

基本情報
- 和名:タイサンボク(泰山木)
- 学名:Magnolia grandiflora
- 英名:Southern magnolia
- 科名/属名:モクレン科/モクレン属
- 原産地:北アメリカ南部(アメリカ合衆国南部)
- 分類:常緑高木
- 開花時期:6月~7月(地域によって差あり)
タイサンボクについて

特徴
- 樹高:10〜20メートルを超えることもあり、大木になる。
- 葉:革のように厚く光沢があり、裏は茶褐色の毛で覆われている。
- 花:
- 非常に大きく、直径20〜30cmほど。
- 白く芳香があり、モクレン科の中でも特に美しいとされる。
- 1つの花は短命(2〜3日)だが、次々と咲く。
- 用途:
- 公園や庭園のシンボルツリー、街路樹として植えられる。
- 花の美しさや香りが評価され、観賞用として人気。
花言葉:「前途洋洋」

花言葉:「前途洋洋(ぜんとようよう)」
意味は「未来が明るく、希望に満ちていること」。
由来:
- タイサンボクは大きく育つ堂々とした木で、長寿かつ力強い印象があります。
- 巨大で清らかな白い花を空に向かって咲かせる様子が、希望にあふれた未来や前向きな成長を象徴します。
- 「洋洋」は「水が広く流れる様」「前方に広がる」という意味を持ち、タイサンボクの堂々たる姿や生命力と重ねられたと考えられています。
「白い花の約束」

1
六月の終わり、蒸し暑い風が校庭を抜ける午後。
卒業式を終えたばかりの制服姿の少女、夏海(なつみ)は、校庭の隅にそびえる一本の大木の下に立っていた。
その木はタイサンボクと呼ばれ、白い花を空に向かって誇らしげに咲かせていた。まるで祝福の鐘のように、静かに、しかし確かな存在感を放っていた。
「きれい……」
思わずつぶやくと、横から声がした。
「タイサンボクって言うんだよ。花言葉は、たしか『前途洋洋』だったかな」
声の主は、同じクラスの男子、遥人(はると)だった。勉強も運動も普通だけれど、なぜか目を引く、不思議な落ち着きを持つ少年だ。

「……前途洋洋?」
「うん。未来が明るくて、希望に満ちてるって意味」
遥人は空を見上げ、白い花をじっと見つめた。その瞳に何かを重ねるように。
「大きな花なのに、すぐに散っちゃうんだ。でも、またすぐ次の花が咲く。タイサンボクって、そんな木なんだよ」
その言葉が、夏海の心に静かに染みていく。
2
夏海の家は古い旅館を営んでいたが、数年前に母を亡くしてから経営が傾き、今は廃業の危機にある。
父は黙々と働くが、口数は減り、家の中はいつも重苦しかった。
進路をどうするか、夏海はずっと悩んでいた。東京の大学に行く夢もあったが、家のことを考えると、地元に残るべきではないかと、迷い続けていた。
そんな中での卒業式、そして遥人の言葉。

「また次の花が咲く」
その言葉が、まるで未来の約束のように思えた。
3
それから数日後、夏海はもう一度タイサンボクの木の下を訪れた。風に揺れる葉と、すでにいくつかの花は散り、代わりに蕾がいくつも枝についていた。
「ねえ、夏海」
また遥人が現れた。少し照れくさそうに立つ彼は、封筒を差し出す。
「これ、手紙。大学、受けることにしたって聞いて、応援したくて」
夏海は驚いた。誰にも言っていないつもりだったのに。
「……なんで知ってるの?」

「タイサンボクが教えてくれたんだよ。君が前を向いたこと」
冗談のように笑う遥人の目は、真っ直ぐだった。
夏海は封筒を受け取り、そっと胸に当てた。
4
そして一年後。
東京の大学のキャンパスで、夏海は満開の白い花に再会した。
校庭の片隅に植えられたタイサンボクが、都会の空に向かって堂々と咲いていた。
その下で彼女は、ノートを広げ、手紙を書いていた。
「遥人へ」
「私は今、自分の道を歩いています。前途洋洋。あなたの言葉が、私の一歩を照らしました。ありがとう。今度は、あなたの花が咲く番です」